INDY WORLD外伝 【銀子覚醒編】 1
【名前】
2043年、秋。
神奈川国立大学のキャンパス。
就職課の掲示板の前で、銀子は足を止めていた。
掲示には、大きな文字でこう書かれている。
『最終面接突破! 個別相談会』
銀子
「最終面接って……。うち、エントリーシートもまだやし、
今さら親のコネもなあ」

銀子は、周囲には自分を Silvia (シルビア)と呼ばせ、
本名の「横一(いち)銀子」は、ほとんど明かしていない。
最近では、学内の友人はもちろん、落語研究会の仲間たちまで、
「内定、何社いけた?」
が挨拶代わりになっている。
そんな中、銀子は周囲に向かって、
「うちは、お笑い芸人一直線や!」
と宣言していた。
しかし、実態は何も進んでいない。
いや、正確には、いくつかの芸能事務所を訪ねてはみた。
だが、糸口さえつかめていない。
銀子
「あーっ、考えてもしゃあない!」
気がつくと、足は自然にタロウやミキたちの ENGLISH ACADEMY へ向かっていた。
銀子は「横浜共育編」にボランティアとして関わって以来、ACADEMYへ足しげく通っていたのだ。
坂道を上っていくと、前方に見慣れた後ろ姿が見えた。
銀子
「あかりちゃん!」
あかりは、銀子の姉、ミドリの同僚である。
振り返ったあかりの隣には、銀子が初めて見る青年が立っていた。
――超イケメン💕
あかり
「Silvia! 紹介するね。こっちはハルト、目黒ハルト。アメリカから帰ってきたばかりなの」
銀子
「Hello……」
ハルト
「Hi, Silvia. 君、日系人?」
銀子
「い、いえ、日本人です。Silviaは……何ていうか、芸名みたいなもんで。ハハハ……」
あかり
「えっ、そうなの?」
銀子
「はい……。本名は、その…内緒ですよ。
横一……銀子と
いいます」
ハルト
「Ginko! Sounds cool.」
銀子
「えっ?」
ハルト
「Silviaはアメリカではわりとよくある名前だし、僕はGinkoの方がチャーミングだと思うな」
銀子
「チャ、チャーミング……」
動揺した銀子は、坂道で足をもつれさせる。
ハルト
「Be careful!」
ハルトが、とっさに銀子を抱きとめた。
ハルト
「Are you okay?」

銀子は真っ赤になりながら、何度もうなずく。
銀子
「は、はい……」
あかり
「ハルト、銀子ちゃん何か悩んでるみたいだから、ちょっと話を聞いてあげてね」
ハルト
「Aye, aye, ma’am.」
銀子
「いえ、私は……は、はい?」
【縁側1】
ハルトは、縁側に腰掛け、庭を眺めていた。
ハルト
「ここ、いい。
ENGLISH ACADEMYって、あかりから聞いた時は、教室とか、カフェみたいなミーティングルームを想像してたんだけど……
全然違う。
でも、この庭や、ここからの眺めを見ていると
――大げさかもしれないけど、自分が受け入れられているような気がするよ」
あかり
「そうでしょう?
私もミキちゃんの優しさって、ここから来てるんだなあって、納得したの」
銀子
「私も、ここに来るとほっとします」
そこへ、ミキがお茶を運んでくる。
ミキ
「なーに、みんなして語っちゃって」
あかり
「ミキちゃん、あの時は、本当にありがとね」
ミキ
「何を今さら。……でも、高くつくわよ」
ハルト
「僕からも、お礼を言います。
あの時のミキさん、かっこ良かったですよね。
確か――Ack-chooww!
(アチョー!)でしたっけ?」

ミキ
「もーっ、言わんといて!」
※詳しくは『外伝・ミキ編』参照
https://note.com/cute_bee8449/n/n6dd8d371e4d0
https://note.com/cute_bee8449/n/n6d52c24020e4
銀子
「皆さん、すごいんですね。
それに比べたら、私なんて、何も……」
ハルト
「君は、これからじゃないか。
僕は楽しみにしてるよ。
それにしても、そのチャーミングな名前の由来も知りたいな」
その時、
冷蔵庫の中から、ビーフジャーキーをくわえたインデイが現れた。
インデイ
「それな、本人の口からは、ちと言いづらいやろ。
ここは、わてが脚色抜きで話したる。皆、よう聞き。
銀子、えーな?」
銀子
「まー、えーけど。今さら、隠すもんでもないし」
インデイ
(名調子で)「さて、時は遡り、銀子のお父上が出生届を書いた時のことやった。ぺペン!
当時、お父上は、仕事の関係で横一銀行はんには、ひとかたならぬ世話になっとったそうな。
そこで、届け出の氏名欄に、
うっかり『横一銀行』と書きかけてしもうた。
ペペン、ペンペンペン!」
ハルト
「ほう」
インデイ
「『横一銀』まで書いてしもうてから間違いに気づいたんや。
しかし、時すでに遅し。
そこで、この子は一生金には困らんようにしちゃると、最後に『子』を足して――」
インデイは、銀子を前足で示した。

インデイ
「横一銀子の誕生や!」
銀子
「脚色しすぎ!!」
インデイ
「わては、これも神さんの采配やと思うとる。
そりゃ、大きゅうなってから、名前のせいで、泣いて、わめいて、大暴れだったそうや。
ところが翌朝な、
持ち前の超ポジティブな性格から、なぜかお笑い芸人を目指すことを決意したんや」
あかり
「切り替え、早っ!」
インデイ
「それ以来、周囲のもんは銀子を気遣い、Silviaと呼ぶようになったんや、
てけ、てんてんてん。」
銀子
「違うわ!
Silviaって呼ばせてるのは、私からや。
さすがに『銀子』は、ちょっとないなと思って……」
ハルト
「いや、ぼくは銀子(Ginko)、ステキな名前だと思う。
それに君は笑った方がかわいいよ」(ハグ)
銀子
「ちょ、ちょっと!
でも、そんなこと言うてくれるの……ハルトさんだけや💕」
銀子真っ赤。
インデイ
「ほう。名前ひとつで、えらいレゾナンスしとるやないか」
銀子
「インデイ先生は黙っとって!」あかり「ちょっと、二人くっつき過ぎ」
銀子(照れ隠し)「おっと!これは、しもた!」
続く
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
銀子編は、全5回となります。
どうぞ続けてお読みください。
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