その探偵はため息をつく【ショートショート】
見渡す限りの海、切り立った岸壁の上に二つの影が伸びる。
「犯人は……鈴木さん、あなたです!」
探偵は犯人に指を突きつける。
「ハハハ、そりゃあそうだろう。もう、俺とあんたの二人しかいないんだから」
鈴木は不敵な笑みを浮かべる。
「しかし、なぜ生きているんだ? あんたは死んだはず……?」
「あんた、探偵だろ? そんなこともわからないのか?」
「わからなかったから、みんな、あんたに殺されたんじゃないか」
「……おいおい、開き直りか? 探偵がこの館に来るって聞いた時は焦ったが、まったくの杞憂だったな。……まあいい、教えてやるよ。冥途の土産ってやつだ」
鈴木はナイフを回しながら犯行動機からトリック、被害者の死に様、反省点まで事細かに語った。
「なるほど」
探偵は、ほぼ口を挟まず、犯人の言葉を何とか記憶しようと、メモをとるような動作をする。
「完全犯罪の予定だったんだけどなぁ……。行く先々で、あんたが邪魔ばかりして予定が狂っちまったよ。推理能力はないくせに勘だけはいいんだな、あんた」
「当たり前だ! 何週目だと思ってるんだ。あと、推理能力がないは余計だ」
「? ……さあ、お約束の種明かしはしたんだ。もうそろそろ、フィナーレと行こうか?」
鈴木はナイフを突きつけて、探偵を崖際に追い詰める。
「好きな方を選ばせてやるよ、刺されて死ぬか、崖から落ちて死ぬか。そうそう、崖落ちは生存フラグとか思わない方がいいぜ。なにせ、ここから落ちて助かったやつはいないからな」
「知ってるよ、何回か落とされたからな!」
「?」
「……まるで誰か落としたことがあるような口ぶりだな?」
「想像にお任せするよ。さあ、選べ!」
「いいだろう、私が選ぶのはこれだ」
目を閉じる探偵。それを見る鈴木。
「なんだ? 怖くて選べないのか? なら俺が選んでやるよ」
鈴木はナイフをちらつかせながら探偵に近づく。
探偵は、大きくため息をつく。
ーー目を開けると探偵は館の前にいた。
「何回でもやりなおすさ。精神を集中して、ため息をつけば思い浮かべた時間にタイムリープできるのだから。しかし、今回はいつになく難しいな。
田中を助ければ佐藤が死ぬ。
佐藤を助ければ鈴木が死ぬ。
死んだはずの鈴木は生きていて田中が殺された。
結局、犯人以外全員死ぬ。
……頭が痛くなってきた。
どうなってるんだ、私以外全員殺人鬼って。とりあえず、鈴木が死んだふりをしているのを見破るか」
小一時間、あーでもないこーでもないとフラグ管理をする探偵。
どうにか脳内シミュレーションを完了して館の扉に手をかける。
館の扉を開けると、メイド服の見知らぬ女性が立っていた。
「どなた様でしょうか?」
「ーーこっちのセリフだよ!
し、しまった……前回と違う行動をしたせいで、新しいフラグを踏んでしまった!
せっかく考えたフラグ管理がめちゃくちゃだよ!
……もう帰ろうかな」
探偵は、ため息をつく。
了
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