その駅は僕の目的地で、誰かの出発地
23歳の夏、僕は何者でもなかった。
何かを変えたくて、でも何を変えたいのかも分からなくて。
だから電車に乗った。
高校を卒業してから、バイトをしながらバンドをやっていた。
実家暮らしで23歳。
まともに働いているとも言えず、
そろそろ家を出ないといけないな、と思いながらも、
音楽で食べていけるとは思っていなかった。
それでも、好きなことは続けていきたかった。
このままでいいのか。
何度も、頭の中で繰り返していた。
当時、mixiが流行っていて、
「青春18きっぷ」と、ある駅の写真を見つけた。
どこか遠くへ行きたい。
何かが変わるかもしれない。
そんな理由で、電車で四国を一周することにした。
いわゆる、自分探しの旅だった。
母には恥ずかしくて、
「四国に行く」とだけ伝えた。
母は「いつ帰ってくるの?」と、それだけ聞いた。
バイトの休みを取り、時刻表を買い、
移動手段は電車だけ。
車内は暇だろうと思って、本を一冊買った。
電車の旅だから「銀河鉄道の夜」にした。
電車では本を読んだり、音楽を聴いたり、
窓から流れていく景色をぼんやり眺めていた。
車窓から見る踏切は、いつも赤く点滅していて、閉まっていた。
僕はずっと電車に乗っているから、
人はみんな知らない駅で乗ってきて、
そして知らない駅で降りていく。
その光景を見ていると、
僕だけ、仲間はずれにされたような気がした。
京都から高松へ。
徳島で一泊。
高知で一泊。
宇和島で一泊。
そして、目的地の下灘駅に着いた。
夏休みも終わっていて、平日だったからか、
当時は今ほど知られていなかったからか、
そこには、誰もいなかった。
夜になるまで、
音楽を聴き、海を眺め、
沈んでいく夕日を見ながら、
何かを考えていた。
今ではもう、
何を考えていたのか、ほとんど覚えていない。
ただ、ある曲に自分を重ねて、
僕が旅に出る理由は、
大体100個くらいあって、
そんな気分だったことだけは覚えている。
この駅は僕の目的地だけれど、
僕の知らない誰かの出発地でもある。
そう思うと、
少し不思議な気持ちになった。
どこまで来ても、
僕はここにしかいない。
僕は僕のままだった。
探していたものは、
遠くにはなくて、
いつだって、ここにあった。
僕は、自分の駅に帰ってきて、
家に帰った。
母は何も聞かず、
「おかえりなさい」と言ってくれた。
帰る場所があること。
それだけで、人はきっと、
また旅に出られる。
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