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シチズンサイエンス研究センター活動記録【2025年度】その5 「市民参加による海洋総合知創出手法構築プロジェクト」サイトビジット@東京大学大気海洋研究所大槌沿岸センター

センター長の森田です。

2025年度の活動記録、第5弾は岩手県大槌町への「サイトビジット(現地視察)」の報告です。

私は現在、文部科学省の「海洋資源利用促進技術開発プログラム:市民参加による海洋総合知創出手法構築プロジェクト」において評価委員を務めています。このプロジェクトは、気候変動などの複雑な課題に対し、専門家だけの視点ではなく、市民の多様な視点や活動を掛け合わせることで、新しい「海洋総合知」を創り出す手法を確立しようとする非常に野心的な試みです。文科省がシチズンサイエンスの事業に予算をつけてくれています。

今回、そのプロジェクトの中核推進機関である東京大学大気海洋研究所の大槌沿岸センターを訪ねてきました。

砂浜のマイクが変える「ゴミ」の定義

まず体験したのは、海岸でのゴミ拾いとサイエンスを組み合わせたワークショップです。 驚いたのは、東大のプロの研究者が砂浜でマイクを握り、参加者全員に向けて生態系や地質の解説を行っていたことです。

生態系の話を聞く

普通のゴミ拾いなら「落ちているものを全部拾って綺麗にしよう」となりますよね。しかし、専門家の解説を聞くと、視点がガラリと変わります。 「この漂着した海藻は、小さな生き物たちの隠れ家(シェルター)になっているから、取り除いちゃダメなんです。鳥の餌にもなっています」 「この石の形はね……」

石の話を聞く

生態系の仕組みを知ることで、ただの「ゴミ」だと思っていたものが「生き物たちの家」に見えてくる。何でも拾えばいいわけではなく、「何を残し、何を拾うべきか」という科学的な判断基準が参加者の中に生まれていくプロセスは、まさに探究そのものでした。

科学のあとに、音楽ワークショップ!

サイエンスカフェ形式の学びのあとは、さらにユニークな展開が待っていました。拾ってきた漂着物(ゴミ)を使って楽器を作り、最後にはみんなで演奏を楽しむというアートプログラムです。

楽器作り

科学的な学びを経て、いわば「海の一部」として拾い上げた素材を使って音楽を奏でる。知的な刺激のあとに、感性を動かす創造的な時間が続く。この一連のプロセスがあるからこそ、海との繋がりがより深いものとして心に刻まれるのだと感じました。

演奏前

環境DNAのシチズンサイエンス

午後からは、地元の方々と一緒に行う「おとなの遠足」に参加しました。 これは、水の中に含まれる生物由来のDNAを分析する「環境DNA」のシチズンサイエンスです。地元の皆さんも「自分たちの海にどんな魚がいるのか」を研究者と一緒に追いかけるプロセスを心から楽しんでいる様子が印象的でした。

研究センター内で市民参加型の研究成果報告

また、子どもたちから絶大な人気を誇っているのが「カニのサイエンスカフェ」。カニの専門家が本気で地域に入り込み、その面白さを共有している。専門知が「遠い世界の話」ではなく、地域の子どもたちの「日常のワクワク」に溶け込んでいました。

カニグッズが並ぶ。水槽には色んなカニが。

リアルな拠点「三陸ふるさと社会協創センター」の誕生

このプロジェクトで更に驚かされたのは、拠点の在り方です。 当初はバーチャルな海洋ラボが想定されていましたが、なんと現地には「三陸ふるさと社会協創センター」というリアルな場まで作られていました。

やはり、顔を合わせ、同じ空気を吸いながら探究できる物理的な拠点の力は絶大です。バーチャルを飛び越えて、地域に根を張る拠点を作ってしまうという実行力には、ただただ圧倒されました。


今回の視察を通じて、社会と科学の接点が、今はまだ「多様なドット(点)」として打ち込まれている段階ではありました。

しかし、大槌という場所では、ゴミ拾い、環境DNA、カニの話、そしてアートといった一見バラバラなドットが、少しずつ繋がり、「シチズンサイエンスの生態系」として形になり始めています。

当センターが掲げる「Culture of Inquiry(探究する文化)」も、こうした現場の「ドットを打つ作業」の積み重ねから生まれるはずです。大槌の皆さんが見せてくれた「科学を文化として楽しむ姿」を、私たちの活動にもしっかりと還元していきたいと思います。