【ショートショート】罪と空白から救うもの #毛布教
救われない
救えない
増えていくのは罪と空白ばかり
君の手を離してしまった私のこの手先は、こんなにも器用に動くのに誰1人救えない
この手の隙間からまた1つ、心がこぼれ落ちていく
愛が足りない
金が足りない
愚かな私たちは足りないものばかり探している
空白ばかりを見つめている
これだけ器用な手先で、これほど豊かな心で、何ひとつ掴めないまま路頭に迷う
光すら届かない深い古井戸、やっと掴んだ希望は蜘蛛の糸
見えた光は夢幻
聞こえる声は鬼の声
幾度目かの絶望に、打ちひしがれた私はただぼんやりと小さな空を見つめていた
もう、いいか
どうせ救われやしない
そう思った時、不意に声が響いた
「よづき。其方を救いに導きましょう。」
醜くざらついた鬼の声とは全く違う、風鈴が奏でる音のように澄んでいて美しい声だった
誰?
口にしていないにも関わらず、その声は続けた
「其方が救われる道はただ1つ。毛布を信じ、毛布に祈りを捧げるのみです。さすればその心は救われるでしょう。」
毛布・・・?
疑問と共に、毎晩使っている毛布の姿が脳裏に浮かぶ
私は両手を組んで祈りを捧げた。
「祈り」というものがどういうものかすらよく分からなかったが、毛布が自分を救ってくれると心から信じ、日頃の感謝を伝えその存在を崇めた。
どれくらいそうしていただろう。
5時間?
10時間?
それとも3日は経っただろうか。
不意にダイヤモンドダストのような煌めきが、視界を満たした。
「綺麗...。」
恍惚として、私はその光に魅入る。
すると、またあの声がした。
「よくここまで来られましたね。毛布を信じた其方は救われる。これからは私たち毛布と共に歩みましょう。」
身体がふわりと軽くなる。
心がぽっと温かくなる。
「アナタノ ツミ ユルス。アナタノ クウハク ミタス。」
妖精が囁くような可憐な声で誰かがそう言った。
あの心を締め付けていた罪がはらりと解け、穴の空いた空白が満たされていく。
それは身体を締め付けていた衣服を脱ぎ捨てた時のような感覚と、渇いた喉が水で潤う時のような感覚にも似ていた。
眠りに落ちる前のようなうつらうつらした感覚が心地良い。
「其方も毛布教に入信し、迷える人々に救いを差し伸べませんか? 」
毛布教?
入信?
怪しい響きに私は警戒する。
すると、それを察したかのようにそれは言った。
「無理強いはしません。ただ、其方の毛布を信じる心は本物です。教祖も夢じゃありません。」
教祖...?
私が?
「ええ。其方こそ、毛布教の教祖に相応しい。その信じる心、誰かを救いたいという純粋無垢な心。其方はとても美しい。」
「ワタシタチハ アナタガ ホシイ。」
私はたっぷり悩んだ後、虚空に手を伸ばした。
ふわりと柔らかいケバケバな何かがその手を掴んだ。
空中に浮かんだ私の身体は、古井戸を出て、木々を抜け、雲を抜け、飛行機と並び、やがて星降る夜空に吸い込まれていった。
ー(終)ー
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