日本語、難しいね② ―「カミ」の話―
日本語、難しいね② ―「カミ」の話―
村の老人が、旅人に言った。
「カミを粗末にしてはいかんぞ」
旅人は頷いた。
「なるほど。紙ですね」
老人は真剣な顔で続けた。
「カミは、何より大切じゃ」
「昔の人は、紙を大事にしたんですね」
「そうじゃ」
「では、カミを濡らしてはいけませんね」
「もちろんじゃ」
「破っても?」
「いかん」
「燃やしても?」
「絶対にいかん」
旅人は感心した。
――この村、紙をものすごく大切にするんだな。
村人たちにも聞いてみた。
「カミを大切にしていますか?」
「もちろんです」
「毎朝、拝んでいますか?」
「当然です」
旅人は驚いた。
――紙を拝むのか……。
ある家では、カミに頭を下げている。
別の家では、カミに酒を供えている。
旅人は思った。
――この村、紙への信仰がすごい。
そして祭りの日。
村人たちは神社に集まった。
老人が言った。
「さあ、カミに感謝するのじゃ」
旅人も紙を一枚取り出した。
そして深々と頭を下げた。
「いつもありがとうございます」
村人たちが一斉に振り返った。
「……何してるんです?」
旅人は答えた。
「カミを拝んでいるんです」
老人は旅人の手元を見た。
「お前さん……」
「はい?」
「それは紙じゃ」
「……え?」
老人は神社の奥を指差した。
「ワシらが言っていたのは、神じゃ」
旅人、絶句。
老人は笑った。
「日本語はな――」
「同じ音でも、意味はまったく違う」
旅人は手にした紙を見つめた。
そして一言。
「……最初に言ってくださいよ」
老人は答えた。
「最初から言っとる」
「カミを大切にせよ、とな」
――日本語、難しいね(笑)
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