星のなかのビューティフル・スケーティングⅠ ―氷上のアトリエ―
2026年3月9日(月)
宮城セキスイハイムスーパーアリーナは、観客席を夜空に見立て、ファンが満天の星の一つになって輝く空間になっていた。白、水色、青、黄緑、黄、橙、赤、紫、色とりどりに。
公演の合間、会場の扉は開けられて、宮城県利府町のしんとした空気がすうっと入り込んでいた。その冷たさを感じると、震災の日もこんな寒さだったのかなと15年前の出来事と自分がつながった。停電で町は真っ暗だったという。余震が続くなかにいて、空いっぱいに星が輝いているのを見たとき、どんな思いだったのか。4回目となる「羽生結弦notte stellata 2026」の間、少しでもその時に寄り添ってみようという気持ちになっていた。
羽生結弦は、美しく輝く星たちに「希望の光」を感じたという※。
それぞれの「希望の光」をスケートで披露したのは、
羽生結弦
ハビエル・フェルナンデス
ジェイソン・ブラウン
シェーリーン・ボーン・トゥロック
宮原知子
鈴木明子
田中刑事
無良崇人
本郷理華
ビオレッタ・アファナシバ
「notte stellata」のリンクが広いアトリエに見えた時間があった。氷上のアトリエには、いくつかのポートレートが立てかけられて、そこにはしなやかに整ったムーブメントで収まるジェイソン・ブラウンの姿があった。
会場の雰囲気に溶け込むような黒地、シルバーに光るラインストーンがあしらわれた衣装を纏う。
一つは、水平より上にはねあがった両足のつま先を手にあてているバレエジャンプの姿。
もう一つは、スリムなト音記号のしなりのように、上げられたレッグの映えるレイバックスピンの姿。
そしてもう一つは、右手を遠くに差し出し伸びやかで、直線が際立つスパイラルの姿。
どれも、氷からつま先までの幅が広く、高さあるスタイルで、そのしなやかさに敵うスケーターはいないと思われる。
そして、ふわっとフリップジャンプを跳ぶ姿もあった。
時々髭をたくわえて登場するジェイソン・ブラウンは、羽生結弦と同世代でありながら、2025-2026シーズンも現役を続行していた。GPシリーズでは表彰台にはわずかに届かず、全米選手権はジャンプミスが続いて8位にとどまったという。引退してもおかしくない年齢になりながら、現役を続けているのは、4回転時代に「諦める必要はない」※と自分のスタイルを貫き続けている彼のスケートをまた見たい、と待っている人がいるからだと思う。「Beautiful」の賛辞は終わらない。
『鏡の中の鏡』は、2024-2025年シーズンフリースケーティングの音楽。
Spiegel im spiegel (1978年)
曲:アルヴォ・ペルト 振付:ロヒーン・ワード
ピアノとバイオリン(チェロ)。
均一のリズムで上がるピアノの和音と、間をとって響く低音、その繰り返しが心地よく、それに対話するように奏でられるバイオリン(チェロ)が、氷上を不思議な空間にしていく。
バイオリンの音色が、スケーティングの軌道を導くように、ジェイソン・ブラウンを引き連れていた。氷上の空間には、しなやかなムーブメントを披露する姿がポートレートに写し取られていき、一枚一枚、立てかけられていく。ジェイソン・ブラウンが向き合ってきた彼だけにしかないスケーティングは、キャリアのどこにあっても変わらず、輝きと躓きを見つめている。
『鏡の中の鏡』の静謐さに入り込むと、その人の心象風景を映し出すことがあるという。アトリエの一枚一枚を覗き込むように見て、美しいそのスケーティングをずっと忘れないよう、目に焼き付けようとした。
ラストスピンの静かなフィナーレとともに、それは風花が舞うように消えてしまったけれど。
公演:notte stellata 2026 2026年3月9日(開催は7~9日)、
会場:宮城セキスイハイムスーパーアリーナ
ジェイソン・ブラウン、音楽『鏡の中の鏡』より
※羽生結弦 notte stellata 2026 公演パンフレット
※田村明子「諦める必要はない」ジェイソン・ブラウンが現役続行を決意した“両親からの涙の電話”「来季もショーと競技を続けていく」 Number Web、2023.5
お読みいただき、うれしいです。ありがとうございました。
いいなと思ったら応援しよう!
よろしければ応援お願いします。