小泉農水相の的外れ?木徳神糧「対前年500%利益」批判、コメの流通も小泉農水相の理解も「複雑怪奇」
小泉進次郎農水相が「ある米卸の営業利益が前年比500%増」と発言し、コメ流通にメスを入れる姿勢を打ち出しました。しかしこの発言、実は数字の取り扱いに大きな誤解が含まれており、批判の矛先として適切なのかが問われています。本稿では、名指しこそされていないものの、批判の対象とされた可能性が高い木徳神糧の決算データをもとに、小泉発言の正当性を検証します。
小泉農水相の「500%利益」発言は正しいか
小泉農水相は2025年6月5日の衆院農林水産委員会で、コメの流通について「社名は言わないが、ある大手卸の売上高は前年比120%、営業利益は500%、他の卸も250%を超えている」と発言しました。政府の備蓄米の放出に絡み、卸業者が過大な利益を得ているかのような印象を与える内容でした。
しかしながら、卸側からはすぐさま反論があり、「長年1~2%の営業利益率でやってきた。5倍になったとはいえ暴利ではない」と反発。そもそもどの企業を指しているのか明言されていませんが、大手米卸として名前が挙がるのは木徳神糧、ヤマタネ、神明ホールディングスの3社であり、時期的に木徳神糧の可能性が高いと考えられます。
木徳神糧の決算が物語る実態とは
木徳神糧株式会社が2025年5月8日に公表した2025年12月期第1四半期決算短信によれば、売上高・営業利益ともに前年比で大幅に増加しているのは事実です。

営業利益は約4.47倍に増加しています。これを小泉氏は「500%」と表現したと考えられますが、実際の増加率は447%であり、端数を切り上げたとしても「500%」と断じるのは正確とは言えません。
また、営業利益率の上昇は1.38%から5.03%への変化にすぎず、依然として"薄利"の範疇です。食品卸売業における営業利益率の目安からしても、ようやく標準的な水準に達した程度で、「暴利」などとは到底言えません。
さらに付け加えるなら、2025年12月期第1四半期決算短信では、セグメント別の概況を記しています。
<①米穀事業
令和6年産米の需給が引き続きひっ迫する状況のなか、安定供給を最優先とした販売方針のもと、取引先からの需要に着実に対応しました。販売単価が前年を大きく上回る水準で推移し、価格転嫁も順調に進んだ結果、売上高は31,162百万円(前年同期比27.1%増)、営業利益は1,929百万円(同387.4%増)となりました。>
米穀事業のみで計算すると売上高は311億6200万円(前年同期比27.1%増)、営業利益は19億2900万円(同387.4%増)と増益幅はさらに縮小されます。
※2025年6月11日、木徳神糧が出したは「ステークホルダーの皆さまへ」という声明文の中で、
「(2025年第1四半期決算について) 弊社の当第1四半期連結累計期間(2025年1⽉1⽇〜3⽉31⽇)における⽶穀事業セグメントの業績は、売上⾼311億62百万円(前年同期比127.1%)、営業利益19億29百万円(同487.4%)となりました。 」
と営業利益の前年同期比「487.4%」と修正がありました。
複雑怪奇なのは流通か、農水行政か
小泉農水相の発言が妥当でないと評価される理由は大きく3点あります。
第1に、数字の正確性に問題があります。端的に言えば「約4.5倍」を「5倍」あるいは「500%」と断定すること自体が、過度に印象操作的です。特に政治家の発言は数字の扱いに慎重であるべきです。
第2に、利益率の水準に対する理解が浅いと言わざるを得ません。食品流通業界では営業利益率が1~2%であることが通例であり、5%に達したからと言って利益を貪っているわけではありません。むしろ、過去の赤字や仕入コストの高騰を吸収してようやく健全な利益水準に戻ったとも言えます。
第3に、政策の反省がなされていない点です。小泉氏は政府の対応について「民間の有識者による検証は行わない」と述べており、自らの施策の責任には触れていません。民間企業だけを批判し、政府の関与や責任を問わない姿勢には違和感が拭えません。
こうした批判の仕方は、トランプ米大統領が時に示したポピュリズム的手法を彷彿とさせます。政治的アピールのために敵を設定し、そこに怒りの矛先を向ける。国民の耳目を集めるには効果的かもしれませんが、冷静で実効性のある政策形成には結びつきません。
政治の演出より、問われるべき改革の本質
小泉農水相の「複雑怪奇な流通構造」という表現は、現場の流通実態をどれほど把握した上での発言なのか、疑問が残ります。コメの流通は確かに階層が多く、消費者にとって価格形成が見えにくいことは否定できません。しかしその改善には冷静な分析と地道な制度設計が不可欠です。
「ある卸が500%の利益を上げた」とセンセーショナルに取り上げることは簡単ですが、それが本質的な改革を促すことにはつながりません。むしろ、卸業者や小売業者が反発したり、萎縮したり、結果として供給網の弱体化を招く危険性すらあります。
消費者が望んでいるのは、感情的な政治的演出ではなく、持続可能で安定した食料供給です。人気取りではなく、真に日本の農政を前進させるための一歩を、小泉農水相には求めたいところです。
繰り返しになりますが、木徳神糧の利益増加は確かに目を引きます。しかし、それはようやくまともな収益体制を確保できた結果であり、問題視されるべき数字ではありません。複雑怪奇な流通の結果で暴利を貪ったものではないと思います。小泉農水相には、まず政府の備蓄米放出政策の成否を率直に総括し、必要であれば有識者による検証を行い、その上で制度改革に踏み出す姿勢こそが求められています。
コメの流通が「複雑怪奇」だと言うのなら、それを明快に理解・説明できるだけの政治家としての責任を果たすべきです。現時点では、小泉農水相の認識そのものが「複雑怪奇」になっているように映ります。
文=夏樹真生(経済ジャーナリスト)
※本稿は筆者個人の見解に基づくものであり、特定の投資、取引、政策選択を推奨するものではありません。掲載されている内容は、シンクタンクや調査機関の分析に基づく情報も含まれますが、将来の経済動向や市場の動きを保証するものではありません。投資や経済的判断は、あくまでご自身の責任において行ってください。
