「体で笑う」。自然にととのう姿勢学。
「笑う」という漢字の由来が、「神に仕える巫女が、両手をあげて神を楽しませるために踊る様子」であったと知ったとき、ちょっと驚くと同時に、「ああ、やっぱりなあ」と、すとんと腑に落ちる嬉しさを味わいました。
「笑う」といえば、一般的には顔の表情。でももともとは、全身の表現であったのだなぁ。祈りであり、喜びであったのだなぁ!
「体で笑う」ことを、「自然にととのう姿勢学」として提唱したいわたしにとっては、まさに笑いたいほど嬉しくなっちゃう言葉の由来でありました。
さて、「体で笑う」とはどういうことか。
体に何をもたらすのか。
みなさんのお体に直接ふれながら伝えることは叶いませんが、かわりにそれを、こうして文章にして届けることに意味がある、と思っています。
ご自分の体を大切にし、本当の意味で「ととのえる」ことができるのはご自分だけ。
どんな名医もゴッドハンドも、そのサポートができるに過ぎません。
実際に不調を治し、快適な体をつくっていくのは、他ならぬご自身の脳であり、神経であり、恒常機能であり、体の仕組み。ご自身以外の何者も、そこに直接作用を及ぼすことはできないのです。
だから、体の仕組みを「知る」ことは、体調をととのえることに直結すると思っています。
「知る」といっても、必ずしも多くを学ぶ必要はないし、調子が悪いときには、病院や専門家を頼ればいいと思います。
ただ、「自分の体ために、自分に何ができるかな」という視点を持って生きること。
それが大切なのではないかしら。
もしその一助となり得るなら……体について、わたしがこうして書き記すのも、価値あることだと思えるのです。
「体で笑う」。
心を込めて、それを言語化してまいります。
綴る言葉が少しでも、みなさんのお役に立ちますように!
1)骨盤底筋で、笑ってみよう。
では、「体で笑う」ことについて、解説していきますね。
イラストAをご覧ください。

胸を目、おへそを鼻、骨盤底筋を口に見立てて、その「顔」で笑う。
それが今回の記事の主旨です。
このうち、お伝えするのがいちばん難しそうな、「口」──「骨盤底筋」の話から、始めてみたいと思います。
骨盤底筋というのは、骨盤の底をふさぐ、いくつもの筋肉の集まりです。骨盤の中にある腸や膀胱、子宮などの内臓を、下から支える働きをしています。
胴体の底辺にあるこの筋肉群は、その形状から「ハンモック」と形容されることもあります。イラストにすると、ちょうど口のようにみえますね!
骨盤底筋はいくつもの筋肉の集まりなので、その付着部は一箇所ではありませんが、「笑顔」をイメージをするときには、イラストAに☆印をつけたあたり、鼠径部の奥のほうを「口角」だと捉えるのがわかりやすいかと思います。
この「口角」をきゅっと持ちあげて、笑ってみましょう!
「笑ってみましょう」と簡単に書きましたが、実際に、この「口角」をさっと引きあげて、「笑えた!」と実感できる方は、それほど多くはないかもしれません。
というのは、骨盤が本来の傾きから大きくずれていると、体の構造上、骨盤底筋を引きあげるのが、大変難しくなるからです。
同じ骨盤底筋への刺激でも、お尻の穴をすぼめるように力を入れるのは比較的簡単なのですが、その運動は、むしろ骨盤の後傾を増長してしまうので、個人的にはあまりお勧めできません。
そうではなくて、きゅっと「口角」をあげて笑うように、骨盤底筋全体を引きあげる。すると、お尻の穴を含めた筋肉全体が、軽く持ちあがりながら引き締めらます。
ちょうど、歯をみせずに笑ったときの唇が、ぴんと引き締められるのに似ていますね。

ですから上手に「笑う」ためには、骨盤の傾きそのものを調整するステップが必要になるのです。
逆にいえば、「骨盤底筋で上手に笑える=骨盤の傾きがととのっている」ということ。
ここからは、「上手に笑える骨盤の傾き」を探す方法について、お伝えしてまいります。
一般的に骨盤の状態には、大きく分けて前傾タイプと後傾タイプがありますが、実際には、一口に前傾・後傾といっても、その姿勢は十人十色で、ご自分の骨盤の傾向を、ご自身で判断するのは難しいかもしれません。
一見自然な姿勢にみえても、骨盤は後傾していることも多いので、下に示したイラストCは、あくまで目安として捉えてくださいね。

さて、では実際に、骨盤をととのえてまいりましょう。
まず、手で「チョップ」の形をつくり、それを、イラストDのように、鼠径部に押しあててください。
この「チョップ」を、ぐうっと鼠径部に強く押し込んでいきます。骨盤そのものがどんどん後方へ移動していくくらいの強さで、遠慮なく押し込んでください。
そして、その力を逆に押し返す方向に、腰に力を入れてください。
つまり、チョップと骨盤で、「押しあいっこ」をするイメージです。

そうして「押しあいっこ」をしながら、「二本の脚が、床とちょうど垂直になる位置」を探してください。
床と脚が垂直ってあたりまえじゃないの?と思われた方もいらっしゃるかもしれませんが、床の上に、しっかり脚を垂直にして立っている方って、実はそれほど多くありません。

上はイラストCの再掲ですが、多くの方が、弓形状に、腰を前方に押しだすようにしていたり(C-左)、お尻側に脚ごと突きだしたりして立っています(C-中央)。
この脚の傾きを、以下の「押しあいっこ」で調節していきます。
床に脚を垂直に立てるためには……骨盤が前寄りにある場合には、チョップの手で、腰を後方に押し込むことが必要ですし(イラストE-左)、骨盤が後ろ寄りにある場合には、逆に腰でチョップを押し戻す力が必要になります(E-右)。

もちろん、もともと床と垂直に立っている方もいらっしゃいますが、そういう方でも骨盤自体は後傾していることが多く、その場合は「押しあう」ことで、その傾きが調整されていきます。
それぞれ、「このあたりで垂直かな?」と思える位置をみつけたら、そこで「口角」を引きあげられるかどうか、確かめてみてください。ゆっくり息を吐きながら試すのが、よいと思います。
実は、骨盤が適切な位置にあれば、本来、呼氣のときに、骨盤底筋は自然に引きあげられる仕組みになっています。

あえて意識しなくとも、体はもともと「笑う」力を持っているのだと……そういう見方もできますね。
ところが骨盤の歪みが大きいと、この仕組みがうまく機能せず、骨盤底筋は落ちたまま緩みっぱなし……。それが骨盤底筋の衰えにつながってしまうのです。
ですから、骨盤底筋で上手に笑えるかどうか、は、骨盤の傾きが適切かどうかのバロメーターになります。
そして、それを意識して日々の生活に取り入れることは、骨盤底筋の本来の働きを体が思いだす、大事なきっかけづくりになります。
快適な毎日のために、ぜひご活用くださいね。
2)ふたつの胸で、微笑むように前をみる。
では次に、「胸の目」についてお話したいと思います。
まずはイラストGのように、胸のそばに人差し指をあて、明示的に、「胸が前をみている」状態をつくってください。
指のさしている方向と、胸の「みている」方向を、しっかりあわせてくださいね。

これを試していただくと、「えっ、胸ってこんなに持ちあげちゃっていいの?」と驚く方もいらっしゃるかもしれません。
猫背、巻き肩、ストレートネック。実はそのどれもが、胸が「うーんと下」を向いている状態。
肋骨の前傾傾向の方がどれほど多いか、なんとなく伝わるでしょうか。
この肋骨の前傾は、想像以上に体のトラブルのもとになっていて、肩や首のコリはもちろん、四十肩や手の痺れ、頭痛等の原因ともなります。また、呼吸が常態的に浅いのも、内臓が弱いのも、メンタルに不調が起こりやすいのも……肋骨の前傾と、多くの場合無関係ではありません。
逆にいうと、肋骨をととのえるだけで、数多の不調が改善する可能性がある!──ということ。
「胸の目で前をみる」だけで、それが叶うとしたら、こんなに手軽なことはありませんね!
その際、氣をつけていただきたいポイントをひとつだけ書き添えます。
それは、「胸を張ろうとしない」こと。
「胸を張る」のと、「胸の目で前をみる」のは、一見似ているように思えますが、前者は肋骨の形をうんと歪めてしまいます。
背骨が不自然に前に押しだされ、胸郭がつぶれた状態をつくってしまうのです(イラストH-左)。

それに対して、「胸の目で前をみる」ことを意識すると、肋骨は前に移動せず、そのままの位置でくるっと上向きに回転します(H-右)。
うまくいけば、これで巻き肩が改善されてしまいます。
呼吸もとても楽になります。
仕上げに、前をみつめる「胸の目」で、ふわっとやさしく微笑んでみてください。
肩の力が抜けて、よりいっそう胸が自由になりますよ。
手軽さも効果も抜群といえる健康法です。
ぜひ、お試しくださいね。
3)おへそでゆっくり息をする。
最後はおへそです。
これはシンプル。ただおへそを「鼻」に見立て、ゆっくり息をするだけです。
もちろん物理的には、息は肺に入るもので、お腹が直接空氣でふくらむわけではありません。
ですから、むしろおへその「鼻」からは、なにかキラキラしたきれいなものを取り込んでみてはいかがでしょうか。
光でも、色でも、やさしさでも。
ご自分のイメージしやすい素敵なものを、ぜひおへそからお腹に、内臓に、届けてあげてくださいね。
きっとそれだけで、全身に、清々しい氣が満ちていくと思いますよ!
4)笑って背骨をととのえる。
さて、ここまで「体で笑う」方法と、そのメリットをお伝えしてきましたが、「難しい」とか、「手間がかかる」とか、感じられた方はいらっしゃるでしょうか。
もちろん、第一章でご紹介した「押しあいっこ」などは、ご自分の体に落とし込むのに時間がかかるかもしれませんが、少なくとも、「これはお金がかかりそう!」と思った方はいらっしゃらないと思います。
お金はかからない、時間もさしてかからない。筋トレもない。我慢も不要。
「体で笑って、体をととのえていく」方法は、手軽で氣楽な健康法ですが、その手軽さに比して、メリットが大きいのも特長だと感じています。
それは、このアプローチが、結果的に背骨の状態をととのえることに寄与するからです。
イラストIのように、背骨と骨盤、肋骨は、相互に密接につながりあった、ひとまとまりとも呼べる構造をしています。

つまり、骨盤底筋で「笑う」ことで骨盤を、胸の目で「微笑む」ことで肋骨を調整すると、背骨は自然にととのっていくということ。
そして、背骨は、どんなに強調してもし過ぎることのない、重要な器官です。
内臓や骨、血管、肌など、体の各部に脳からの信号を届ける神経は、すべて背骨を経由していることはご存知だと思います。
それはつまり、背骨をいつも自然な状態に保っていられれば、脳からの信号はスムーズに体に伝わり、逆に、どこかに問題が生じたら、それは不調に直結するということなのです。
背骨は、椎骨と呼ばれる小さな骨が縦に連なることで構成されています。
神経は、その椎骨と椎骨の隙間から、体の各器官へと伸びています。

あらためて強調しますが、神経は、必ずこの背骨を、そしてこの小さな隙間を経由し、脳からの大切な指令を、体のすべての器官にむけて伝達していきます。
そのことに思いを馳せると、わたしはいつも、この小さな隙間が担う役割の壮大さに……はっとするのです。
ごくわずかな隙間ですから、椎骨同士の関係が歪んでいけば、必ず負担がかかります。
大きなズレが生じれば、目にみえる不調が表れますが、そうでなくても、無理な姿勢が隙間を圧迫し、なんとなく調子がおかしくなったり、回復力が弱まったりする……ということは、絶え間なく起きています。そして、そういうちょっとした不調の積み重ねは、慢性的な疾患の「みえづらい原因」となる可能性を、常にはらんでいます。
だとしたら。
大切な神経をいたわるために。
その力を存分に発揮してもらうために。
あなた自身の健康のために。
あなたの「笑顔」で、あなたの体をととのえてみませんか。
