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INDYWORLD 夏休み特別編「ハラヘラスオオカブト爺見参!」

――僕らはみんな、誰かに生かされている。

ACT1 夏休みなんて、大嫌い?

ENGLISH ACADEMY、裏庭。

少し前、インデイが何やら大騒ぎした結果、庭のあちこちにできたクレーターは、ほぼ埋め戻されていた。

ただ一つ。

北側の飛び石の近くにある穴だけが、なぜか忘れられている。

夏休みの朝。一ツ橋家の次女、ハルカ、10歳。
自然が嫌い。
虫は、もっと嫌い。
そんなハルカが、学校の夏休み課題
「身近な自然観察」のために、しぶしぶ庭を歩き回っていた。

ハルカ「もー、暑っついのに、なんで朝からこんなことやんなきゃなんないの💢」

そのそばを、ブンブンと飛び回っているのは、ハルカの組み立てた、AI personal friend robot――
PF3000。

PF3000「早めに済ませれば、あとでたくさん遊べます」

ハルカ「そんなこと、わかってるわよ!でも算数のプログラミングもあるし、英語のフィールドワークだってあるし……」

空を見上げる。
ハルカ「あー、アイス食べたい!」
「後、適当にやっといて」


ママから見えないところで

PF3000(ガン無視)「自然観察開始から、まだ7分32秒です」

ハルカ「……あんたのそういうところ嫌い」

PF3000「記録しました」

ハルカ「記録すんな!」

縁側の方から、ミキの声。
ミキ「ハルカー! ちゃんとやっとるー?」
ハルカ「やってるー!」

小声で、
「……やってないけど」

PF3000「虚偽の申告を確認」
ハルカ「shut up!!」
「プログラム書き換えたろか」

PF3000 「以後気をつけます」

二人はミキに見つからないよう、庭の隅の木陰へ移動した。
ハルカ「ここなら見えないよね。ちょっと休憩」
PF3000「課題開始から9分04秒です」
ハルカ「あんたは見張り」

一歩。

二歩。

そして――

ズボッ。

ハルカ「……え?」
足元の地面が消えた。


ぎゃあああ!何?何?何!


ドドドドドド……。

ハルカ「ぎゃああああああ!」

PF3000「落下を検知――」

ズザザザザーン!

二人の姿は、そのまま穴の中へ消えていった。

ACT2 何か、いる

ハルカ「……いたたた」

目を開ける。

薄暗い。

ひんやりした土。

むき出しの木の根。

遠くから、聞いたことのない虫の声。

ハルカ「ここ……どこ?」

PF3000「現在位置を測定中……測定不能」

ハルカ「役に立たないじゃん」

PF3000「ultra wi-fiが不安定です」

その時。

ボリ……。

ボリ……。

ハルカ「……何、この音」

PF3000「音源を解析します」

ボリ……ボリ……。

ハルカ「ねえ……何かいる」

暗闇の向こう。

巨大な影が動いた。

そして――

ぬうっ。

長い角。

ハルカ「…………」

一秒。

二秒。

ハルカ「あわわっ、どうしよ?どうしよ!来ないでー!」

???「やかましい!」

来ないでー!

ハルカ「しゃべったあああ!」

???「騒ぐでない。食事中じゃ」

巨大なカブトムシが、熟れた果実らしきものを抱えていた。

ハルカ「む、虫ぃぃぃ!」

???「無視とは失礼じゃのう」

ゆっくりと胸を張る。

???「ワシはハラヘラスオオカブトじゃ」

間。

「ヘラクレス某の親戚にあたる」

PF3000「検索します。ハラヘラスオオカブト……」

ピピッ。

PF3000「該当する生物情報はありません」

ハラヘラス爺「当たり前じゃ!」

PF3000「未確認生命体です。」

爺「ワシをUMA扱いするな!」

ハルカ「でも虫でしょ?」

爺「それがどうした」

ハルカ「だって……気持ち悪いしその……」

爺「そうか」

ハルカ「……怒らないの?」

爺「おぬしがワシを嫌うのは勝手じゃ。ワシとて人間全部が好きなわけではない」

ハルカ「……」

爺「じゃがな」

大きな角を少し持ち上げる。

爺「嫌いなのと、いなくて良いとは、違うぞ」

ACT3 害虫って、誰が決めた?

三人は、穴の奥を進むことになった。

ハルカ「なんで私が虫についていかなきゃいけないのよ」

爺「出口を知っておるのはワシだけじゃ」

ハルカ「……先にどうぞ」

少し歩く。

朽ちた木。

その下には、小さな虫たち。

ハルカ「うわっ! きも!」

爺「近頃の人間は、何でも『キモ!』とか『ヤバい』で片付けるが、あれらは朽木を食べ、土に戻しておるんじゃ」


うわ!何か踏んだ!

さらに進む。

地面の中を、小さな生き物が動く。

爺「あれも土を作る」

木の根。

その先。

地上から差し込む細い光。

爺「木が育つ」

枝の上で鳥が鳴く。

爺「虫を食べる者もおる」

PF3000「食物連鎖を確認」

爺「すぐ難しい言葉にするのう」

PF3000「生態系とも表現できます」

爺「ワシらは、そんな言葉は使わんが、生きておる」

ハルカ「でもさ」

爺「なんじゃ」

ハルカ「人間に悪い虫もいるでしょ?」

爺「おるじゃろうな」

ハルカ「ほら。害虫じゃん」

爺「では聞こう」

爺は立ち止まった。

爺「害虫とは、誰が決めた?」

ハルカ「え?」

爺「人間に都合が悪ければ害虫。都合が良ければ益虫」

少し鼻を鳴らす。

「ずいぶん勝手じゃと思わんか」

ハルカ「……」

爺「森はな」

静かに続ける。

爺「そんな区別を、誰にもつけておらん」

ハルカは、初めて黙った。

ACT4 ワシらは、ただ生きておる。

黙々と歩く三人。

ハルカ「ねえ、まだ遠いの?」

爺「もうすぐじゃ」

ハルカ「もうすぐって、どれくらい?」

爺「あと少しという意味じゃ。人間はせっかちじゃのう。ワシには『ジカン』というものが、いまだにわからん」

PF3000 「データ不足です。しかし、私の勘によりますと、この歩行速度で、あと48時間です。」

ハルカ(座り込む)「勘って何?48時間も!あと2日?えーっ!
ママ、助けてー。お腹も空いてきた」

お腹空いた!

爺(笑って)「おまえもハラヘラスじゃな。
それ、この爺特製の天然ローヤルゼリードリンク飲んでみ。」

ハルカ「ローヤルゼリーって、ハチじゃないの?
とにかく虫のドリンクなんて飲めるわけないじゃん」

PF3000「成分解析中……。大丈夫です。100%味も栄養も、保障します。多分」

ハルカ「あんたも、だいぶ怪しくなってきたわね」

PFE3000「バッテリー低下だからです」

爺「何、ごちゃごちゃ言っとるんじゃ。いるのか、いらんのか?」

ハルカ「いります!(味見する)
何これ!めっちゃ美味しいやん。おかわりちょうだい!」

を「げんきんな娘なやあ。じゃが、飲み過ぎたらあかん。そいで、相棒の方は大丈夫なんか?」

PF3000「報告します。バッテリー残5%切りました。
リュックの中に、予備のバッテリースティックがあるはずです。
至急取り替えてください!」

ハルカ「ところで、爺は、さっき時間なんか気にしないって、言ってたけど、いったい何歳なの?」

爺「何や、藪から棒に。まあ、知らんけど、ワシが生まれた頃は、人間たちは、『トクガワさま』とか、『ウエさま』とか、言ってたそうな」

ハルカ「それって江戸時代?」

PF3000「これだけでは、正確には、測定できませんが、200年~450年前だと思われます」

ハルカ「頭痛くなってきた。
さ、行こう」

やがて、三人は地上へ続く細い道に出た。

歩いて、

歩いて、

途中、一匹の小さな虫が鳥に食べられた。

ハルカ「あ……」

爺「どうした」

ハルカ「かわいそう」

爺「そうじゃな」

ハルカ「助けないの?」

爺「ワシが助ければ、今度は鳥が腹をすかせる」

ハルカ「……」

爺「自然というものは、いつも優しいわけではない」

少し間。

爺「じゃが、無駄もない」

ハルカ「無駄じゃない?」

爺「食べる者も、食べられる者も、土に還る者も、育つ者も」

爺は土を踏んだ。

爺「みんな、誰かに生かされておる」

PF3000「相互依存関係」

爺「おぬしは黙っとれ」

ハルカ、少し笑う。


やっと笑ったのう

爺「お」

ハルカ「なに?」

爺「やっと笑ったのう」

ハルカ「別に。……でも、ありがとう」

ACT5 身近な自然観察

庭。

ミキ「ハルカー?」

穴の中から、

ハルカ「ママー!」

ミキ「え?」

数分後。

泥だらけのハルカとPF3000が、穴から引っ張り出された。

ただいま!

ミキ「もう! 何しとったん!」

ハルカ「自然観察」

ミキ「穴ん中で?」

ハルカ「うん」

ミキ「……変わった観察やなあ。(心の中 でも、すてきな秘密をもろたんやな)」

PF3000 「課題開始から10分04秒です」

その日の午後。

机に向かうハルカ。

タブレットを片付け、
課題用紙を広げる。

題名――

『身近な自然観察』

じっと見る。

消しゴム。

ゴシゴシ。

そして、新しい題名を書く。

『害虫って、誰が決めた?』

PF3000「課題の指定題名と異なります」

ハルカ「いいの」

PF3000「減点の可能性があります」

ハルカ「いいったら、いいの」

夜。

ハルカはこっそり庭へ出た。

手には、小さな皿。

その上には、よく熟れたバナナ。

飛び石の横に置く。

PF3000「観察対象への給餌は、課題条件に含まれていません。」

少し間

「でも、私も賛成です。」

ハルカ「あんたもわかってきたわね」

木の陰。

しばらく何も起きない。

ハルカ「……いないのかな」

その時。

暗闇から声。

ハラヘラス爺「熟れ具合が、まだ足らんのう」

ハルカ「いるんかい!」

爺「ワシはいつでもハラヘラスじゃぞ」

モグッ。

爺「腹が減っては、共生も語れん」

ハルカ「……しょうがないなあ」

PF3000「記録します」

ハルカ「それは記録していいよ」


爺、大好き💕


どこかで秋の虫が鳴いた。

木も。

虫も。

鳥も。

人も。

そしてAIも。

同じ夜の中にいた。

――僕らはみんな、誰かに生かされている。


fin

【ハラヘラスオオカブト】

学名:Dynastes famēs
生息地:不明
特徴:腹が減ると説教が長くなる。
好物:熟れすぎた果物。
天敵:空腹。
備考:ヘラクレス某との血縁関係については、現在も確認されていない。


おまけ写真 マーマレード作りました


夏休みスペシャル、最後までお読みいただき、ありがとうございました。

皆さんのすぐ近くにも自然は残っていて、爺たちも待っています。
すてきな、夏休みになりますように。

#INDYWORLD
#4STEPSENGLISH  

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