どんな形でも(BL)

 この扉の向こうには、名前も知らない男がいて監禁させられている。

 社会人になって半年が経とうとした頃、忙しすぎて休みなく働き詰めだった心の糸がぷつりと切れた。最初はベッドから出れなくて寝っぱなしの生活。ご飯を食べる時間さえ忘れてしまうほどに眠り続けていた。

 一人暮らしの家にあるのは、実家から送られてくる野菜と果物ばかりで、いい加減それも底をつき始めた頃、耐えきれなくなって夜中にパーカーのフードを頭から被り、近くのコンビニへと向かった。

 昼間は誰かと出会う可能性があるから、あえて人気の少ない夜中に家を出た。

 とりあえず何か食べないと腹ペコで、久々に玄関の扉を開けて外の空気を吸い込んだ瞬間は、生きてると実感する。

 こういう時の買い物は、普段は食べない甘いものやお菓子を手に取っていて、最後にがっつりと焼肉弁当をかごに入れていた。

 レジを済ませてコンビニから出て買ったばかりのタバコに火をつけると、ふいに小さく丸まっている人影を見つけた。見て見ぬふりをして通りすぎようと歩き出す。

「ねえ、そこのお兄さん」

 小さいけれど、掻き消されることなく届いた声に自然と足が止まる。でも、振り返ることはしない。それはきっと、嫌な予感を察知したからだろう。

「ねえ……」

 辺りを見回したところでそこにいるのは俺とそいつの二人だけで、間違いなく自分に声をかけられているんだということがわかる。

「なに?」

「お兄さんさ、俺のこと監禁してくれない?」

「はっ?」

 そいつの放った言葉に、一瞬すべての思考が停止した。聞き間違いだろうか……ゆっくり振り返ると、そこにはさっきまで下を向いていた顔がしっかりと俺の姿を捉えていて、真っ直ぐにこちらを見つめている。

 関わってはいけないと頭ではわかっているはずなのに、その目はそれを許してはくれなくて、気がつけば俺はそいつへと近づいて手を差し伸べていた。

「交渉成立ってことでいい?」

 冷たい手が俺の手を握ると、案外身軽に立ち上がったそいつが、首を傾げて問いかけてくる。俺が静かに頷いて見せると、安堵するようにそいつは笑った。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 マンションへ連れていくと、一人暮らしなのに1LDKに住んでいることもあり、ほぼ物置になっている部屋へと案内する。

 俺の生活拠点はリビングで深夜まで働いてソファーで寝ることがほとんどだったから、ベッドを使ったことは数えるほどしかない。

「この部屋を自由に使ってくれていいから」

「君は?」

「俺はいつも向こうで生活してるし、気にしないでいい。どうする? 扉は閉める?」

「うん、お願い」

「お腹は、空いてない?」

「空いてるかな……」

「わかった。とりあえず、トイレは右側。お風呂は左側だから好きに使って。ご飯は準備できたら扉の前に置くようにする。ノックを二回したら合図ってことでいい?」

「うん」

「じゃあ、ごゆっくり」

 そう言って部屋の扉を閉めると、リビングへと続くドアを開いてキッチンへ立ち、さっき買ってきたコンビニの弁当を取り出してレンジに入れた。

 今はこれしかないけれど、ないよりはマシだ。

 チンと音がしてレンジから弁当を取り出すと、器に半分ずつ分けてトレイに乗せ、新しく買ってきたペットボトルのお茶をコップに注ぐ。それと一緒に、二つ買っておいたシュークリームを一つ袋のまま一緒に運ぶ。

――トントン――

 伝えていた通り、扉を二回ノックして、トレイをそっと部屋の前に置くと、俺はそのまま自分の食事をするためにリビングへ戻った。

 しばらくすると、カチャリと扉が開く音がしてすぐに閉まった。おそらく、彼が食事を部屋の中へ入れたのだろう。

 今まで一人だった部屋に別の誰かの生活音がすることに、なんとなく不思議な感覚はするけれど、嫌だと思っていない自分が可笑しくてつい笑ってしまう。

「うん、美味い」

 コンビニ弁当が空腹だったのを満たしてくれることが、今自分が生きているんだということを実感させてくれている気がしていた。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 彼が家に来てからもうすぐ一ヶ月が経とうとしていた。人間とは不思議な生き物で、誰かのために何かをしなきゃと思えば自然と体が身軽になる。

 あれだけ家から出ることの出来なかった自分が、部屋にいる彼のために買い物に行って三食のご飯を作る。何かをしていることで気持ちが安定する。もしもこの生活がなくなってしまったら――。そう考えると、どうしようもない孤独感にかられてしまう。

 彼の衣服は、だいたい自分と同じくらいのサイズだろうから、近所にあるショップで真新しい下着とシャツと衣服を数枚買って渡してある。

 買い物へ行く時に扉をノックして「買い物へ行ってくる」と伝えれば、中から二回ノックの音が聞こえてくれば、それが「わかった」という合図だ。

 そして買い物から戻れば、シャワーを終えた後の匂いがリビングまでの廊下に残っていて、胸の奥がざわざわするのを感じながらリビングまで突っ切っていく。


 そんな日常が続いていたある日。

 キッチンでコーヒーを飲もうとお湯を沸かしていたら、沸騰したやかんを持ち上げたときに熱すぎて思わず手を放してしまった。

 がしゃんと大きな音が鳴り響き、「熱っ」と叫んではっとした俺はすぐに口を抑えた。

――バタン――

 勢いよく扉が開く音がして、もう一枚の扉が開かれると、あの日以来見ていなかった彼がこちらに向かって駆け寄ってきた。

「どうしたの?」

「いやっ、ちょっと火傷……」

「こっち来て」

 キッチンの蛇口から水を出してそこに俺の腕を持っていくと、急いで冷やしている。その手がやけに温かくてどこかほっとしていた。

「火傷はすぐに冷やさなきゃ」

「ああ。でも、なんで?」

「そりゃあんな大きな音がしたら、何かあったんだって思うよ」

「まあ、そうだけど……」

「ほらっ、とにかく今はじっとしてて」

 慣れた手付きで水を手で掬いながら赤くなっている場所にかけてくれている。その横顔を盗み見ながら、綺麗だと見惚れていた。出会った時にも思っていたが、彼はとても矯正な顔立ちをしていて、目が合えば惹き付けられてしまう。今だって手が触れているだけでそこが熱をもち熱くなる。

「とりあえず、ここ片付けちゃうから、しばらくそのままで。ねっ?」

「ああ、悪いな」

「俺の方こそ、いつもありがとう」

「あ、うん……」

 床に溢れているお湯を布巾やキッチンペーパーで拭き取りながら、小さく聞こえたお礼に素直に頷く。こうしてちゃんと話したのは初めてで、正直お互いにぎこちなさが隠せていない。

 それでも、この狭い空間に二人でいることが可笑しくてくすりと笑っていた。

「今、笑ったでしょ?」

「だって、この感じ……不思議だろ?」

「そう?」

「俺たち、お互いの名前も知らないじゃん」

「あー、確かに……」

「それに俺は今、あんたを監禁している犯人? なわけだし」

「それは、俺が頼んだからなわけで……」

「でもさ、きっとあんたを探している人はいるはずだろ?」

「それは……」

 テキパキと動かしていた手がピタリと止まり、何かを思い出しているかにように一点を見つめている。

「もしかして、恋人がいるとか?」

「どうかな? ただ、逃げてきたんだ……」

「へえ……」

「驚かないの?」

 あの日、目の前の彼に手を差し出した瞬間から、何か事情があることはわかっていたし、それがただ事ではないことも気づいてはいた。

 だからといって踏み込まなかったのは、彼の笑顔を信じたかったから――。

「まあ、何か事情があるんだろうなって思ってたし、別に迷惑かけられてるわけでもないから。好きなだけここにいればいいよ」

「お兄さんって……へんな奴だな」

「お前には言われたくない」

「まっ、確かに……」

 二人して笑うと、再び作業を開始した。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 すっかり火傷の跡も消えかけた頃、いつまでもこのままじゃいけないと、いつも買い物に行くコンビニへ夜勤の仕事を入れるようになった。

 店長さんも快く承諾してくれて、週に三日の月、水、金でシフトを組まれている。

「バイト、行ってくるから」

 ドア越しに伝えると、中から二回ノックの音が聞こえてきた。この生活は相変わらずだけれど、ほんの少しだけ俺たちの関係が変わったといえば、毎週日曜日の夜は、二人で夕食後にティータイムを過ごすようになっていた。

 その時間をいつしか楽しみにしてる自分がいて、そんな時間がずっと続けばいいのに――という願いも込めてひきこもり生活からちょっとずつ抜け出そうと踠いていた。

 夜勤を選んだのは他でもない。知り合いと出会う確率がほぼないのと、食事の準備をする必要がないからだ。

 夜勤は基本的に一人で入ることもあり、最初は店長さんが色々と教えてくれていたけれど、それも最初の三日だけ。翌週からはしっかりと一人でやっている。

「いらっしゃいませ」

 夜中の二時すぎに、黒いパーカーを着た男が一人、店内へとやってきた。

 飲み物コーナーへ行き、商品を手に取るとレジへとやってくる。

 お会計をする際に見えた手首にあるタトゥーが目に止まり、思わず視線だけをそちらに向けた。

 その瞬間に心臓の奥がドクリと脈を打つ。睨み付けるような鋭い視線でこちらを見ている男と目がかち合ったからだ。

「お兄さん、俺の顔に何かついてる?」

「あっ、いえ。147円になります」

「はい。これで」

「150円お預かりしましたので、3円のお返しになります」

「それ、募金のとこ入れといて」

「承知いたしました。ご協力ありがとうございます」

「どうも」

 不気味な笑いを浮かべながら、男はペットボトルを掴むと店から出て行った。

 午前6時の交代の時間になると、パートの橋本さんがやってきた。よく話す母親くらいの年代で、推しのために稼ぎに来ているとのことだった。毎日、楽しそうに推しの話をしている。

 簡単な相槌を打ちつつ帰り支度を終えると、「お疲れさまでした」と伝えて賞味期限間近の商品をいくつか手に取ると持ち帰って朝食にする。

「ただいま」

 まだ眠っているであろう彼の部屋の前で小さく声をかけると、持って帰ってきたパンをお皿に並べて飲み物をコップに注ぎ、トレイに乗せて再びドアの前まで戻ると、扉を二回ノックした。

 ゆっくりとトレイを部屋の前に置くと、リビングへと戻っていく。

 何となく眠たい空気に包まれて、ソファーで横になると、そのままスーッと眠りについてしまった。

 目覚めた時には、すでに日が暮れ始めていて、自分が寝過ごしていたことに慌ててソファーから飛び起きた。

 まず向かったのは、彼の部屋の前。だけどおかしなことに朝置いたトレイは手付かずのままだ。いつもなら食べ終わっているに違いないのに、おかしい――。

 そう感じた俺は、とりあえず扉を二回ノックするとドアノブを回して部屋の中へと足を進める。

「あれ? いない……」

 その部屋から彼の姿が跡形もなく消えていた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 探す術なんてあるわけがない。俺は、彼のことを何も知らないのだから。逃げてきたと言っていた彼の言葉を思い出す。

(まさか、連れ戻されたとか……そんなこと……あるのだろうか?)

 もぬけの殻になった部屋の中で膝をついたまま考えを巡らせるけれど、答えなんてわかるわけがない。

 でも、もしも関係するとしたら――。

 昨日の夜のことを思い出す。あの手首にタトゥーが入っていた男――あいつが鍵を握っているのかもしれない。こちらを向いて嘲笑うかのような表情だった、不気味な空気を持つ男だった。

 気がつけば俺は走り出していた。

「中尾くん、どうかした?」

「昨日の二時過ぎの映像が観たくて」

「何があったの?」

「お願いします。何か映っているかのしれない。人が連れ去られた可能性があるんです」

「えっ?」

「店長、お願いします」

 何度も頭を下げる俺を見兼ねて、店長は防犯カメラの映像を見せてくれた。

 静かに停車した車から、一人の男が降りてきた瞬間、防犯カメラに向かってニヤリと笑っている。

 まるで挑発するかのようなその態度に怒りが込み上げてくる。車の後部座席には、三人の頭が映っていて、真ん中の男を逃げないように押さえ込んでいるように見える。

 間違いない――こいつが彼を連れ去ったんだ。

「そういえば、今朝中尾くんが帰った後にこれを渡して欲しいって預かってたんだ。はい」

「あっ、どうも……」

 小さな封筒を手渡されて受け取ると、震える手でそれを開封する。

「マジかよ……」

 中にはたった一行だけ「大夢は返してもらう」と書かれていた。

 せっかく逃げてきたのに連れ戻されるなんて、そんな馬鹿げた話があっていいのだろうか?

 迎えに行くとしても、どこをどう探せばいいのかわからないのが現実で、警察沙汰にも出来ない。

 この事態に身動きが取れなくなってしまう。

「ひ、ろ、む……」

 こんな形で名前を知ることになるなんて思ってもいなかった。

 もっと違う形でお互いのことを知り合いたかったのに――。

 絶対に許さない――。


 家に戻ると今度はドアノブに茶色の紙袋が引っ掻けてあった。

 何か手がかりになるものがあるかもしれないと、急いで中を確認する。

 そこには、一枚の紙が入れられていた。

 書かれていたのは、ネット検索では廃業になった工場の跡地で、まだ取り壊されていない場所だった。

 何が起こるか分からない。もしかしたら、もうここへ戻ってこれないかもしれない。それでも、俺は――。

 迷いはなかった。スマホで位置案内を見ながら目的の場所へ向かう。

 どうか、無事でいてくれ――。


 30分ほど電車を乗り継ぎ目的の工場へ到着すると、警戒しながら足を進めていく。

 見るからに不気味な空気が漂うこの空間に、心臓はずっと脈打つ速度が速い。

 それでも、守りたい人がいる。一緒に帰りたい人がいる。そのためには前に進むしかない。

「大夢! どこだ!」

 声が届くかどうかはわからないけれど、とにかく一分でも一秒でも早く見つけたいという思いだった。

 すると、後ろから近づいてきたであろう二人組の男に両腕を押さえられた。抵抗なんてできるわけがない。連れていかれるまま足を進めると、ある部屋の前でぴたりと足が止まった。

「お探しものはここだ」

「お前たち、一体……」

「ほらっ、早くしないとあいつ、死んじゃうかもよ」

「なっ……」

 その目が笑っていなくてゾクッとする。

 ハッとして目の前のドアを勢いよく開けると、そこには異様な光景が広がっていた。

「嘘だろ……?」

 そこには腕を鎖で吊るされたまま明らかに体力を消耗しきっている大夢が立ったまま項垂れていて、それをサンドバッグのように殴りつけている男たちが群がっている。

 着ていた服は無惨にも引きちぎられ、白い肌は傷だらけで色も変色していた。

「おい、お前ら……なにやってんだよ!」

 すぐに助けなきゃ本気でまずいと無我夢中で駆け寄り、繋がれている鎖を外そうと引っ張ってみたけれど、その反動で手首に鎖が食い込んでしまうらしく、苦しそうな呻き声が響く。

「大夢! 大夢、しっかりしろ! 俺だ! わかるか!?」

 何度も何度も声をかけて必死で意識をこちらへ向けようとする。

「大夢!」

「おい、おまえ……うっせぇよ。黙ってそこでみてろや!」

 今まで黙って座っていた男が突然、立ち上がって近づいてくると、思いっきり肩を掴まれ吹っ飛ばされた。その力は半端なくて、なかなか起き上がれない。

「おい、大夢。お前の飼い主が迎えに来たけど、お前はどうしたい?」

「うっ……」

 髪を引っ張り上げ、顔を近づけながら静かな口調で問いかけている男。よく見ると、手首にタトゥーがある。

 あいつだ――。

「俺から逃げられるって思った? こんな奴に誘拐されて寂しかっただろ? 俺が欲しくてたまらなかっただろ?」

「おい、やめろ……」

「ほらっ、言ってみろよ。寂しかったって……。俺じゃなきゃダメだって、言えよ!」

 何度も髪を引っ張りながら怒鳴り声を上げると、そのまま大夢の唇に自分の唇を押しあてている。その光景が異様で身動きが取れなくなってしまう。

「大夢、大夢、大夢……。お前が逃げたりしなきゃ、こんなに傷つけずに済んだのに……」

「お、れは……もう……、この、じごくから……抜け出したいんだ……」

「あんなに愛しあっていただろ?」

「もう、愛せない……。むり、なんだ……」

「なんで!? 俺がこんなにも愛してるって言ってるのに、どうして拒絶する?」

「しゅうは、おれを、愛してない……」

「ふざけんな! お前に何がわかる! 俺が愛してるって言ってんだから、愛してんだよ!」

 さっきまでとは違い、感情が一気に殺気へと変わった。何度も何度も大夢の体を揺らし、罵声を浴びせている。

「大夢、お前は薄汚れたやろうじゃねぇか……。色んな男に抱かれて嬉しそうに腰振って喘いで、感じて……。一体、今までどれだけの男に抱かれてきたんだよ。おい、言ってみろよ!」

「ははっ……、そんなの……知るもんか……」

「なんなんだよ、お前のその目……」

「は、やく……おれを解放してくれ……」

「この、ヤロウ……」

 一瞬、その場の空気が一本の糸が張り詰めたような緊迫したものに変わった。俺は必死で地面に手をつくと体を起き上がらせて駆け出していた。

――ドスン――

 鈍い音が響き渡るのと同時に、頭に衝撃が走り、そのまま膝から倒れ込む。

「ひ、ろむを……解放しろ……」

 男の足を力一杯掴みながら睨み付ければ、それから逃れようと勢いよく暴れまわりながら、背中に何度も蹴りが入る。

「くっ、はっ……」

 蹴りが違う角度から入り込んできて、体が仰向けに倒れ込んだことで、男が馬乗りになって顔面を殴り付けてくる。

 意識がどんどんと遠退いていくのを感じながら、俺はそれでも必死に男の体にしがみつくことを諦めなかった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「もう、無茶しすぎだよ」

「自分だって、めちゃくちゃ危なかったくせに」

「正直、殺されるんじゃないかって思ってた」

「いや、本気で殺られると思った……」

 警察沙汰にはしたくないと思っていたけれど、やはり命には変えられないと考え、工場が見えてきた辺りで警察に一報を入れていた。

 そのおかげで危機一髪、何とかとどめをさされる前に警察が駆けつけてくれて命拾いができたのである。

 今は病院のベッドに寝転んだまま、回復して動けるようになった大夢が部屋まで遊びに来ている。

 お互いにまだ全回復までには時間がかかるけれど、少しずつ元の状態へ戻して行こうと話していた。

「ねえ、お兄さん。俺のこと監禁してくれない?」

「じゃあ大夢はまず、俺のことをお兄さんじゃなく?」

「晃穂さん……だよね?」

「知ってたんだ」

「そこに書いてるからね」

 ベッドを指差されてそちらを見ると、しっかりと名前が書かれていた。

 名乗ったことはなく、お互いに違う形で名前を知り、初めはこんな形で知ることに腹も立てたけれど、今こうして目の前には大夢がいて、こちらを向いて笑っていることが何よりも嬉しいから、それで良い。

「退院したら、あの家に戻って一緒に暮らそう。大夢が怖くなるくらいにいっぱい愛してあげるから」

「もう一生抜け出せないように、ずっと俺を捕まえててよ」

「そのつもりだけど、本当に覚悟はできてるの?」

「もちろん」

「言っとくけど、籠の中の鳥みたいに閉じ込めちゃうからね」

「でも、愛してくれるんでしょ?」

「そこは保証付き」

「だったら、これからも俺を監禁して?」

「わかった。約束……」

 そう言って小指を差し出せば、嬉しそうに顔をくしゃりと崩して小指を絡ませてくる。

 これでもう、君は俺のもの。

 一生、籠の中に閉じ込めたまま、決して逃がしてやらない。

 もしも他の誰かに奪わそうになったその時は、容赦はしない。

 だって、君はこの瞬間、俺に誓ったのだから――。

「約束……ね」

 真っ直ぐに俺を見ていた視線が途切れ、ゆっくりと目を閉じた君に、俺はそっと誓いのキスをした。




Fin.

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