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Cryptopsy🇨🇦【全20作レビュー】:『None So Vile』という聖典を背負い続けた30年

筆者とCryptopsyの出会いは、例によって隣町のTSUTAYAだった。棚には、当時まだ日本では決して知名度が高いとは言えなかった『None So Vile』と『Whisper Supremacy』が並んでいた。Flo Mounierがデザインしたとされる鋭角的なロゴと、Håkan Sjödinによる『None So Vile』の退廃的で芸術性の高いジャケットに惹かれたのかもしれない。

再生ボタンを押した瞬間の衝撃は、今でも忘れられない。メインリフさえ一直線に突き進んでいれば、その周囲でどれだけ複雑なリフチェンジや変拍子を繰り返しても成立させる、プログレッシヴで予測不能な楽曲構成。そこへ流麗なギターソロと、Lord Wormの歌詞が聴き取れない激烈なヴォーカル、Originにも肉薄するFlo Mounierの高速ブラストビートが襲いかかる。あまりにも鮮烈だった。

もっとも、ライヴ盤『None So Live』を聴くと、演奏にはMorbid AngelやCannibal Corpseのような揺るぎない余裕よりも、限界まで攻め続ける破綻スレスレのスリルがあった。

その後、セルフタイトル作『Cryptopsy』を発表した頃にLOUD PARKで目撃した彼らは、驚くほど洗練されていた。演奏の精度は大きく向上し、それでも生で浴びるFlo Mounierのドラミングは、なお人間離れしていた。デモ時代に最後発として加入した末っ子ドラマーは、気づけばバンドを率いる中心人物になっていたのである。

もちろん、その歩みは決して順風満帆ではない。Mounierのプレイは時にプロダクションの中心へ置かれすぎるきらいがある。また、音楽性やマーケティングに苦心するあまり、『The Unspoken King』でのデスコア路線と、その後の急激な原点回帰という、流行への迎合と保守の間を大きく揺れ動く姿も見せてきた。

振り返ってみれば、Cryptopsyの歴史とは、テクニカル・デスメタルというジャンルに一つの聖典を刻んでしまったがゆえに、その到達点と何十年も向き合い続けることになったバンドの苦悩の歴史でもあった。本稿では、その35年近い軌跡を、デモ音源から最新作まで一つずつ辿っていきたい。

🔰 Cryptopsyのおすすめ5曲

Slit Your Guts ー “I promise you pain and nightmares, in that sequence.”
(約束しよう。まず痛みを。そして、そのあとに悪夢を。 )

Phobophile ー “Monsters live behind my eyes; I let them out and people die.”
(怪物は俺の瞳の奥に棲んでいる。解き放てば、人が死ぬ。)

Defenestration ー “Gravity is the only witness.”(重力だけが、その瞬間を見届ける。)

Open Face Surgery ー “Open Face Surgery: short of pain and long on masquerade.”(顔面を切り開く手術――痛みは一瞬、偽装は永遠。)

Cold Hate, Warm Blood ー “December's child is dead and gone.”
(十二月の子は、もう死んで消えた。)


Necrosis

📼 Realms of Pathogenia (1991年収録、デモ)

⭐ 2.0/5.0
📝 「病理発生の領域」―タイトルだけ聞けば後のCryptopsyを彷彿とさせるが、蓋を開けてみれば……スラッシュメタルとデスメタルの狭間で迷走する、単調な43分だった。Lord Wormのヴォーカルは後年に比べると圧倒的に弱いし、Flo MounierのパーカッシヴなプレイもJon Levasseurのフックの効いたリフもないと、何の個性もない。


📼 Necrosis (1992年1月収録、デモ)

⭐ 2.5/5.0
📝 一時は解散状態に陥ったものの、Steve ThibaultとDave Galeaが再始動を決意。本作最大の変化点はドラマーだ。新参のFlo Mounierはこの時点ではまだエクストリーム・メタルをほとんど叩いたことがなかったが、音楽性の「デスメタル化」に急速に適応した。「高速でハードヒットなドラミング・スタイル」は、Cryptopsyサウンドの始まりを告げるもの。リフの切り替えが速く、テンポの変化も激しい。


Cryptopsy

📼 Ungentle Exhumation (1993年7月15日リリース、デモ)

⭐️ 4.0/5.0
📝 Crytopsyへ改名し、Levasseurが加入。Suffocationが『Effigy of the Forgotten』で示したブルータル・デスメタルのテンプレートをさらに極端に推し進め、トレモロ・ピッキングによる疾走感と、変則的なリフの切り替えを組み合わせた独自のスタイルを確立した。デモとしては異様に聴きやすい音質で、トリガーを使っていないMounierのドラミングも底力を感じさせる。後に4曲中1曲が1st、残る1曲も4thに再録されたが、後者に関しては本作の方が好み。


💿 Blasphemy Made Flesh (1994年11月25日リリース、1stアルバム) 🌟🌟超名盤

⭐️ 4.5/5.0
📝 本作のプロダクションは、当時のデスメタルとしては異例の「生々しさ」を持ち、スネアは部屋の反響をそのまま録音したかのような音で、ベースはギターやヴォーカルより異様に前に出ている。「直線的」でありながら常に予測を裏切る初期特有の曲構造は既にインスピレーションの塊であり、Wormの歌詞はデスメタル史上稀に見る文学性で、ブラックユーモアに満ちている。「Open Face Surgery」の30秒シャウトは凄まじい。


🎤 Live in Regina 1995 (1995年6月17日収録、ライヴ映像)

⭐ 2.5/5.0
📝 『Blasphemy Made Flesh』の25周年記念DVDとして日の目を浴びた映像。カナダはサスカチュワン州レジーナ。画質・音質ともにブートレグ・レベル。儀式的なパフォーマンスをするLordが、既に『None So Vile』での異形の咆哮に覚醒しつつある点に注目だ。LevasseurのパフォーマンスはワイルドなMartin Fergussonと好コントラスト。Steve ThibaultはMCもヴォーカルもフロントマン並みの存在感。


💿 None So Vile (1996年7月3日リリース、2ndアルバム) 🌟🌟🌟必聴盤 🔰入門編

⭐ 4.5/5.0
📝 前作『Blasphemy Made Flesh』が提示した「病的な暴力性」をさらに純度の高い形で結晶させたデスメタル史上の大傑作。Eric Langloisのスラップベースはデスメタルとしては異例のファンキーな要素を楽曲に加えた。そして、Levasseurはほぼ全てのギターパートを一人で録音し、そのリフワークの豊富さやMounierとの呼応性は驚嘆に値する。歌詞を「楽器」として使い切ったLordの異形な歌唱スタイルも本作がピーク。


💿 Whisper Supremacy (1998年9月22日リリース、3rdアルバム)

⭐ 3.5/5.0
📝 Lordの後任としてMike DiSalvoを迎え、さらにギタリストMiguel Royを加えて臨んだメジャー移籍第1弾。DiSalvoはLevasseurと全く異なるハードコア寄りのスタイルだが、洗練され攻撃的になったサウンドに適合している。しかし、ドラムとヴォーカルが前面に出たミックスで、ギターは引っ込み気味。楽曲はますます複雑化し、前作にあった「グルーヴ」や「キャッチーさ」は減少し、曲の個性が薄れてきた。今回は楽しく聴けるギリギリのライン。


💿 And Then You'll Beg (2000年10月31日リリース、4thアルバム)

⭐ 3.0/5.0
📝 「技術的に『Whisper Supremacy』を超える」ことを目指し、「よりプログレッシブな側面」と「スピード」を両立させようとした結果、前作以上に「マス」で「複雑」で聴き手を拒絶するスルメ盤に仕上がった。シャープなプロダクション、リフの断片化と変拍子の多用が際立つ。一方で「Shroud」のスウィング・リフや「Screams Go Unheard」のディジュリドゥ導入など、実験的な要素も散りばめられている。


🎤 None So Live (2002年6月1日収録、ライヴ音源)

⭐ 3.5/5.0
📝 モントリオールの名門ライブハウスLe Medley。『And Then You'll Beg』のツアー中に収録された本作は、DiSalvoの後任Martin Lacroixのお披露目だった。英語が流暢でない(←解雇理由)彼のフランス語での観客への呼びかけは「郷土愛」を感じないでもない。曲の途中で止めてドラムソロに入る構成は中断のように聴こえるし、スタジオ版よりも速いテンポは「粗さ」を「勢い」で押し切っている印象。


🎤 Trois-Rivières Metalfest IV (2004年11月6日収録、ライヴ映像)

⭐ 3.0/5.0
📝 ケベック州トロワリヴィエール、Le Maquisart。Lordが復帰し、Levasseurの後任としてDaniel Mongrainがツアーに帯同するようになって間もない頃、「新体制のお披露目」として本作を制作。クラシック『None So Vile』の全曲演奏+αという鉄板セトリ。Lordの声量はムラがあり、いかなるソロの最中でもドラムばかり映る。生きたミミズを食べ、観客の口にも投げ込む「名物パフォーマンス」は閲覧注意!


💿 Once Was Not (2005年10月18日リリース、5thアルバム)

⭐️ 3.5/5.0
📝 本作の作曲はイントロを除いてAlex Auburnが一手に引き受け、音楽性はより「アヴァンギャルド」で「実験的」な方向性。ジャズ・フュージョン、ボサノヴァ、スパニッシュ・ギター、ストリングス、アコースティックなど、これまでにはなかった要素が盛り込まれた。ギターの音圧が弱く、ドラムが前面に出たドライなプロダクションがネック。複雑で密度の高い情報量でも、これは聴きづらい。


💿 The Unspoken King (2008年5月26日リリース、6thアルバム)

⭐️ 1.0/5.0
📝 "流行のデスコア"に手を出して大コケしたデスメタル史上の問題作。クリーンボーカル、キーボード、ブレイクダウンが大胆導入された。新加入のMatt McGachyはデスメタルとメタルコアのはざまで苦悩しており、米オルタナが闖入したような「場違い」感。悩み過ぎて不眠になった彼が残留したのは驚きだ。間もなく解雇されたMaggie Durandのキーボードは存在意義すら怪しい。バンドの「語られるべきではない」黒歴史だ。


💿 Cryptopsy (2012年9月11日リリース、7thアルバム)

⭐️ 3.0/5.0
📝 前作を聴いて元メンバーなりに「傷ついた」というLevasseurを一時企画として呼び戻し、タイトル通り軌道修正を試みた作品。バンドは「自ずとアルバムが書けた」と喜んだが、かつて「エクストリームな音楽に飽きた」から去った彼のインスピレーションは燃え尽き症候群のまま。曲の印象は薄い。過剰圧縮なプロダクション、妙に増えた「お家芸」のジャズブレイクも冴えていない。前作と比較すると頗る健全なのは確か。


🏆 The Best of Us Bleed (2012年リリース、ベスト盤)

⭐️ 3.0/5.0
📝 『The Unspoken King』に始まり『Blasphemy Made Flesh』へ逆年代順、果てはリハーサル音源までぶち込んだ全32曲138分。曲順からして近年の新参ファンか、かなりの通向けだ。新曲はデスメタル寄りではあるものの、サウンドが『The Unspoken King』のままなので好感が持てない。リハーサル音源は資料的価値だけで、共存には些か無理がある。


💿 The Book of Suffering: Tome I (2015年10月30日リリース、EP)

⭐️ 3.5/5.0
📝 本作は元ヴォーカルLordのアイデアだった『The Book of Suffering』3部作の第1弾として構想された。クラウドファンディングで$20,000の目標を掲げたが、達成額は約50%だったため自主レーベルでリリース。彼のヴォーカルは大幅に改善され、LordとDiSalvoのハイブリッドに近い。「複雑でありながら聴きやすい」というCryptopsyの伝統をより忠実に再考したような作品。


💿 The Book of Suffering: Tome II (2018年10月26日リリース、EP)

⭐️ 3.0/5.0
📝 『The Book of Suffering』第2弾。3年待たせて4曲18分。『Tome I』が「苦しみを与える側」の視点だったのに対し、本作は「苦しみから逃れた側」の視点で描かれる。音楽は『Tome I』と変わり映えせず、仮に「アウトテイク集」と言われても疑わない。Christian Donaldsonは「Levasseurのコピー」をやめて、独自のスタイルを築きつつある。「The Wretched Living」のリフ展開は面白い。あとはメリハリとフックに欠ける。


💿 As Gomorrah Burns (2023年9月23日リリース、8thアルバム)

⭐️ 3.0/5.0
📝 Nuclear Blastと契約して再びメジャーへ帰還し、「あらゆる時代のファン」のために制作した作品。音楽スタイルに目立った変更はないが、パンデミックの影響で、「グルーヴ」と「メロディ」が強調され、いつになく「少し暗く、より感情的なアルバム」に仕上げた。曲の個性が強まったかというと、そこは近作とトントン。無菌的でドライなプロダクションは、覇気がなくなったように聴こえる。


💿 An Insatiable Violence (2025年6月20日リリース、9thアルバム)

⭐️ 3.5/5.0
📝 金銭的な理由でNuclear BlastからSeason of Mistへ移籍。プロダクションは近作より有機的に傾いた。Olivier Pinardのベースは独自のフレーズやソロを入れていて楽しいし、Donaldsonによる「不協和音」と「メロディ」の使い分けも巧くなった。相変わらず全体の均質性は減点ポイントだが、ここまできて頭打ちに見えるテクデス路線に活路を見出しつつあるのかも。SNSという現代の地獄を扱ったテーマ性も意欲的。


💿 Blasphemy Made Fresh (2025年7月15日リリース、再録メドレー・シングル)

⭐️ 2.5/5.0
📝 30周年記念リイシュー『Blasphemy Made Flesh』のおまけ。メドレー内の各楽曲に異なるゲスト・ヴォーカリストが参加し、Billy Stringsがギターソロを提供。プロダクションの現代化の時点で"本気にしてはいけない"お祭り企画なのは明白。「ブルーグラス・ギタリストがデスメタルで何をするのか」 という期待に対して、StringsはLevasseurの音符に敬意を払いつつ独自の音色を奏でた。


🕷 まとめ

Cryptopsyは、テクニカル/ブルータル・デスメタルの歴史を塗り替える傑作『None So Vile』を生み出した。その一方で、それ以降の30年は、あまりにも高すぎる自らの到達点と向き合い続ける歴史でもあった。

『The Unspoken King』の大失敗以降は、革新的な理想像を描くよりも、自分たちらしさを守る方向へ舵を切った印象が強い。それは保守化というより、「次に何を目指せばいいのか」という答えを、いまだ探し続けている状態なのかもしれない。

それでも彼ら自身は『None So Vile』を最高傑作だと公言し、2026年の30周年は、記念リイシューや関連企画などで盛大に祝う構えを見せている。長く活動するバンドにありがちなことだが、それはクリエイターとしての理想像とは言い難い。しかし、自らの代表作を誰よりも素直に愛し、誇りにしている姿勢は好感が持てる。

さて、あなたにとってのCryptopsyはどの時代だろうか。

Lord Wormの狂気か、Mike DiSalvo時代の複雑怪奇なテクニカル路線か、それともMatt McGachy体制の円熟期か。

ぜひ、お気に入りのアルバムや一曲をコメントで教えてほしい。きっと人によって、まったく違うCryptopsy像が見えてくるはずだ。

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