サナギから現れたのはクロアゲハ!羽化の瞬間に立ち会う
母が育てていた3匹のアオムシが無事にサナギから羽化し、蝶になって森に飛んで行った。

寂しくなった母が、「またいないかな?」と庭の山椒の木を覗いた。
山椒の木の下にたくさん黒いフンがおちていた。
よーくみると、モリモリと葉を食べているアオムシがいた。
母と目が合うと、赤い角を出して、身体を赤くして怒った。
「なんじゃ君は!綺麗だねえ」
怒られているとは知らない母は、「きれいなアオムシがいた」と、大喜びで枝ごとアオムシを連れ帰った。


連れ帰ったときには、赤い角はすっかり引っ込んでしまったという。
身体も普通の色に戻っていた。
先に育てた3匹のアオムシとは様子が違うという。
太いたくさんの足でよちよちと壁も登る。
蓋を開けて眺めていると、上まで登ってきて脱走しようとするらしい。

めんこいめんこいと眺めていたら、そのうち壁を登り始めた。
あれよあれよという間に身体の半分が黒っぽくなり、サナギへと変わり始めた。


すっかりサナギになった。
壁に2本の糸で繋がっている。


先に羽化した3匹は、朝にはもうすっかり羽化が終わり蝶々になっていたという。
母が「羽化するところがどうしても見たいなあ」というので、サナギになって8日目くらいから、毎晩タイムラプスで撮影するも、まったく変化がなかった。
11日目、死んじゃったのかなあと心配で何度も見に行くと、突然、グイン!と動いた。
あ!動いた!生きてた!と嬉しくなった。

もうそろそろかな?とその夜もタイムラプスで撮影するも変わらず。
しかし、12日目でサナギの色が明らかに黒くなっていた。
たまにグイン!と動く。
私と母は興奮した。もうすぐかな?もうすぐだよね!
羽化には何が必要かな?と調べると、どうやら羽化の直後、羽を広げるための足場が必要らしいとわかり、急遽サナギの横に枝をとりつけた。


いよいよ今日か!とタイムラプスで撮影していた。
そして13日目の朝。起きてみると、まだ羽化していなかった。
でも明らかに、サナギの色が変わっている。
中の色が透けて見えるようだ。

母と共に見つめていたら、目の前でグイングイン!と動いた。
母も初めて、サナギが動くところを見てびっくりしていた。
いよいよだね!ダイニングに持って行って観察しよう!
朝ごはんを食べている間もサナギに変わりはなかった。
のんびりコーヒーを飲んでいるとき、突然サナギが動いた。
サナギ「エイッエイッ!ヨイショッヨイショッ!」
そして、パカリ、とサナギに亀裂が入った。

「わー!お母さん、羽化するよ!すごいよ!」
私は大慌てで撮影を開始。
母は興奮して「がんばれがんばれ!」とサナギに声をかけている。
サナギは、後ろ向きに出て来た。
そうか!アオムシからサナギになるときの態勢と一緒なんだ!
そして、あの角みたいなのはなんだろう、と思っていた2つの突起から、折りたたまれた足が現れた!
そうだったのか!そこに大切に格納されていたんだね。


角みたいな2つの突起に、脚と触覚という、とても大切な部位がしまわれていたのだ。
その脚で、すぐにつかまれる場所を探し始めた。
そして、横に取り付けた枝を見つけると、そこに捕まってスルリ、とサナギから出て来た。
ここまではあっという間の出来事だった。

「クロアゲハだ!」
母は、その姿に大喜び。
私も、クロアゲハだろうなあ、とは思っていたが、サナギから現れたその姿を見て涙が出た。


クロアゲハは、その繊細な脚でもっと高い場所に上がろうとしていた。
脚の先を上手に枝の先端にひっかけて、羽を乾かし始めた。

羽が広がってくると、クロアゲハはさらに上に行こうと脚を一生懸命に伸ばし始めた。
それで、慌てて割りばしをケースの横に張り付けた。

羽が広がってくると、美しい模様が現れて息を飲んだ。
ビロードのような光沢のある黒い羽に、三日月模様。そしてフチドリが白い。
クロアゲハは、身体を小刻みに揺らし、羽を乾かしながら、オシッコをした。
飛ぶために、身体に残った水分を出して身体をさらに軽くしているのだ。
そして、しばらくすると、追加で添えた割りばしに登り始めた。
ああ、添え木を付けておいて本当によかった。捕まる場所がなければ、羽が上手に開かなかっただろう。

綺麗に広がった羽。着物の模様のよう。
なんて美しい…

内側からの模様もとても美しかった。
クロアゲハは、しばらくじっとして羽を乾かしていた。
その間、頭を巡らせて、外の景色を観察しているようだった。
白い蝶がチラリと飛んでいった方向に頭を向けたり、林の方を見つめたりしていた。
サナギから出てきて初めて見る風景はどんな感じなんだろう。





アゲハ蝶は、3時間くらいかけて羽を乾かした後、林に飛んで行った。
その姿を母と共に見送った後、胸にぽっかり穴があいたように寂しくなった。
寂しくて涙を流す私を見て、母があきれていた。そしてこう言った。
「子供が巣立つのって、こんな感じなんだよ。子供部屋にいってももういないんだなあ、と寂しかったよ」
そうなんだ!それは寂しいね。
私なんか、サナギの姿しか見ていないのに、そこにいないともう寂しい。
世の中のお父さんお母さんは、子供が巣立つとき、どんなに寂しいのだろう。
私はそれからクロアゲハの姿を探して、自転車で近くを散歩してみたが、もちろんクロアゲハの姿を見ることはなかった。
2日後の天気のよいある日、あまりに暑いので、庭に水を撒こうと外にでたら、山椒の木にひらり、とクロアゲハがやってきて、あっという間に空高く飛んでいってしまった。
ああ、生きていてくれてよかった。姿が見られてよかった。
どうぞご無事で!

