第2話「空気を読みすぎて疲れちゃう君へのデバッグ法」ーー「自分」を守るレーダーを、「世界」を分析する武器へ。
【前回までのあらすじ】
完璧主義のバグでフリーズしていたハルト。ギルドマスター本田の「30%で報告する勇気」というデバッグを受け、彼は止まっていた一歩を踏み出し
た。
「加藤さん、これ……30%の進捗です。確認お願いします」
ハルトの声がオフィスに響いた時、密かに胸をなでおろしていた人物がもう一人いた。 隣のデスクで、まるで気配を消すように丸まっていたユウだ。
(よかった、ハルトくん。加藤さんも怒ってない……。でも、私が安堵してため息ついたら、周りの人は『あいつ、仕事もしないで何ホッとしてるんだ』って思うかな?)
ユウはすぐに、ハルトの成功を祝うことすら「自分へのリスク」として演算し、表情を殺した。 そんな彼女の背中に、本田の鋭い視線が突き刺さる。
「ハルトの次は、お前だ。ユウ。……お前のその、フル稼働しすぎて火を吹いてるレーダー、そろそろメンテナンスが必要だな」
ユウの頭の中は、常に「他人の感情」というノイズで埋め尽くされている。 オフィスに漂うわずかな不機嫌、沈黙、顔の筋肉のピクリとした動き。彼女の脳内レーダーは、それらをすべて「自分への攻撃」として受信してしまう。
(あ、加藤さんがこっちを見た。さっきハルトくんに優しくした分、私には厳しくするかも。断ったら嫌われるよね? ああ、どうしよう!)
「ユウさん、ちょっといいかな?」 加藤が声をかける。その瞬間、ユウの脳内レーダーは真っ赤なアラートで埋め尽くされた。
「は、はい! すみません! 何か失礼がありましたか!?」 「えっ? いや、ただお菓子の差し入れなんだけど……」
過剰な反応。引きつった笑顔。 これが、周囲から「気を遣いすぎて重い」と誤解される高感度レーダーバグ(HSP/過剰適応)の正体だった。
【第一章:ギルドマスターの解析】
「おい、ユウ。お前のレーダー、感度が強すぎて自分を焼き切ってるぞ」
本田は、パニック寸前のユウをギルドの面談室へ連れ出した。 「お前の能力は、本来なら敵の足音を聞き分ける最強の索敵スキルだ。だが今は、味方のくしゃみまで爆弾の爆発音として処理しちまってる」
本田はホワイトボードに、レーダーの図を描いた。中心にいるのは「自分」だ。
「いいか、ユウ。お前のレーダーの主語は、今すべて『私』になってる。『私が嫌われたかも』『私が怒らせたかな』。これは、他人を気遣ってるようでいて、実は『自分が傷つかないこと』に全リソースを割いている状態だ」
ユウはハッとした。 「私は、相手のことを考えているつもりで、自分が怖かっただけ……?」
【第二章:デバッグ――「主語」を入れ替えろ】
「今日からそのレーダーの向きを180度変えろ。主語を『相手』にするんだ」
本田は新しい設定をインストールするように言った。
バグ: 「加藤がため息をついた。私が何かしたかな?(不安)」
修正: 「加藤がため息をついた。部長の肺活量が足りないのかな?(分析)」
「いいか、感情を受信するな。現象を分析しろ。 お前のセンサーは、自分を守る盾じゃない。状況を把握するための『高性能カメラ』なんだよ」
【第三章:再起動(リブート)】
翌日。隣の席の先輩のハルトさんが、ガシャン!と大きな音を立ててファイルを置いた。 いつもなら「ひっ、怒ってる!?」と震えるユウだったが、昨日のデバッグを思い出した。
(分析だ。主語を『私』にするな)
「……ハルトさんがファイルを乱暴に置いた。つまり、先輩はお腹が空いてイライラしているか、単にファイルが重かっただけだ。私への感情は、今の動作には含まれていない」
心拍数が上がらない。他人と自分の間に、透明な防護壁ができたような感覚。 「ハルト先輩、お疲れ様です。これ、食べますか?」 ユウは初めて、自然な笑顔でキャンディを差し出すことができた。
【エピローグ:分析官への道】
夕方、ユウは晴れやかな顔でギルドを訪れた。 本田は満足げに頷き、先に特訓を終えて資料を整理していたハルトを指差した。
「ユウ、お前のその『気づきすぎる能力』は、誰よりも早くトラブルを察知する【リスク管理のプロ】の資質だ。ハルトが作った資料の『違和感』、お前なら一瞬で気づくだろ?」
ユウがハルトの資料に目を落とすと、一箇所だけ色の濃度が違う部分が浮かび上がって見えた。 「あ……ここ、0.5%だけ青が強いです」
「それだ! 完璧主義のハルトと、分析官のユウ。お前ら二人が組めば、世界一ミスがない資料が出来上がる。変人上等! お前らのバグは、セット運用で最強の武器になるんだよ」
ハルトとユウが、顔を見合わせて小さく笑った。
🛡️ ギルドマスター本田の「今すぐ使えるCBPメモ」
ユウのように「空気の読みすぎ」でクタクタな君へ。 この【分析コマンド】を脳に上書き保存しろ。
「主語を自分から外せ」
相手の機嫌が悪いのは、お前のせいじゃない。「相手が勝手に不機嫌なだけ」と客観視しろ。
「感情ではなく現象を見ろ」
「怒っている」と受けるのではなく、「声のボリュームが上がっている」とデータとして処理しろ。
次回の変人上等物語は……「興味があることしか手が動かない、極端すぎる出力バランスの調整法」。お前のその『一点突破の熱量』を、稼げる専門性に変えてやる。待ってろよ!
第1話はこちらから
🛡️ ギルドメンバー・ステータス



いいなと思ったら応援しよう!
よろしければ応援お願いします! いただいたチップは生きずらい若者たちの支援としての活動費に使わせていただきます!