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「アメリカのエタンがあるから大丈夫」という最大の盲点。 レジ袋は作っても、自動車やスマホは作れない


読者より以下の趣旨のメールをいただきました。
ご連絡ありがとうございます。また、いつも弊記事を読んでいただき、重ねて御礼申し上げます。

「米国製WTIなどの軽質原油は、ナフサやガソリンが得られやすい逆に、価格が高めです。一方、中東(UAEやドバイ)の中質原油は、脱硫などの処理設備が必要ですが、灯油や軽油などの中間留分を確保できます。なお、米国は化学製品のかなりの部分を、シェールガス副産物の安価なエタンでまかとなっており、コスト的にも有利なようです。」

いただいたご意見は、技術的にも非常に正確で、まさにおっしゃる通りです。「中東産ナフサが来ないとスマホが作れない」という私の議論に対して、「米国産WTIやシェールガス由来のエタンという代替があり、日本の製油所の調整問題はコストや設備の課題であって『絶対に来ない』こととは別だ」というご指摘は、その通りだと思います。

結論から申し上げると、ご意見に全面的に同意します。

では、なぜ私は『中東ナフサが来ない』と強調するのか」という背景を、タイトル図(クラッカー別留分比較)も使いながらご説明させてください。これは、世間一般に全く知られていない「もう一つの事実」だからです。

1. ご指摘の通りです:代替原料は「技術的には」存在する

おっしゃるように、米国産の軽質原油(WTI)や、シェールガス由来のエタンからも、ナフサやエチレンは作れます。実際に、米国では既にそれが大規模に行われています。

しかし、問題は「代替が技術的に可能か」ではなく、「その代替原料が、日本の現在のインフラに『必要な量』『必要なタイミング』で、『持続可能な価格』で来るのか」という現実的な供給構造です。

2. タイトル図の「クラッカー別留分比較」が示す決定的な違い

図の通り、エタンクラッカーとナフサクラッカーでは、得られる「留分(製品の種類)」が根本的に異なります。

エタンクラッカー (米国型)ナフサクラッカー (中東・日本型)主原料シェールガス由来のエタン原油由来のナフサ得られる主製品エチレン(約80%)
プロピレン(ごく少量)BTX(ベンゼン・トルエン・キシレン)
プロピレン、ブタジエンなど多様スマホへの影響プラスチック(汎用品)は作れる半導体製造に必須の「芳香族」が取れない

つまり、エタンクラッカーでは、スマホのABFフィルムやフォトレジストに必須の「ベンゼン」「トルエン」「キシレン」(BTX)を実質的に作ることができません。

これは「技術の良し悪し」ではなく、「分子構造上の絶対的な制約」です。エタンからはBTXの元になる「芳香族」がほとんど取れない。だから、いくら米国から安いエタンを輸入しても、日本の半導体・スマホ製造の根幹を支える「芳香族」不足は解消されないのです。

3. その結果、何が起きるか?

ここが最も重要で、世間がまったく認識していない部分です。

  1. 日本は、中東産ナフサからBTXを取ることに最適化された設備で動いている

  2. その中東ナフサが来なくなった時、代替になり得る米国産の軽質原油やエタンでは、必要なBTXが取れない

  3. よって、日本の「半導体・スマホ製造」に直結する芳香族(BTX)の供給は、ストップする

「中東ナフサが来ない」というのは、原油そのものの絶対量ではなく、「スマホ製造に不可欠な特定の留分(芳香族)」が、現在の日本のインフラでは中東産に依存せざるを得ない構造だということを指しているのです。

結論

メールのご指摘は、技術的・経済的観点からは完全に正しいです。 そして、多くの人はその「正しさ」で満足してしまい、その先にある「じゃあ、その代替原料でスマホに必須のBTXは取れるのか?」という問いをしません。

私は、その「誰も問わない次の問い」を提示したかったのです。

ご指摘のおかげで、「多くの人がなぜこの問題を陰謀論だと感じてしまうのか」、その理由がはっきりと見えました。「技術論として正しいこと」と「現実の供給構造として起こること」の間にある、深い溝を埋める説明が圧倒的に不足していたのです。

この溝を埋めるために、この記事を書きました。

ご意見、本当にありがとうございました。おかげで、議論は一段深くなりました。また何かお気づきの点があれば、ぜひお教えください。今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。

なお、この世間一般に知られていない事実の結果、何が起きるかについてはこの本で詳述していますのでお読みください。

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