Dénes の定理
長さ $${n}$$ の巡回置換を $${n-1}$$ 個の互換の積として表す表し方の総数は $${n^{n-2}}$$ に等しい、という定理があることを先日初めて知った。1959年の論文で József Dénes という方が証明したらしい。たとえば $${(1\,2\,3\,4)}$$ という長さ $${4}$$ の巡回置換を $${3}$$ つの互換の積として表す表し方は Dénes の定理によれば $${4^{4-2}=16}$$ 通りあるはずだけれど、じっさいにそれらを列挙すると
$$
\begin{align*}
&(1\,2)(2\,3)(3\,4),\quad
(1\,2)(2\,4)(2\,3),\quad
(1\,2)(3\,4)(2\,4),\quad
(1\,3)(1\,2)(3\,4),\\
&(1\,3)(3\,4)(1\,2),\quad
(1\,4)(1\,2)(2\,3),\quad
(1\,4)(1\,3)(1\,2),\quad
(1\,4)(2\,3)(1\,3),\\
&(2\,3)(1\,4)(1\,3),\quad
(2\,3)(1\,3)(3\,4),\quad
(2\,3)(3\,4)(1\,4),\quad
(2\,4)(1\,4)(2\,3),\\
&(2\,4)(2\,3)(1\,4),\quad
(3\,4)(1\,2)(2\,4),\quad
(3\,4)(1\,4)(1\,2),\quad
(3\,4)(2\,4)(1\,4)
\end{align*}
$$
となる。確かにどれも $${(1\,2\,3\,4)}$$ になるし、しかも相異なっている。がしかし、本当にこれで「全部」なのかと問われるとちょっとたじろぐ。なので、ちょうど $${16}$$ 通りであることを確かめておく。
$${4}$$ 文字の互換は $${6}$$ 個あるので、異なる $${3}$$ 個の互換の積の作り方は $${6\times5\times4=120}$$ 通りで、これらは奇置換。$${4}$$ 文字の置換のうちで奇置換であるものは互換か長さ $${4}$$ の巡回置換のどちらか。$${3}$$ 個選んだ互換の中に含まれる文字が3種類しかないとき、それらの積は互換になる:
$$
(a\,b)(b\,c)(c\,a)=(b\,c)
$$
このような場合は、使わない文字の選び方 $${4}$$ 通りと $${3}$$ 文字の互換 $${3}$$ 個の順列 $${3!=6}$$ 通りの積である $${24}$$ 通りある。よって、$${3}$$ 個の互換の積が長さ $${4}$$ の巡回置換となるのは $${120-24=96}$$ 通り。長さ $${4}$$ の巡回置換は全部で $${6}$$ 個あるので、それぞれが $${96/6=16}$$ 通りに表される。
この事実は例によって ChatGPT を通じて知った。「長さ4の巡回置換 (1 2 3 4) を3つの互換の積として表す表し方って全部で何通りあるかな?」と尋ねところ、「順序つきで数えるなら $${16}$$ 通りだよ。一般に、長さ $${n}$$ の巡回置換を $${n-1}$$ 個の互換の積に分解する最短分解の個数は $${n^{\,n-2}}$$ になる、という有名な公式がある。これは Cayley の木の公式とも関係しているやつだね。(以下略)」というお答えだったわけ。
ここで出てきた Cayley の公式というのは「 $${n}$$ 頂点のラベル付き木の総数は $${n^{n-2}}$$ に等しい」というもの。実は「長さ $${n}$$ の巡回置換の $${n-1}$$ 個の互換の積への分解」と「$${n}$$ 頂点のラベル付き木」の間には一対一対応が出来るらしく、そのことによって Dénes の定理が得られるというのが証明の一つの方針らしいです。が、ここではそれとは別の導出をやってみます。
まず記号の設定から。
$$
\begin{align*}
T_n &\coloneqq \{(i\,j)\,\vert\,1\le i \lt j \le n\}, \\
F_n &\coloneqq \{(t_1,t_2,\ldots,t_{n-1})\in T_n^{n-1}\,\vert\, t_1t_2\dotsb t_{n-1}=(1\,2\,\ldots\,n)\}, \\
\phi_n &= \# F_n
\end{align*}
$$
とおく。つまり $${T_n}$$ は $${n}$$ 文字のうちの2文字を入れ替える互換の全体、$${F_n}$$ は互換の $${n-1}$$ 個の組で、並び順に積をとると巡回置換 $${(1\,2\,\ldots\,n)}$$ に一致するものの全体、$${\phi_n}$$ が $${F_n}$$ の元の個数、つまり「長さ $${n}$$ の巡回置換を $${n-1}$$ 個の互換の積として表す表し方の総数」ということ。証明したいのは $${\phi_n=n^{n-2}}$$ であること。
$${\phi_1=\phi_2=1}$$, $${\phi_3=3}$$ ぐらいは直接に確認できる。実は、$${\phi_n}$$ は次のような漸化式を満たす:
$$
\phi_n = \frac n2 \sum_{p=1}^{n-1} \binom{n-2}{p-1} \phi_p \phi_{n-p}
\tag{$\spadesuit$}
$$
いったんこれを認めた上で $${\phi_n=n^{n-2}}$$ が成り立つことを確かめよう。$${n\ge2}$$ とし、$${1\le k\le n-1}$$ に対して $${\phi_k=k^{k-2}}$$ が成り立つと仮定すると、
$$
\phi_n = \frac n2 \sum_{p=1}^{n-1} \binom{n-2}{p-1} p^{p-2}(n-p)^{n-p-2}
$$
となるので、この右辺が $${n^{n-2}}$$ に等しいことを示せば良い。それはつまり
$$
\sum_{p=1}^{n-1} \binom{n-2}{p-1} p^{p-2}(n-p)^{n-p-2} = 2n^{n-3}
$$
を示すことと言える。ひゅー。まあちょっとずつ進めてみよう。和の添え字をずらし、$${m=n-2}$$ とおいてみると
$$
\sum_{k=0}^{m} \binom{m}{k} (k+1)^{k-1}(m-k+1)^{m-k-1} = 2(m+2)^{m-1}
$$
となる。これを証明しよう。さて、世の中にはちょうど良いものがあって、Abel's binomial theorem と呼ばれるらしい次のような恒等式があるそうな:
$$
\sum_{k=0}^m \binom mk (w+m-k)^{m-k-1}(z+k)^k = w^{-1}(z+w+m)^m
$$
これをありがたく使わせてもらおう。この式で $${w=z=1}$$ を代入してみると
$$
\sum_{k=0}^m \binom mk (k+1)^k(m-k+1)^{m-k-1} = (m+2)^m
$$
となる。おしい!あとちょっと小細工が必要だ。$${(k+1)^k=(k+1)^{k-1}+k(k+1)^{k-1}}$$ に着目して左辺を変形すると、普通の二項定理によって
$$
\begin{align*}
&\sum_{k=0}^m \binom mk (k+1)^k(m-k+1)^{m-k-1} \\
&\quad=\sum_{k=0}^m \binom mk (k+1)^{k-1}(m-k+1)^{m-k-1} \\
&\quad\quad{}+m \sum_{k=1}^m \binom {m-1}{k-1} (k+1)^{k-1}(m-k+1)^{m-k-1} \\
&\quad=\sum_{k=0}^m \binom mk (k+1)^{k-1}(m-k+1)^{m-k-1}
+m(m+2)^{m-1}
\end{align*}
$$
となる!やったね!これで目標としていた結果
$$
\begin{align*}
&\sum_{k=0}^m \binom mk (k+1)^{k-1}(m-k+1)^{m-k-1} \\
&\quad{}=(m+2)^m-m(m+2)^{m-1}
=2(m+2)^{m-1}
\end{align*}
$$
が得られました!
さてさて、では漸化式 $${(\spadesuit)}$$ はどうやって得られるのでしょうか。便宜上 $${\sigma=(1\,2\,\ldots\,n)}$$ とおきます。$${1 \le a \le n,\; 1\le p \lt n,\; b=\sigma^p(a)}$$ として、$${(t_1,\ldots,t_{n-2},t_{n-1})\in F_n}$$ に対して $${t_{n-1}=(a\,b)}$$ であるとすると、
$$
\begin{align*}
&t_1\dotsb t_{n-2}t_{n-1}=\sigma
\\
&\;\Longrightarrow\;
t_1\dotsb t_{n-2}=\sigma t_{n-1}=(1\,2\,\ldots\,n)(a\,b)
\\
&\qquad\quad{}=(a+1\,a+2\,\ldots\,b)(b+1\,b+2\,\ldots\,a-1\,a)
\end{align*}
$$
のように $${\sigma}$$ は共通の文字を含まないような2つの巡回置換の積に分かれ、それぞれの長さは $${p}$$ と $${n-p}$$ となる。いずれの長さも $${n}$$ 未満なので、帰納法の仮定から、それぞれを $${p-1}$$ 個および $${n-p-1}$$ 個の互換の積に表す表し方は $${\phi_{p}}$$ および $${\phi_{n-p}}$$ となる。
ということは、$${t_{n-1}=(a\,b)}$$ であるような $${(t_1,\ldots,t_{n-1})\in F_n}$$ の総数は $${\phi_{p}\phi_{n-p}}$$ だ!…というのは早とちり。共通の文字を含まないような巡回置換のそれぞれを互換の積で表すと、それぞれの表示に表れる互換同士は可換なので、積の順番の入れ替えが可能な分だけ別の表示が発生するのであった。たとえば
$$
(1\,2\,3\,4\,5\,6\,7)(2\,4)=(1\,2\,5\,6\,7)(3\,4\,5)
$$
であるが、たとえば
$$
(1\,2\,5\,6\,7)=(1\,2)(2\,5)(5\,6)(6\,7),\quad
(3\,4\,5)=(3\,5)(3\,4)
$$
のように互換の積に表すと、$${(3\,5), (3\,4)}$$ は $${(1\,2), (2\,5), (5\,6), (6\,7)}$$ のいずれとも可換なので、ここから
$$
\begin{align*}
(1\,2)(2\,5)(5\,6)(6\,7)(3\,5)(3\,4)
&=(1\,2)(3\,5)(2\,5)(5\,6)(3\,4)(6\,7) \\
&=(1\,2)(2\,5)(3\,5)(3\,4)(5\,6)(6\,7) \\
&=\ldots
\end{align*}
$$
のように複数の表示が生まれる。ではどれぐらい?というと、
$$
{}_{n-p}\mathrm{H}_{p-1}=\binom{n-2}{p-1}
$$
通り。たとえば上の具体例だと、
$$
*(1\,2)*(2\,5)*(5\,6)*(6\,7)*
$$
の5ヶ所の $${*}$$ から重複を込めて2つ選んで $${(3\,5), (3\,4)}$$ を挿入するやり方の総数、ということ。
$${1\le a\le n,\; 1\le p \lt n}$$ に対して $${(a\;b)}$$ はすべての互換をちょうど2度ずつわたるので、まとめれば
$$
\phi_n = \frac n2 \sum_{p=1}^{n-1}\binom{n-2}{p-1}\phi_{p}\phi_{n-p}
$$
となります。ふー、やれやれ。
おおまかな方針は ChatGPT が教えてくれたもので、そこから先の細かいところについては自力で詰めて書くことにしたら、思いのほか時間がかかって記事も長くなってしまった…。もうちょっと短い導出はないのかな?
