ANAラウンジの感動は、慣れに勝てない
空港のANAラウンジを最初に利用した時の感動は、今でもはっきり覚えているのである。保安検査を抜け、少し緊張感のある搭乗前の時間の中で、あの静かな空間に足を踏み入れた瞬間、まるで旅の質そのものが一段上がったような気がした。落ち着いた照明、整った椅子、外に見える飛行機、穏やかな空気。搭乗口前の喧騒とは明らかに違う世界があり、それだけで特別感があったのである。コーヒーを一杯飲むだけでも、なんとなく自分が丁寧に扱われているような気分になれたし、出張の移動時間でさえ少し上品なものに変わった気がした。
しかし、人間は不思議なものである。最初はあれほど感動したサービスでも、何度も利用しているうちに、それが当たり前になってしまう。今の自分にとってANAラウンジは、かつてのような高揚感を生む場所ではなく、ある意味で予想通りの場所になってしまった。もちろん清潔感もあり、静かで、一定の安心感もある。そこは評価すべき点であるし、基本的な質が落ちたと感じているわけではない。ただ、良くも悪くも毎回同じなのである。安心感と引き換えに、新鮮さがなくなってしまったのである。
おそらくラウンジ側から見れば、安定した品質を提供することが最優先なのだと思う。空港という場所は、利用者にとって非日常である一方、運営側にとっては日常の連続である。だからこそ、サービスのブレをなくし、誰がどの時間に行っても同じような満足感を得られることが重要なのだろう。それは理屈としてよくわかるのである。しかし、利用する側としては、やはり少しずつ欲が出てくる。せっかく上級の顧客や一定の利用条件を満たした人が入れる空間であるなら、もう一歩だけ心が動く工夫が欲しいと思ってしまう。
たとえば、季節感である。飲み物でも軽食でも、あるいは空間の演出でもよい。今の季節ならこれがある、今月はこういう変化がある、その空港ならではの小さな特色がある。そうした要素がほんの少し加わるだけで、ラウンジに立ち寄る意味はぐっと強くなるはずである。今のラウンジは、便利で、整っていて、失敗がない。そのかわり、わざわざ入る楽しみがやや薄れている。搭乗まで静かに過ごすだけなら十分であるが、期待を上回る体験にはなりにくいのである。
最近では、時間によってはラウンジを使わず、そのまま搭乗口近くで過ごすこともある。昔の自分なら考えられなかったことだが、それだけラウンジの魅力が相対的に下がってきているということなのだろう。これはサービスが悪くなったというより、自分の側の感覚も変化しているのだと思う。最初の感動は、一度しか味わえない。だからこそ、その後も利用し続けてもらうには、初回の驚きとは別の満足を積み重ねていく必要があるのである。
ANAというブランドには、やはり期待してしまう。機内サービスでも地上サービスでも、きちんとしているという印象があるからこそ、ラウンジにもその先を求めてしまうのである。単に座れて、飲み物があって、静かであるだけでは、今の時代は差別化が難しい。特に移動に慣れた人ほど、少しの変化や、少しの気配りに敏感である。だからこそ、定番の安心感を残しながらも、利用するたびに小さな発見がある空間になってくれたら嬉しいのである。
ラウンジは、本来ただの待合室ではないはずである。飛行機に乗る前の時間を、少しだけ豊かに変えてくれる場所であってほしい。そう考えると、今のANAラウンジは合格点ではあるが、感動点には届いていない。最初に感じたあの特別感を、別の形でもう一度味わわせてほしいのである。長く利用している顧客ほど、そうした小さな進化をよく見ている。慣れたからこそ見える物足りなさがあり、期待しているからこそ注文も増える。文句を言いたいのではなく、もっと良くなれる余地があると感じているのである。便利で整っただけではなく、また入りたくなる理由があるラウンジへ。ANAには、その一歩先をぜひ見せてほしいのである。
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