脳性麻痺児の歩行を変える“本当の体幹の使い方”―研究と臨床から考える歩行改善のための介入方法―
脳性麻痺の子どもの歩行を思い浮かべてみてください。
体幹が一緒に固まって動いたり、左右への動きが大きかったり、腰椎の前弯が強かったりと特徴的な体幹の使い方が見られることが多いはずです。
実際、「体幹機能に課題がある」と判断して介入している理学療法士も少なくないと思います。ただ、腹筋運動・背筋運動・プランクなど“筋トレだけ”で終わっている場合、それは十分ではないかもしれません。
脳性麻痺の子ども(特に痙直型)の体幹の問題は独特で、ポイントを外すと「効いている感じはあるのに歩行の改善に繋がらない」状態になりがちです。

この記事では
①体幹に起きやすい問題
②歩行への影響
③評価と介入の組み立て方
を、臨床で使える形でわかりやすく整理します。
1. 脳性麻痺児は歩行時に体幹が「ねじれ」にくい
私たちが自然に歩くとき、胸郭と骨盤は、互いに逆方向へねじれるように動いています。この体幹の「ねじれ」は、歩行中に生じる回転の力をうまく打ち消し合い、転びにくさやエネルギー効率のよさを生み出しています(西守・伊藤, 2006)。
一方、脳性麻痺(痙直型両麻痺)の子どもでは、
・胸郭と骨盤が一体となって動く
・胸郭が骨盤に対して逆方向に動かず、分離して使えない
といった特徴がよく見られます(図1)。これはブロックパターンと呼ばれる歩き方です(Tavernese et al., 2016)。

ここで重要なのは、このブロックパターンを単純に「体幹が硬いから」「体幹が弱いから」と捉えないことです。臨床的には、転倒を防ぐために、あえて身体を固めている代償的な戦略と考える方が理解しやすい場合が多くあります。
2. 脳性麻痺児の体幹で起きやすい問題
脳性麻痺児の体幹の問題は、単に「筋の過緊張」や「筋力の弱さ」という言葉では説明しきれません。とくに痙直型両麻痺では、姿勢を保とうとする際の筋の使い方そのものに特徴があることが分かっています。
実際、痙直型両麻痺児では、外からの揺れや自分の動きによって姿勢が乱れそうになると、多くの筋を同時に働かせる「共同収縮」を取りやすいことが報告されています(Kawaguchi et al., 2024)。
さらに、必要な場面で筋活動を弱める、いわゆる「抑制」がうまく働かず、不要な筋まで活動し続けてしまう、抑制性の予測的姿勢制御(APA)の難しさも指摘されています(Tomita et al., 2013)。
このような背景の中で、臨床的には次の2つの問題がセットで起こりやすい印象があります。
1つ目は、体幹と骨盤を別々に動かすことが苦手な点です。歩行中の体幹には、「全体を固める」だけでなく、ある部分は安定させながら、別の部分は動かすという分節的なコントロールが求められます。しかし脳性麻痺児ではこの切り分けが難しく、結果として体を固める方向に偏り、ブロックパターンのような動きになりやすくなります。
2つ目は、体幹が不安定になると筋緊張が上がり、下肢の動きまで固くなってしまうことです。姿勢を守ろうとするほど緊張が高まり、下肢の分離運動が出にくくなったり、動きがぎこちなくなったりして、バランスはさらに不安定になります。
このように、筋の協調的な切り替えが難しい状況では、「とにかく固めて安全を確保する」という戦略が選ばれやすくなります。その結果、本来あるべき体幹のねじれが失われ、歩行が非効率になっている可能性があるのです。
3. 体幹機能と歩行って本当に関係ある?(Balzerらの報告)
Julia Balzerら(2018)は、痙直型の脳性麻痺児52名を対象に、歩行課題の成績と身体機能がどのように関係しているかを検討しました。歩行の評価には、立ち上がりから歩行、方向転換、再び着座するまでにかかる時間を測るTUGを用い、体幹機能の評価にはTCMS(図2)を使用しています。

結果をシンプルに言うと、体幹機能が高い子どもほど、TUGの所要時間が短く、歩行課題をよりスムーズに行えていることが明確に示されました。つまり、体幹をうまく使えるほど、「立つ・歩く・向きを変える」といった一連の動作が安定して行える、という関係が見られたのです。
さらに研究では、下肢の筋力や選択的運動制御など、歩行に影響しそうな複数の要素をあわせて検討しています。その中でも、体幹機能(TCMS)は歩行成績との結びつきが特に強い指標であることが示されました。
もちろん、研究者は「歩行は体幹だけで決まる」と言っているわけではありません。歩行には下肢の筋力や協調性など、さまざまな要素が関わります。ただこの研究からは、体幹が整うことで下肢の力や動きを歩行の中で生かしやすくなり、全体の動作が安定するという重要な示唆を読み取ることができます。
4. 体幹機能への介入って効果あるの?(最新のメタアナリシスの結論)
次に紹介するのは、体幹に焦点を当てたトレーニングが本当に効果を持つのかを、複数の研究をまとめて検討した最新のメタアナリシス(Lim et al. 2025)です。この解析では、15研究・合計454名の脳性麻痺児が対象となっています。
このメタアナリシスが示した重要なポイントは、大きく分けて2つあります。
1つ目は、体幹機能は介入によって改善しやすいという点です。TCMSやTISといった指標で評価される体幹コントロールは、体幹トレーニングを行うことで有意に向上しやすいとまとめられています。つまり、「体幹は鍛えてもあまり変わらない」というより、適切な内容と方法で取り組めば、変化が期待できる領域だということです。
2つ目は、体幹トレーニングの効果が体幹だけにとどまらない可能性です。体幹機能の改善に加えて、GMFMなどで評価される粗大運動能力にも良い影響が及ぶ傾向が示されました。改善の大きさ自体は控えめですが、「体幹介入を行った群の方が、全体として粗大運動の成績が向上しやすい」という結果が得られています。
さらにバランス能力については、研究ごとの結果にばらつきはあるものの、介入頻度が高い条件ほど良好な結果が出やすいという傾向も報告されています。
これらを総合すると、体幹機能への介入は「やってみる価値がある」というレベルではなく、体幹の改善を通して粗大運動や歩行機能へ波及する可能性が研究によっても後押しされていると言えます。
5. 体幹機能をどう評価する?(まずは「観察+必要なら尺度」で十分)
体幹機能の評価は、最初から難しい検査を行う必要はありません。臨床では、次の3つを押さえるだけで評価の方向性は十分に見えてきます。
① 歩行観察:歩行中に「ねじれ」が出ているか
まずは歩行を観察し、胸郭と骨盤が逆方向に動く“ねじれ”が見られるかを確認します。
痙直型両麻痺では、胸郭と骨盤が一体化して動くブロックパターンになりやすいため、ねじれが出ない、あるいは出にくいこと自体が重要な評価ポイントになります。
② 自動運動チェック:胸郭と骨盤を分けて動かせるか
歩行だけでは判断が難しい場合は、自動運動での確認が有効です。ポイントは「体幹全体が動くか」ではなく、胸郭と骨盤を別々に動かせているかです。
ここで「体幹」ではなく「脊柱」と表現するのは、歩行につなげるカギが胸郭と骨盤の分離にあるためです。
チェックする動きは以下の3つです。
骨盤の前後傾+脊柱の屈伸
※体幹全体が前後に倒れているだけになっていないかに注意します。脊柱の側屈
※体幹全体の側方傾斜ではなく、脊柱として曲げられているかを確認します。脊柱の回旋
※骨盤に対して胸郭がどれくらい回旋できているかを見ます。肩甲帯の動きに引きずられないよう注意が必要です。
このときは、
運動範囲・分離度(胸郭と骨盤が別々に動いているか)・動作スピード(速い動作でもコントロールできるか)
の3点を意識して観察します。
③ 定量化したい場合:TCMSを用いる
チームで情報を共有したい場合や、経過を客観的に追いたい場合には、TCMSを用いて体幹機能を定量化するのが有効です。
Julia Balzerらの研究でも、TCMSは歩行課題(TUG)と強く関連する指標として用いられており、歩行とのつながりを評価する尺度として臨床で活用しやすい評価法といえます。
6. どう介入する?取り組みやすい順に3つ
ここでは、「体幹を固める」ことを目的にするのではなく、胸郭と骨盤を分けて動かし、必要に応じて協調させる(分節コントロール)ことを育てるための介入を、臨床で取り組みやすい順に3つ紹介します。
① 分節的制御の練習:脊柱の自動運動で“胸郭と骨盤を別々に動かす”
最初のステップは胸郭と骨盤を動かし分ける感覚を作ることです。歩行に必要なのは「体幹を固める力」ではなく、「分けて動かす力」だからです。
内容の例
骨盤の前後傾に合わせた脊柱の屈伸
脊柱の側屈
脊柱の回旋
進め方のポイント
まずは座位など安定した姿勢で、「胸郭と骨盤を分けて動かす」感覚を獲得します
動きに慣れてきたら、膝立ち、立位といった不安定性の高い姿勢へ段階的に移行します
※課題が難しすぎるとブロックパターンが出やすいため、「少し難しいが成功できる」難易度を意識します。
② ボールキャッチ&リリース:体幹の予測的姿勢制御(APAs)を引き出す
次に行いたいのが、正面からのボールキャッチのように、これから起こることが予測できる状況を利用して、予測的姿勢制御(APAs)を引き出す練習です。APAsとは、体に外力が加わる前に、姿勢が崩れないように体幹や下肢の筋をあらかじめ働かせる仕組みを指します。これに対し、姿勢が崩れたあとに立て直す反応は補償的姿勢制御(CPAs)と呼ばれます。
脳性麻痺児では、このAPAsがうまく働かず、筋活動の立ち上がりが遅れたり、必要以上に多くの筋を同時に働かせる共同収縮戦略に偏りやすいことが知られています。その結果、動く前の準備が不十分なまま動作に入り、CPAsに頼った不安定な姿勢制御になりやすくなります。
課題設定のポイント
支持面の広さ(座位→膝立ち→開脚立位→閉脚立位)
ボールの重さ(軽い→重い)
投げる距離(近く→遠く)
介入の狙い
体幹の回旋を促したい場合は、正面だけでなく斜め方向からのキャッチや、斜め方向へのリリースを組み合わせることが重要です。これにより、腹斜筋群など体幹の回旋に関わる筋群に、実際に回旋力が加わる状況を作ることができます。
実践上のポイント
キャッチ後すぐに別方向へ投げ返す課題を加えると、姿勢筋の切り替えが必要となり、より歩行に近い実践的な姿勢制御につながります。正面→斜め、ゆっくり→速くと条件を変えることで、体幹を「固める」のではなく柔軟に調整する姿勢制御を引き出しやすくなります。
③ 抑制を促す課題:外乱解除による“体幹の姿勢筋の切り替え”練習
脳性麻痺児では、必要に応じて筋活動を弱める「抑制」が苦手で、体を固めすぎてしまう場面が多く見られます。そこで、姿勢筋活動のオン・オフや切り替えを促す課題を取り入れます。
方法
PTが骨盤を前傾または後傾方向に軽く押し、特定の体幹筋(前面または後面)が働く状況を作ります
そこから急に支えを外す(外乱解除)ことで、姿勢を保つための筋活動を切り替える必要が生じます
ポイント
体幹の回旋や側屈方向など様々な方向に外乱を加えることでより実践的な練習となります。
おわりに
脳性麻痺児の体幹への介入は、「体幹を固めること」だけを目的にしてしまうと、歩行の改善につながりにくい場合があります。歩行に結びつけるために大切なのは、胸郭と骨盤を一体として扱うのではなく、それぞれを分けて動かし、必要な場面でうまく協調させる力(分節コントロール)を育てることです。
評価では、まず
・歩行中に体幹の「ねじれ」が出ているかを見る
・自動運動で胸郭と骨盤の分離度、可動域、動作スピードを確認する
・必要に応じてTCMSで体幹機能を定量化する
といった流れで整理してみてください。
介入については、
①脊柱の自動運動で分けて動かす感覚を作る
②ボールキャッチなどで予測的な姿勢制御を引き出す
③抑制や切り替えを促す課題で実践的な制御につなげる
という順に段階づけると、臨床の中で組み立てやすくなります。
体幹を「鍛える対象」として見るだけでなく、歩行の中でどう使われているかに目を向けることで、介入の質は大きく変わってくるはずです。
参考文献
西守 隆・伊藤 章.歩行と走行の移動速度変化における骨盤と体幹回旋運動の相互相関分析.理学療法学.2006;33(6):318–323.
Tavernese E, Paoloni M, Mangone M, Castelli E, Santilli V. Coordination between pelvis and shoulder girdle during walking in bilateral cerebral palsy. Clinical Biomechanics (Bristol, Avon). 2016;32:142–149. doi:10.1016/j.clinbiomech.2015.11.019
Kawaguchi D, Tomita H, Fukaya Y, Kanai A. A coactivation strategy in anticipatory postural adjustments during voluntary unilateral arm movement while standing in individuals with bilateral spastic cerebral palsy. Human Movement Science. 2024;96:103255. doi:10.1016/j.humov.2024.103255
Tomita H, Fukaya Y, Totsuka K, Tsukahara Y. Deficits in anticipatory inhibition of postural muscle activity associated with load release while standing in individuals with spastic diplegic cerebral palsy. Journal of Neurophysiology. 2013;109(8):1996–2006. doi:10.1152/jn.00253.2012
Balzer J, Marsico P, Mitteregger E, van der Linden ML, Mercer TH, van Hedel HJA. Influence of trunk control and lower extremity impairments on gait capacity in children with cerebral palsy. Disability and Rehabilitation. 2018;40(26):3164–3170. doi:10.1080/09638288.2017.1363820
Lim P, Yoo H, Lim Y. Effects of Trunk Intervention on Gross Motor Function, Balance and Spasticity in Children with Cerebral Palsy: A Systematic Review and Meta-Analysis. Medicina (Kaunas). 2025;61:1324. doi:10.3390/medicina61081324
