見出し画像

『micro-town ― 明日の自分が暮らす場所』 01

朝の光が、静かに回廊へ差し込む。中庭では、一人の高齢の女性が足を止め、咲き始めた花を見つめていた。

「今年も咲いたね」

誰に話しかけるでもなく、そうつぶやく。

少し離れた場所では、青年がベンチを丁寧に拭いている。一つ終えると、次のベンチへ。決まった順番で、ゆっくりと。

「おはよう」

職員が声を掛ける。青年は小さく頷き、また手を動かした。

広場からは、子どもたちの笑い声が聞こえる。少女がしゃがみ込み、小さな男の子へ本を読んでいた。

「次は、このページ」

「うん!」

二人は顔を見合わせて笑う。

診療所の入口では、若い夫婦が受付を済ませている。乳児を抱いた母親に、受付の女性が穏やかに微笑む。

「今日は健診ですね」

「はい、よろしくお願いします」

その隣では、高齢の男性が血圧手帳を手に順番を待っていた。

カフェには、新聞を広げる男性がいる。コーヒーを一口飲み、窓の外へ目を向ける。

花壇に水をやる人。

散歩を楽しむ人。

仕事へ向かう職員。

誰かを迎えに来た家族。

それぞれが、それぞれの時間を過ごしている。誰も急がない。誰も追い立てない。それでも、一日は静かに流れていく。

ここは、病院ではない。介護施設でもない。学校でも、公園でもない。けれど、そのどれでもある。

子どもも。働く人も。高齢者も。障害のある人も。支える人も。支えられる人も。同じ町の中で、それぞれの暮らしを続けている。

人は、生まれ、育ち、働き、悩み、病を経験し、老い、やがて人生を終える。そのどこかで、誰かの支えを必要とする日が来る。だから、この町はある。人生の変化を受け止めるために。

人は、この町を micro-town と呼んでいた。

しかし、この町は最初から存在していたわけではない。たった一つの問いから、すべては始まった。

――このままの社会で、本当に人は暮らし続けられるのだろうか。


次の話 / 最初から

#小説 #連載 #介護 #家族 #創作


いいなと思ったら応援しよう!