なぜAppleは製品企業ではないのか
『Kid Company』が伝えるOS Companyという新しい企業観
企業は成長する。しかし、すべての企業が巨大企業になるわけではない。さらに言えば、巨大企業になったとしても、すべての企業が社会の基盤になるわけではない。『Kid Company なぜ企業は高成長できないのか――盆栽型企業と超巨大企業の成長格差』を読むと、企業の成長を「売上」や「社員数」だけで見ることの限界がよく分かる。本書が見ているのは、企業の大きさではなく、企業がどのような成長構造を持っているかである。
本書では、企業を四つの段階で捉えている。Kid Company、Bonsai Company、Forest Company、そしてOS Companyである。Kid Companyとは、未来を定義できず、成長環境を設計できない企業である。Bonsai Companyとは、品質が高く、組織も整い、優れた製品を持っているが、鉢の中で美しく育つ企業である。Forest Companyとは、市場を定義し、プラットフォームを作り、エコシステムを形成し、データを蓄積し、巨大投資によって産業構造そのものを変える企業である。日本企業の多くは、盆栽型企業として非常に高い完成度を持ってきた。品質は高く、組織は整い、製品は丁寧に磨かれている。しかし、盆栽はどれほど美しくても鉢の中で育つ。森になるためには、根を広げる空間と、成長する構造が必要である。
本書で特に重要なのが、OS Companyという概念である。OS Companyとは、会社の内部管理システムのことではない。一般的なBusiness Operating SystemやCompany Operating Systemとも異なる。本書でいうOS Companyとは、業界、市場、あるいは社会活動全体が機能する基盤となるインフラを構築し、管理する企業のことである。単に製品やサービスを販売する企業ではなく、他の企業、開発者、ユーザー、クリエイター、サプライヤー、投資家が参加する環境そのものを定義する企業である。コンピュータのOSがアプリケーションを動かす土台になるように、OS Companyは産業全体が動くための「産業オペレーティングシステム」を構築する。
この視点で見ると、Appleは単なるスマートフォンメーカーではない。Appleの本質は、iPhoneでも、Macでも、AirPodsでもない。Appleは、iOS、App Store、Apple Silicon、Apple Pay、iCloudを統合した巨大なデジタル基盤を持っている。世界中の開発者がその上でアプリを作り、企業がサービスを提供し、ユーザーが生活する。Appleは製品を売っているのではない。デジタル体験のOSを運営しているのである。
NVIDIAも同じである。多くの人はNVIDIAをGPUメーカーだと思っている。しかし本質は違う。NVIDIAは、GPU、CUDA、開発ツール、AIライブラリ、クラウド環境、研究者コミュニティを統合したAI開発基盤を構築している。AI企業の多くは、実質的にNVIDIAのOS上で活動している。NVIDIAは半導体を売っているのではない。AI時代のコンピューティングOSを提供しているのである。
Teslaも単なる自動車会社ではない。Teslaは、EV、FSD、AI、Supercharger Network、NACSを統合し、移動そのものをシステム化している。Teslaが見つけた最大のPain Pointは、EVそのものではなく、「安心して移動できない」という不安だった。充電器が見つからない。長距離移動が不安である。認証や支払いが面倒である。この問題を解決するために、TeslaはSupercharger Networkを構築した。Teslaが作っているのは車だけではない。Mobility OSである。
SpaceXもまた、ロケット会社として見るだけでは不十分である。SpaceXがStarlinkで見つけたPain Pointは、「地球上にはまだ十分な通信が届かない場所がある」という現実だった。山岳地帯、離島、砂漠、海上、災害地域、人口密度の低い地方では、高速インターネットは当たり前ではない。SpaceXはこの問題を、地上からではなく宇宙から解決しようとした。再利用可能ロケット、低軌道衛星、地上局、ユーザー端末、通信ソフトウェアを統合し、Space OSを構築しているのである。
OS Companyが強い理由は、ネットワーク効果とBig Dataの蓄積にある。ユーザーが増えるほどOSの価値は高まり、その利用の中で膨大なデータが生まれる。そのデータはOS Companyに蓄積され、Digital Economyにおける新しい価値を生む。検索データ、購買データ、社会関係データ、走行データ、開発データ、通信データ。これらは単なる記録ではない。サービスを改善し、AIを学習させ、広告精度を高め、ユーザー体験を最適化する資源である。価値が高まるほど、さらにユーザーが増える。ユーザーが増えれば開発者が集まり、開発者が増えればアプリやサービスが増える。アプリやサービスが増えれば、さらにユーザーが増える。この循環が続くと、企業の規模は指数関数的に拡大する。
だからAppleは強い。Googleは強い。Microsoftは強い。Amazonは強い。Metaは強い。NVIDIAは強い。Teslaは強い。さらにその究極形が、Magnificent 7と呼ばれるOS Companyである。彼らは市場で競争しているのではない。市場が機能するためのOSそのものを構築している。Appleはデジタル体験のOSを、Microsoftは企業活動のOSを、Googleは情報のOSを、Amazonは商取引とクラウドのOSを、Metaは社会関係のOSを、NVIDIAはAIコンピューティングのOSを、TeslaはMobility OSを構築している。
では、日本企業はOS Companyになれるのか。本書は、日本企業を単純に否定していない。日本企業は長年、Bonsai Companyとして世界最高レベルだった。品質は高い。技術もある。組織も強い。しかし盆栽は森にはならない。森になるには、市場を定義し、プラットフォームを作り、エコシステムを形成し、データを蓄積し、産業の基盤になる必要がある。つまりForest Companyを経て、OS Companyへ進化しなければならない。SoftBank Group、Sony、Hitachi、Nintendo、Toyota。日本企業にその可能性はあるのか。本書では、この問いにも向き合っている。
21世紀の競争は、製品競争ではない。製品は問題を解決する。しかしOSは市場そのものを生み出す。『Kid Company』は、なぜ企業が高成長できないのか、そして日本から次のForest CompanyやOS Companyは生まれるのかを考えるための一冊である。単なるGAFA論でも、日本企業批判でもない。企業がKid CompanyからBonsai Companyへ、さらにForest Company、OS Companyへ進化できるかを問う企業進化論である。
Companies grow. But only a few become Forest Companies.
企業は成長する。しかしForest Companyになる企業はわずかである。
https://www.amazon.co.jp/dp/B0H5VNLY7K
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