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「ずっと一緒にいたくて」死産のわが子を冷凍庫に3年8カ月 孤立の果てに下された執行猶予付き有罪判決

自宅の冷凍庫に、死産した子どもの遺体を約3年8カ月にわたって保管していたとして、死体遺棄罪などに問われた30代の女性に対し、大阪地方裁判所は2026年8月7日、拘禁刑3年、保護観察付き執行猶予5年の有罪判決を言い渡しました。求刑も拘禁刑3年でした。

冷凍庫から見つかった遺体はTシャツに包まれ、袋に入れられていました。その袋には「2022.8.28 大好きだよ」などと書かれたメモが貼られていたといいます。

被告人は亡くなった子に「ユウナ」と名前を付け、なぜ長期間手元に置いていたのかを問われると、「生きていたら、してあげたかった」「ずっと一緒にいたくて」と涙ながらに説明しました。

しかし、裁判で明らかになったのは、わが子の死を受け入れられなかった母親の思いだけではありません。長年にわたる違法薬物の使用、DVを受けた経験、育児や幻聴に苦しんでいた時期、さらに周囲に薬物使用者が入り込んでいた生活環境も浮かび上がりました。

なぜ彼女は、死産した子を約3年8カ月も冷凍庫に置き続けたのでしょうか。そして、なぜ「一緒にいたい」という思いが死体遺棄罪に問われたのでしょうか。

裁判で明らかになった事実と、死体遺棄罪や死産後の手続き、薬物依存への支援制度をあわせて整理します。

こども家庭庁「流産・死産について知ってほしい心のケアと支援制度」

大阪市「流産・死産等をされた方へ」


事件と裁判の概要

大阪地裁は2026年8月7日、自宅冷凍庫に死産した女児の遺体を約3年8カ月間遺棄した死体遺棄罪などに問われた30代の女に対し、拘禁刑3年、保護観察付き執行猶予5年の有罪判決を言い渡しました。被告は違法薬物の所持や使用の罪にも問われていました。

  • 起訴内容: 2022年8月ごろ自宅で赤ちゃんの死亡を確認後、遺体を冷凍庫に入れ2026年4月まで放置。覚醒剤取締法違反などの罪にも問われた。

  • 判決: 拘禁刑3年、保護観察付き執行猶予5年(求刑・拘禁刑3年)。

  • 状況: 発見時、遺体はTシャツに包まれ「大好きだよ」と書かれたメモが添えられていた。事件は別の通報による家宅捜索で発覚した。

事件発覚のきっかけと「監禁されている」通報

この事件が明るみに出たきっかけは、もともと死体遺棄事件の捜査ではありませんでした。

裁判での検察官の冒頭陳述などによると、警察に「被告人から監禁されている」という趣旨の通報が寄せられ、警察官が被告人宅に臨場しました。被告人は裁判で、この通報について「知人にはめられた」と説明していますが、通報者が誰だったのか、どのような状況で通報に至ったのかについては、法廷で具体的には明らかにされませんでした。

一方、逮捕当時の報道では、被告人は2026年4月7日に覚醒剤を使用した疑いで逮捕され、その後の4月9日の家宅捜索で、冷凍庫から子どもの遺体が見つかったとされています。

つまり、公開されている情報を合わせると、「監禁されている」という通報が一連の捜査の端緒となり、薬物事件の捜査・逮捕を経て家宅捜索が行われ、その過程で長期間保管されていた遺体が発見されたとみられます。

冷凍庫には遺体だけでなく、野菜や冷凍食品なども一緒に入れられていました。この保管状況は、のちの判決で厳しく評価されることになります。

弁護士ドットコムニュース「『ずっと一緒にいたくて』死産した子を冷凍庫に3年8カ月、袋には『大好きだよ』…30代母親に有罪判決」

乳児遺体、冷蔵庫に3年半 遺棄容疑で32歳女逮捕―大阪府警:時事ドットコム (2026年05月11日)

死体遺棄罪とは何か

死体遺棄罪は、刑法第190条に規定されています。

現在の条文では、死体や遺骨、遺髪などを損壊したり、遺棄したり、領得した者について、3年以下の拘禁刑に処すると定められています。

では、「遺棄」とは単純に遺体をどこかへ捨てることだけなのでしょうか。

最高裁は2023年3月24日の判決で、刑法190条について、社会的な習俗に従って死体の埋葬などが行われることにより、死者に対する一般的な宗教的感情や敬けん感情を守ることが前提になっていると説明しました。

そして「遺棄」には、通常の埋葬とは認められない方法で死体を放棄するだけでなく、他人が発見することを困難にするような形で隠す行為も含まれ得ます。

つまり、「捨てていないから死体遺棄にはならない」というわけではありません。

自宅の中であっても、正規の葬祭手続きを取らず、発見されにくい状態で遺体を隠し続ければ、その具体的な態様によっては死体遺棄罪が成立する可能性があります。

参考資料

なぜ死産した子を冷凍庫に長期間置き続けることが罪になるのか

ここで注意したいのは、「死産した子を手元に置いた」という感情そのものが処罰されたわけではないという点です。

本件で問題になったのは、その後の遺体の扱い方でした。

日本では、妊娠12週以降の胎児を死産した場合、原則として死産後7日以内に「死産届」を提出する必要があります。大阪市でも、医師または助産師が記載した死産証書・死胎検案書を添えて届け出る仕組みが案内されています。

また、墓地、埋葬等に関する法律では、死産についても市町村長の許可を受けて火葬・埋葬する制度が設けられています。

ところが本件では、こうした手続きにつながらないまま、遺体が約3年8カ月にわたり自宅の冷凍庫で保管されていました。

裁判所は、被告人が亡くなった子の身体をきれいに洗い、生きて生まれていれば着せる予定だった子ども服を着せていたことなどから、被告人なりの弔いの気持ちがあったこと自体は認めています。

一方、野菜や冷凍食品などと同じ冷凍庫で長期間保管したことについては、その扱いを「粗雑」と評価しました。また、「一緒にいたい」という理由で遺体を手元に置き続けたことについても、死者の尊厳という観点から厳しい判断を示しました。

被告人にとっては「離れたくない」という思いから始まった行為だったのかもしれません。しかし法律は、その気持ちだけではなく、亡くなった人を社会のルールに従って送り出すことも求めています。

この両者が真正面から衝突したのが、この事件だったといえます。

参考資料

検察官の質問「なんで死者を弔う法律があると思いますか?」

法廷では、検察官と被告人のやり取りも印象的なものとなりました。

検察官は、亡くなった子の立場から考えるよう促したうえで、

「いつまで経っても、ユウナちゃんお空に行けないよ」

と問いかけました。

さらに、

「なんで死者を弔う法律があると思いますか?」

と尋ねると、被告人は「天国に行かせてあげないと……」という趣旨の言葉を返しています。

この質問は、本件で問題となった刑法190条の考え方とも重なります。

刑法190条が守ろうとしているものについて、最高裁は、死者に対する社会一般の宗教的・敬けんな感情を挙げています。

遺体は単なる「物」として好きなように扱える存在ではなく、社会の習俗に従い、尊厳をもって扱われるべきものだという考え方です。

もちろん、「お空に行く」「天国に行く」という考え方自体は宗教観によって異なります。法律が特定の宗教的な死後観を強制しているわけではありません。

このやり取りで重要なのは、検察官が被告人に対し、自分の「一緒にいたい」という気持ちだけではなく、亡くなった子の側から、自分の行為を考え直すよう問いかけたことではないでしょうか。

参考記事・資料

保護観察付き執行猶予の間の支援

大阪地裁は、被告人に拘禁刑3年を言い渡す一方、刑務所に直ちに収容するのではなく、保護観察付き執行猶予5年としました。

裁判所が保護観察を付けた大きな理由の一つが、薬物依存の深刻さです。

判決では、薬物への依存がかなり深まっており、再犯を防ぐためには専門的な公的指導が不可欠だと判断されました。

保護観察とは、犯罪をした人を社会の中で生活させながら、保護観察官や保護司が指導・支援を行い、更生を目指す制度です。

特に薬物依存の問題を抱える対象者には、状況に応じて薬物再乱用防止プログラムなどが実施されています。

法務省では、認知行動療法の考え方を取り入れたプログラムを実施するとともに、精神保健福祉センター、医療機関、保健所、民間の回復支援団体などと連携しながら、薬物を再使用しない生活を続けるための支援を進めています。

さらに重要なのは、保護観察が終われば支援も終わり、という制度ではないことです。

本人が希望する場合などには、保護観察終了後も精神保健福祉センターなど地域の支援機関へつなぎ、治療や回復支援を継続できるようにする取り組みがあります。

被告人も法廷で、今後は治療を受けながら、これまでの人間関係から離れるために地方への移住も検討していると話していました。

今回の判決は、犯した行為を有罪としながらも、被告人を刑務所に収容することだけで問題が解決するとはせず、社会の中で専門的な治療と監督を受けながら立ち直る道を残した判決だったと見ることができます。

参考資料

法務省「保護観察所」

法務省「刑事司法関係機関等における効果的な指導の実施等」

法務省「薬物依存のある刑務所出所者等の支援に関する地域連携ガイドライン」
https://www.moj.go.jp/content/001365899.pdf


この事件は、単純に「母親が死産した子を冷凍庫に入れていた」という一文だけでは捉えきれません。

もちろん、約3年8カ月にわたって正規の手続きを取らず遺体を冷凍庫に保管した行為は、裁判所が認定した通り死体遺棄罪にあたり、亡くなった子の尊厳という点からも重大な問題があります。

その一方で、法廷から見えてきたのは、亡くなった子を「大好きだ」と思いながら、その死を受け入れられなかった一人の母親の姿でもありました。

そこには、長期間にわたる薬物依存、DV、一人での育児、幻聴、医療機関につながれなかった状況、そして薬物使用者が周囲に存在する生活環境が重なっていました。

もちろん、それらの事情が死体遺棄という行為を正当化するわけではありません。

しかし同時に、「なぜ普通に病院へ行かなかったのか」「なぜ役所に相談しなかったのか」という言葉だけで終わらせてしまえば、同じように孤立する人を救うことは難しいでしょう。

こども家庭庁も、支援を必要とする妊産婦について、パートナーからの暴力、貧困、周囲からの孤立、本人の特性など、複数の要因が複雑に絡み合い、必要な支援につながりにくいケースがあると指摘しています。

現在は流産や死産を経験した人に対する心理的なケアや相談支援も少しずつ整備されています。こども家庭庁も、死産・流産を経験した人に向け、支援制度や相談先について情報を提供しています。

「ずっと一緒にいたかった」という思いと、亡くなった子を社会の中で適切に弔い、送り出すというルール。

今回の裁判は、その二つが衝突した事件であると同時に、薬物依存やDV、妊娠・出産をめぐる孤立を、本人だけの問題にしてよいのかという問いも残しています。

被告人には、保護観察のもとで治療を続ける時間が与えられました。

亡くなった子をもう一度抱くことはできません。

だからこそ今後は、「一緒にいたい」という思いを遺体を手元に残す形ではなく、記憶の中で大切にしながら、自分自身の生活を立て直していくことが求められるのだと思います。

関連資料

こども家庭庁「予期せぬ妊娠等による支援が必要な妊産婦の効果的な支援プロセス等に関する調査研究」
https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/f21156d8-091e-446e-b438-b16701b090dd/963347e9/20230807_procurement_ekim-kUgKeJG0_05.pdf

こども家庭庁「流産・死産について知ってほしい心のケアと支援制度」

大阪市「流産・死産等をされた方へ」

被告人が育てている子どもと内縁の夫について

裁判では、被告人にはほかに育てている子どもがいることも明らかになりました。

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