『THE OLD OAK』(オールド・オーク)
"Solidarity, not charity"(慈善ではなく連帯を)
これはハズレない。観る前から、そう確信を持てる映画がたまにある。
観客の期待をいい意味で裏切ろうとしない。製作は2023年。ようやく日本でも、劇場公開された。
労働者階級や移民の日常を一貫してリアルに描いてきた、英国が誇る社会派の名匠ケン・ローンチ監督の集大成。自ら最後の作品と言う。
カンヌ国際映画祭で、パルムドールを2度受賞した映画監督は9人、現役は4人。そのうちの一人で、今年90歳になろうとしている。
2016年の、イングランド北東部ダラム州の炭鉱町が舞台。置き去りにされた町の住民と、シリアから追いやられてきた難民。対立から連帯への道を丁寧に描いた。
ブレグジット決定の年、分断と排斥は加速していく。
「イージントン炭鉱事故」(1951年)、「炭鉱ストライキ」(1984年)。実際に起きた社会問題が、ベースとなっている。
困窮する仲間や家族を支えるために、皆で食事を作り分かち合った「共に食べて、団結を(When you eat together, you stick together)」という、相互扶助の歴史。
教会のような上からの施しではなく、同じ労働者階級として支え合う。
取り残された英国人が、シリア難民から提案される。
半世紀前に英国人も炭鉱労働者として、各地方から集まってきたのではなかったか。多様性が団結するパブは、いつの日かパブリックではなくなっていた。
労働党支持の牙城だった。保守党サッチャー政権で、労働組合のストライキは鎮圧された。2016年は、米国でトランプが政権を奪った年でもある。
ダラム大聖堂のシーンで、主人公の二人は未来への希望を取り戻す。言葉を失った。
「新しいものを作り上げるには力がいる、美しいものを作り上げるには力がいる」
(It takes strength to build something new, it takes strength to build something beautiful.)
ダラム炭鉱祭で掲げられるバナーには、「力・連帯・抵抗(Strength, Solidarity, Resistance)」が、英語とアラビア語で刻まれている。
イギリスで14年ぶりに労働党に政権交代された2024年。2021年に労働党を除名されたケン・ローンチ監督は、この作品を2023年に製作した。
もうおわかりだろう、町の名前は明らかではないが、とてもジャーナリズムな作品だ。だから広く劇場公開されることもない。
戦前戦後の炭鉱事故は日本でも起きていた。
福岡県が有名だが、隣の山口県が最近注目されている。1942年、犠牲者の多くが韓国人労働者だ。ドキュメンタリー映画や演劇になった。日本版ケン・ローンチが生まれる日は近いだろう。
息を呑むほどに美しいダラム大聖堂。
年に一度の炭鉱祭。炭鉱事故のあった海。
この海岸の静かな美しさが、喪失と再生の象徴なのだ。
英国の華やかな歴史の、光と影だ。
それも映画の醍醐味ではないだろうか。
2026.5
