個人的に多大な影響を受けた/強烈な印象を残したバンド紹介 #33 The Used
「エモ」…今ではすっかりトレンドワードとして気軽に消費されるバズワードというイメージが強くなっちまったが、本来はパンク/ハードコアのサブジャンルである。「マッチョなタフガイもセンチになる時がある」「男が酒場で一人己の人生を反芻し嘆くための音楽」それがエモ…エモーショナルなハードコアという事で今では死語だが「エモコア」とも呼ばれていた。そしてそんなエモに激情の叫び…今で言うスクリームが乗っかったのが「スクリームするエモ」こと「スクリーモ」だ。今では「ポストハードコア」というワードに取って代わられて久しく、また最初期のスクリーモは今で言うマスコアのような無秩序で無軌道なハードコアとなっており昨今ではそれを「Skramz」と呼んだりする。俺もDefy to the Bitter EndなるSkramzのプロジェクトを一つ立ち上げておりアルバムを配信している。今回はそんな俺にエモ、そしてスクリーモの醍醐味を教えてくれたバンドを紹介したい。
アメリカのユタ州オレムにて結成されたスクリーモ/ポストハードコアバンド、The Used。バンドが公式に結成されたのは2001年だが90年代初頭から既にメンバーは別バンドとして活動していた。前身バンドがシンガー不在に陥った際Bert McCrackenをリクルートした事で確かな手応えを感じ、程なくしてバンド名をUsedとする。その後ボストンに同名バンドがいた事で頭に「The」を付け乗り切った。Xも同様の難癖をLAのパンクバンドに付けられX JAPANとしたが、この法則に当て嵌めるとTHE Xになっていたかも知れない。流石にダサ過ぎるな…!
この改名エピソード前にデモをGoldfingerのギターヴォーカルJohn Feldmannに送った所好意的なリアクションを受け取り、紆余曲折の後にReprise Recordsと契約。2002年にセルフタイトルを冠するデビューアルバム『The Used』をリリース。Bert McCrackenによる驚異的なスクリームを封じ込めつつ絶妙にキャッチーなナンバーが収められた本作はデビュー作にして高く評価され、やがて100万枚を売り上げプラチナディスクを獲得した。2003年にはライヴ音源や未発表音源を修めたCDとバンドのドキュメンタリーが収録されたDVDを同梱した企画盤『Maybe Memories』をリリース。この作品もまたプラチナディスクを達成している。
上り調子にいたバンドだったが、翌年2004年にBertの恋人がオーバードーズで死去。さらに飼っていた犬も事故死と立て続けに悲劇に見舞われる。これを反映して2ndアルバムはBertの苦しみを冠し『In Love and Death』と命名される。2005年の再発盤にはMy Chemical Romanceとコラボレーションし制作された『Under Pressure(QUEENとDavid Bowieの共作)』カヴァーが追加で収録されている。
2006年にドラマーBranden Steineckertが脱退。Dan Whitesidesを後任に迎え2007年にライヴアルバム『Berth』、そして3作目に当たる『Lies For The Liars』をリリース。ストリングスやエレクトロニカサウンドを取り入れ新境地を目指した本作は6か月という彼等としては長い製作期間もあり、妥協を許さず数多くの楽曲を制作したようでアウトテイクが9曲ある。それらは後にEP『Shallow Believer』としてリリースされた。
2009年に4thアルバム『Artwork』をリリース。Panic! at the Disco等を手掛けてきたプロデューサーMatt Squireを迎え制作された本作は比較的ストレートなサウンドに回帰しているが同時にどことなくゴシックでダークな雰囲気も垣間見せている。そして2011年にHopeless Recordsに移籍し翌年2012年に5thアルバム『Vulnerable』をリリース。エレクトロニカサウンドやシンセ、ストリングス等の使い方もすっかり堂に入っており洗練されたオルタナティヴロック/ポストハードコアを聴かせてくれるが、次第にBertはトレードマークであった絶叫スクリームを殆どやらなくなってしまう…!
この後もバンドは安定した活動を続けており、凡そ3~4年毎にアルバムをリリースしているんだが初期の頃のように話題に上がる事はあまり無い。メタルコア以降の時代においてヘヴィネスやアグレッションを次第に失い洗練されたポップロックに寄せたThe Usedは聊か埋もれ気味になってしまっている所がある。当時のスクリーモバンドはアルバムを重ねる毎にスクリームをやめ普通に歌うようになると揶揄されてきたが、Bertはその代表例だろう。
俺もThe Usedのアルバムで最も影響を受け聴き込んだのは1stだ。1曲目『Maybe Memories』からスクリームとクリーンを縦横無尽に織り込むBertのスキルに惚れ込んだのを記憶している。メタルコア以降の発声技術として洗練されたスクリームとは異なる強引な叫びのインパクトは凄まじいが、同時に肉体にかなり負担を掛ける発声法だったようだ。ライヴではそれが顕著であり、「スクリームのし過ぎで嘔吐する」という逸話も残されている。かくいう俺も先日ブラックメタルを収録した際調子に乗って1曲通してハイピッチのスクリームを連発した際吐きそうになった(笑)。
またシングルカットされた2曲目『The Taste of Ink』は穏やかなエモナンバーに乗せて彼等の出身地であるユタ州からの脱出及び自由への渇望を歌い上げている(ユタ州は昔から保守的で封建的なキリスト社会が支配的な地域である)。歌詞が青臭いながらも極めて熱く、リアルタイムで触れた訳ではなかったが当時20代だった俺は甚く共感し当時のクソみたいな勤め先の終業時、夜空を見上げながらこの歌詞を心の中で反芻したものだ…!「半分死んだままで生きるなんて俺の目指していた生き方じゃない」「飛び立つための準備は出来ているか?靴紐をしっかりと締めているか?今の俺はここから飛び出す準備が出来ている」多くのエモキッズが同じ気持ちを味わい己を奮い立たせたんじゃないだろうか?
個人的にはやはりこの頃のエモ/スクリーモやポストハードコアよりもデスメタルやメタルコア/デスコア等を好んでいるため音楽的にそこまで影響を受けたわけではないが、Bert McCrackenの魂の叫びには間違いなく影響を受けている。テクニックや正しい発声法なぞかなぐり捨ててただただ激情のままに叫び散らす慟哭の咆哮。叫ばずにはいられない初期衝動。これこそロックじゃないか。
