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【ショート】ここで街は終わり/閉鎖地区~Bibleという日記

 ホテルの裏路地を抜けると、廃墟が広がっている。
 ここは街の西の外れであり、ここで街は終わり、この先に街はない。路面電車もここで終わる。電気もガスもここで終わり、貨幣が通用するのもここで終わる。
 
 嘗ては街の中心だったが、街は台風の進路図のように東、東へ広がり、今では鉄条網の張り巡らされた〈閉鎖地区〉になっている。言ってみれば、リストラされた町だ。
 重い鉄のゲートで閉ざされた廃墟の奥へ、もうどこへも行くこともない路面電車の線路が、寂しく伸びている。

 だけどこの風景が嫌いではない。
 生きている街の生肉のような生々しさもなく、誤魔化しもない。清潔で、落ち着いていて、もうどこへも行かないし、何も変わらない安心を感じる。
 
 そう感じるのは俺だけでもない。
 同じホテルを住処としているリーナもフェンス越しに佇みぼんやり眺めていることがある。その後ろ姿は迷子になった少女のようだ。しかし、それは俺にしても同じだ。きみにしても同じかもしれない。誰もが座礁した船のように、行き場所がない。

『あんたの探してるものは、そっちにはないよ』と、アルに声をかけたられたことがある。『言葉では説明できないことが起こるんだ』
 俺は彼の言葉の続きを待った。
『だから、言葉では説明できないんだよ』と笑い、口を結んで首を振り、煙草の吸殻をフェンスの向こうへ指で弾いた。
 どうしようか迷ったが、フェンスの向こうで煙をあげる吸殻を見ながら、言葉を飲み込んだ。
 
 俺はこの閉鎖地区の奥の古い港からやってきた。この世界のとば口が、たぶん、そこだからだ。
 俺はその港跡から、遠くに見えるこの街の明かりを頼りに歩いた。
 しかし、アルの言う『言葉で説明できないこと』は起こらなかった。あまりにもこの街の巨大さに絶望していて気付かなかったのかもしれない。或いは、『言葉で説明できないこと』こそが、俺なのかもしれない。

©2026 文/有城佳音 切絵/有城見萌


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