星のなかのビューティフル・スケーティングⅣ ―桜は咲き続ける―
宮城セキスイハイムスーパーアリーナでは、ファンが満天の星の一つになって輝く。夜空に見立てられた観客席は、白、水色、青、黄緑、黄、橙、赤、紫、色とりどりに輝き、アイスショーの演技を演出していく。
公演:notte stellata 2026
2026年3月9日
宮城セキスイハイムスーパーアリーナ
羽生結弦×東北ユースオーケストラ
音楽:『八重の桜』作曲:坂本龍一
東北地方を南北に貫く山並みは、奥羽山脈。
いにしえの陸奥国「奥州」、出羽国「羽州」をあわせた名前を奥羽といい、山脈が県境になっている。南から北へ、磐梯山、安達太良山、蔵王連峰、栗駒山、岩手山、八甲田山と名山が続く。
平野からそれを眺めるとき、山の向こうに暮らす人を想う。
古くから人は険しい山を越え、行き交いながら暮らし、奥羽山脈には、いくつもの街道が東西を結んでいる。
山は隔てるものではなく、通るもの。そんな風に思ったこともある。
notte stellata 2026 『八重の桜』
新調された衣装は「らしさ」が引き立ち、氷上で見えた瞬間、思わず息をのむ。
右半身を覆う透け感のある長い布が、ひらひらと揺れ、エレガントさをまといながら、斜めに上げた右手からは凛々しさが放たれた。シルエットではリボンの騎士が浮かぶも、そうともいえず、濃いグレーの襟元が雰囲気を引き締めた和装風は、剣士のような鋭さも放っていた。
桜の枝ぶりと見える墨色の線描きの間には、淡いピンクが色づけられ、上半身に描かれたその線は、袖とカフスにつながっていた。花が咲き、満開になって、その存在を知らしめる桜の木が、風に吹かれて動くように思えた。
絵柄の意図は定かでないものの、ベルト下の身ごろに描かれた墨色の線は、連なる山の稜線のように目に映る。桜の枝の向こうにある、奥羽のなだらかな山並み。
桜前線は、どんなときでも奥羽の山々を越えていく。震災があっても、どんなことがあっても、春になると桜は咲く。
羽生結弦の『八重の桜』を見て、このことを胸にしまった。
演技後、観客への挨拶が終わると、羽生は東北ユースオーケストラに向いてひざまずきながら、胸に右手を置いて少し時間をとり、若き演奏家たちへ、その手を差し伸ばす。震災で遺児となった子どもたちも、それぞれに成長して、このオーケストラに集まっている。
東北ユースオーケストラは、坂本龍一さんが音楽の力による被災地支援を呼びかけ、立ち上げられたのだという。2023年3月にこの世を去った坂本龍一さんが作曲した『八重の桜』を東北ユースオーケストラが演奏する。演奏の音は時折、温かさも含んで穏やかな気持ちにさせてくれた。
あっという間の時間に、たくさんのことが心のなかで行き交った。震災、復興の15年、坂本龍一さん、北京五輪からの4年。自分にあった出来事も。とても尊い時間にも思え、拍手をしながら『八重の桜』の終演をかみしめた。
競技者として最後になったフリースケーティング《天と地と》から《八重の桜》へ。演技の後半には、氷を削ってターンして回り、荒々しい鋭さもあったが、手元に祈りか何かを受け取ると、フィナーレでは、握り合わせた両手を真上に伸ばしてスピンを回り、静かに舞台を終えた。
「どういうふうにこれからの人生を生きていきたいか。」という思いも込めたという※《八重の桜》には、《天と地と》で見せていた刀を鞘におさめるような姿があった。
新しい時間を生きていこうとする思いが、notte stellata 2026 を通り抜けていた。
※羽生結弦さん「八重の桜」は「天と地と」の続編 一問一答後半、スポーツ報知、2026.3.7
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