『超一流ヴィランの俺様だが貴様らがどうしてもというならヒーローになってやらんこともない!』第1話 【創作大賞2024・漫画原作部門応募作】
あらすじ
若くして広大な銀河にその名を轟かす、超一流のヴィランの青年、ジンライ。
漆黒のパワードスーツに身を包み、幾つもの堅固な宇宙要塞を陥落させ、数多の屈強な種族を倒してきた、そのヴィランに課せられた新たな任務の目的地は、太陽系第三番惑星、地球。
広い銀河においては単なる辺境の惑星に過ぎないと思われた星を訪れた時、青年の数奇な運命が動き出す……。
一癖も二癖もある、常識外れのニューヒーロー、ここに誕生!
本編
1
「ふん……あれが地球か……」
暗い宇宙空間をゆっくりと進む大きな宇宙船が一隻。その船の船長室の壁面一杯をスクリーン代わりにし、そこに映った地球を見た男が呟く。男は手元の端末を手際良く操作する。
「……地球、太陽系の第三番惑星。太陽系の誕生とほぼ同時に形成されたとみられ、約46億年が経過。直径1万2756キロメートル。地表の70%が海で覆われていて。大気の成分は窒素が77%、酸素が21%。存在する生命体はおよそ870万種類と推定……」
端末から流れる機械音声を切って、男が再び呟く。
「自然破壊が深刻とか言っていたが……あの青さ……そこまででもなさそうだな……」
男は再び手元の端末を操作すると、部屋の床からバスタブがせり出してきた。男は既に全裸である。筋骨隆々というわけではないが、程よく鍛えられた体つきをしている。
「温度、38℃。適正温度を維持……」
再び機械音声が流れると、男は満足気に笑みを浮かべる。若干のあどけなさを残してはいるが、非常に端正な男らしい顔つきをしている。笑顔からも伺えるように、大胆不敵な雰囲気を醸し出している。長すぎず、短すぎない黒髪をかき上げながら男はバスタブにその体をゆっくりと浸からせる。体も顔も、地球の人類とほぼ変わりなく見える。
「~~♪」
男は頷く。良い湯加減のようだ。壁面には相変わらず地球が大きく映し出されている。
「……これから俺様のものとなる星を眺めながらの入浴というのはやはり格別だ……」
男は地球と向かい合うような形で入浴している。
「しかし……わざわざ俺様が出張ってくるほどの価値がある星なのか? ここまで接近しているというのに、許しを乞いに通信してくるでもなく、ましてや迎撃しようという動きも見られない……まさか、監視衛星の一つも満足に設置出来ないのか?」
男は呆れ気味に笑い、首を左右に振る。
「まさに辺境の蛮族が住む星ではないか。義父上……皇帝陛下は一体何をお考えになって、俺様を派遣されたのか……そうか」
男は納得したように頷く。
「ゆっくりと体を休めよという心遣いなのだな、まことにありがたいことだ……」
男はバスタブに背中を付け、部屋の天井を見上げて呟く。
「こんな星などさっさと制圧し、陛下の心遣いに甘えさせてもらうとするか……!」
部屋のスライドドアが開き、武装した兵士たちがドカドカと数人入ってくる。
「何だ? 報告があるなら通信を使え、俺様がバスタイムを邪魔されるのがなによりも嫌いだというのは知っているだろう?」
「……」
「なっ⁉」
兵士たちの内の一人が右手をスッと上げると、兵士たちが銃を撃ち始めた。男はすぐさま、バスタブから飛び出し、その陰に身を隠す。
「くっ⁉ このっ!」
「⁉」
男は自分の倍以上あるバスタブを持ち上げ、兵士たちに向かって投げつける。
「どわっ⁉」
「な、なんという力……スーツを着ていないというのに⁉」
「怯むな!」
バスタブが割れ、お湯が流れ出し、煙がもくもくと上がるなか、男は自らの執務机の上に雑に脱ぎ捨ててあった黒いスーツを手に取る。
「スーツを着用させるな! 撃て!」
「ちぃっ!」
一瞬の混乱から平静を取り戻した兵士たちは射撃を再開する。男はスーツを持ったまま、裸で部屋を飛び出す。
「追え、追え!」
「な、なんだというのだ! はっ⁉」
通路を素っ裸で走る男は、自らの副官を務める者が立っているのを確認する。
「アマザ! 反乱だ! 即刻鎮圧せよ!」
「……」
タコのような顔の、男とは違った種族と思われる、アマザと呼ばれた者は沈黙している。
「何を黙っている⁉」
「ジンライ様……漆黒のパワードスーツに身を包み、幾つもの堅固な宇宙要塞を陥落させ、数多の屈強な種族を倒してきた……若くして銀河に名を轟かす、超一流のヴィラン……」
「なんだ⁉ 急に褒めそやしても給料アップくらいしかしてやれんぞ!」
「きゅ、給料アップ……?」
アマザはごくりと唾を飲み込む。
「反乱を鎮圧しろ! 俺様に銃を向けるということは皇帝陛下に対する反逆と同じだ!」
「……残念ながら、皇帝陛下には違った形で御報告を奏上いたします」
「何⁉」
「『ジンライ様は辺境の星で蛮族の奇襲を受け、名誉の戦死を遂げられた』と……」
「なっ⁉ ⁉」
ジンライと呼ばれた男は信じられないという表情を浮かべる。すると、通路の前後に兵士たちが詰めかけ、銃を構える。アマザは後方に下がると、兵士たちに告げる。
「撃て……」
「くそ!」
ジンライは通路の壁の汚れた部分をドンと叩く。すると壁が横にスライドし、ジンライはその中に飛び込む。アマザは驚く。
「な、何⁉ あ、あれは予備の緊急脱出用ポッド! 闇雲に逃げているだけかと思ったら、しっかりと把握していたのか! 全く小賢しい奴め!」
壁が元に戻る。兵士たちが壁に向かって銃撃をくわえる。ポッドに立てこもったジンライは舌打ちしながら、考えをまとめる。
(ちっ! 艦内は全て敵! こんな辺境への任務、おかしいと思っていたが、始めから仕組まれていたのだ! 恐らく、俺様の地位を妬んだ者の企みだろう! 誰の仕業だ……だ、駄目だ! 心当たりがあり過ぎる! ⁉)
ポッドのドアに穴が開きそうになる。このままでは蜂の巣である。
(スーツを着用すれば! こんな雑魚どもなど! ……ど、どうした⁉ スーツが着用出来ん! こんな時に故障か⁉)
銃撃は続く。ジンライはポッドを起動させ、宇宙船から切り離す。
(太陽系の端まで逃げれば、あいつの乗る船も航行しているはず! そこで体勢を立て直し、反逆者どもを一気に始末してやる! 見ておれよ!)
ジンライはモニターを確認するが首を捻る。
「きゅ、旧式過ぎて、詳しい操作が分からん! 航路の設定はどうするのだ⁉ これか⁉」
「……」
「くっ、なにか反応しろ!」
「……反応を感知」
機械音声が流れる。ジンライは笑みを浮かべる。
「音声認識か⁉ よ、よし! 航路を伝える!」
「強いエネルギー反応を感知。そこまでフルスピードで向かいます……」
「はっ⁉ な、なにを勝手に決めている! どわっ⁉」
ポッドが急に速度を上げて動き始める。
「航行速度、さらに上昇可能……」
「ど、どこに向かうつもりだ⁉」
「北緯41度、東経140度……」
「ど、どこの座標だ⁉」
「地球、日本国北海道函館市……」
「はあっ⁉ 地球だと⁉」
そこから僅かな時間でポッドは地球に降り立った。ほとんど墜落に近い形であったが。落下の衝撃でジンライはポッドから投げ出された。
「ぐっ……こ、ここは?」
ジンライが立ち上がって顔を上げると、そこには裸の女性が立っていた。女性が叫ぶ。
「きゃ、きゃあああ⁉ 痴漢!」
「どおっ⁉」
ジンライは頬を思いっ切りビンタされ、気を失って倒れ込んだ。
「ん……」
「お、気が付いたかね」
「?」
「ちょうどご飯も出来た、食卓を囲もうじゃないか」
「……」
ジンライは警戒しながら、ゆっくりと立ち上がって、隣接する部屋に移る。白髪で豊かな髭を蓄え、よれよれの白衣を着た穏やかそうな初老の男性と、黒髪ロングで眼鏡を掛けた女の子が丸い木製のテーブルを囲んでいる。その様子を眺めながら、ジンライは自分が素っ裸でないということに気が付き、身に付けている衣服をつまんで引っ張る。
「ああ、その黒いのはジャージだ、僕のお古だけどね。あ、下着は新品だよ」
「なんで、私がそれを買いに行かなきゃいけないのよ……」
女の子は不満そうに呟く。ジンライはテーブルの上に並んだ料理を見て考える。
(衣服もきちんと着用し、食料もしっかりと調理し、食器に盛っている……文明・文化のレベルは思ったよりも蛮族ではなさそうだな……)
「? どうした、座ったらどうだい」
「……」
ジンライは二人の間にドカッと腰を下ろす。料理をじっと見つめる。
「さあ食べよう、いただきます」
「いただきます……」
二人は料理を食べ始める。ジンライは目を細める。
(毒でも盛っているかと思ったが、そうでもないようだな……しかし、俺様を拘束もしないとは……こいつらの狙いが分からん……!)
ぐうっとジンライの腹の虫が大きく鳴る。男性が笑う。
「はははっ、そういうものは万国、いや、万星共通かな? 遠慮しないで食べなさい」
「ふん……」
ジンライは二人の見よう見まねながら、箸を器用に扱い、料理を口に運ぶ。
(毒ならばジョミール星人の件で多少ではあるが耐性がある……今は栄養を補給し、頭を働かすべきときだ……ん?)
「旨いな……」
「そりゃあそうでしょ、私が作ったんだから」
ジンライの言葉に女の子が胸を張る。
「どんどん食べなさい、君には色々と聞きたいことがあるからね」
「って、おじいちゃん、本当にこいつを警察に突き出さないの?」
「? 彼は何も悪いことはしてないだろう?」
「思いっ切りお風呂を覗かれたわよ!」
「あれは事故みたいなものだろう」
「みたいなじゃなくて事故! 家が壊れたのよ⁉ 尚更警察沙汰でしょう!」
ジンライは二人のやりとりを聞きながら考える。
(警察機構は存在するのか……ならば何故に通報しない? 個人的に尋問する気か? しかし、料理に毒やしびれ薬の類は入っていないようだが……俺様が暴れたらどうするつもりだ? さらに奇妙なことだが……)
ジンライは顎に手をやる。
(何故にこいつらの話していることが分かるのだ? 言語に関しては幼少期から睡眠学習でありとあらゆる言語を叩き込まれているが、地球の言葉など学んだ覚えが無い……)
「まあ、とにかく食べよう、君も……も、もう食べたのか、早いね……」
「……なかなかの味であった。貴様、良い腕をしているな」
「き、貴様って……上から目線なのが気に食わないけど……どうも」
女の子は軽く頭を下げる。食事を終えた男性がジンライに問いかける。
「……では少し良いかな?」
「……これは尋問ということか?」
「い、いやいやそんなに大げさなものじゃないよ。お話をしようということだよ」
「黙秘権を行使しても構わんのだな?」
「ま、まあ、答えたくないなら無理に答えなくても良いよ」
「そうか……」
「まず君の名前は?」
「……」
「いきなり黙秘⁉」
女の子が驚く。男性は笑いながら後頭部を掻く。
「ああ、まずこちらから名乗るのが礼儀だったね。私は疾風大二郎(はやてだいじろう)。科学者をやっている」
「科学者……」
「冴えない三流だけどね」
「だろうな、その服を見れば大方の察しはつく」
「ちょっと! おじいちゃんは超一流よ!」
女の子が机に両手を突いて怒る。大二郎はそれを落ち着かせる。
「まあまあ、こちらは孫娘の疾風舞(はやてまい)。高校2年生だ」
「ふん……」
「な、なによ……」
ジンライは舞をあらためて見つめて呟く。
「結構な美人だな」
「なっ⁉ ほ、褒めても何も出ないわよ!」
「そんなつもりではない。本心で言っている」
ジンライは舞から顔を逸らさずに告げる。目鼻立ちのくっきりとしたルックスである。意志の強そうな眼差しがジンライの印象に残った。
「はははっ、祖父の僕が言うのもなんだけど、それは同感だ。僕や息子に似なくて良かったよ。話によると、高校でも相当モテているみたいだからね」
「お、おじいちゃん! い、今はそんな話は良いでしょ!」
「うむ……それでは君の名前を教えてくれるかな?」
ジンライはおもむろに立ち上がって叫ぶ。
「漆黒のパワードスーツに身を包み、幾つもの堅固な宇宙要塞を陥落させ、数多の屈強な種族を倒してきた、ドイタール帝国第十三艦隊特殊独立部隊部隊長、『超一流のヴィラン』、ジンライとは俺様のことだ!」
「「……」」
「な、なんだ、その薄いリアクションは⁉」
「アンタ、私と同い年くらいでしょう? いい加減そういうの卒業したら? もうそろそろ皆、今後の進路について考える年頃なのよ?」
「なっ……貴様、まさか信じていないのか⁉」
「ジャージ姿の奴がなんたら帝国の特殊部隊長って言ってもねえ……」
「こ、これは貴様らが勝手に着せたのだろうが!」
「まあまあ、落ち着いてジンライ君。僕は信じるよ。だから座って」
「ふ、ふん、孫娘と違って多少は賢明だな、流石年寄りだ」
「年寄りって言うな!」
「年寄りは年寄りだろう!」
「ええと、勝手ながら君の乗ってきたポッドを解析させてもらっているのだけど……」
「解析? 出来るのか?」
「ある程度だけどね……君が宇宙から来たというのはあのポッドを見てもよく分かる」
「……」
「なによ、いきなり黙り込んで」
「……例えばだが、あれを修理することは出来るか?」
「修理か……それならもっと詳しく解析させてもらえるかな?」
「構わん、好きにしろ」
「ありがとう! いやあ、未知の技術に触れるなんて、科学者冥利に尽きるよ!」
大二郎の答えにジンライはフッと笑う。
(宇宙は広いが科学者というのはどこも同じだな……精々利用させてもらおう)
「そうと決まったら、研究室に行ってくるよ!」
「ちょ、ちょっとおじいちゃん! コイツはどうするのよ⁉」
「舞、耳を貸して……」
大二郎は舞に耳打ちする。
「……⁉ まさか、そんな⁉」
「まだ予想にしか過ぎないけどね、じゃあ、そこんとこよろしく」
「ちょ、ちょっと……しょうがないわね」
「?」
「え、えっと、ジンライだっけ?」
「よ、呼び捨て⁉ 銀河に名を知られた俺様を……!」
「ああ、そういうのいいからいいから。ちょっと食後の散歩でもしましょう」
ジンライと舞は家の外に出る。ジンライは訝しむ。
(外に出して、もし俺様が逃げ出したらどうするつもりなのだ……?)
「あのポッド?が直らないとアンタも困るんでしょ? だから逃げたりはしないはず」
「なっ⁉ き、貴様、心が読める種族か⁉」
「大体考えそうなことくらい分かるっつーの」
「むっ……」
「まあ、さっさと逃げて欲しいくらいだけどね……これ以上面倒事が増えるのは御免だわ」
舞は庭先の妙な箱に腰掛け、ため息交じりで呟く。
「面倒事?」
「色々あんのよ……」
ジンライはあらためて家屋を見る。大きな看板が目に入る。
「『NSP研究所』? とても研究施設のようには見えないが……」
「土地を新たに用意するお金が無いの……だからこその自宅兼研究所」
舞の答えにジンライは鼻で笑う。
「ふん、大した研究ではないということか」
「そんなこと無いわ!」
舞は立ち上がって叫ぶ。ジンライが戸惑う。
「な、なんだ……」
「おじいちゃんの行っている研究はこの地球の未来を左右するほど重要なものよ!」
「とてもそうは思えんが……⁉」
突如爆音が響く。ジンライは気配を察し、そちらに目をやると、虹色の派手なタイツに身を包んだ者たちが庭先に飛び込んでくる。
「来たわね!」
「な、なんだコイツらは⁉」
「世界征服を目論む悪の秘密結社『レポルー』の戦闘員たちよ! NSPを狙っていつも庭先で好き勝手に暴れ回るの! もう日常茶飯事よ!」
「日常的に秘密結社が庭先に来るのか⁉」
ジンライは驚く。
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