Enter Sandman
初めてこの曲を聴き、タイトルを目にしたとき、感じることがらがさまざまにありました。
視聴した動画は、メタル・グループ「メタリカ」が、それまで全世界を恐怖政治で支配しようとした共産主義の牙城であるソビエト連邦が崩壊寸前の日に、モスクワで開催されたライブで行なったパフォーマンスでした。

この日のライブには50万人を超えたと言われる群衆が集まり、自由をそれまで抑圧された人々の喜びが爆発したかのような熱狂を動画は示してくれています。そのような中で披露された「Enter Sandman」という曲。長らくこの曲のタイトルのsandmanという語句の意味も知らず、歌詞の内容もまた知らないままに日を過ごしたのでした。
sandmanは子供を眠りに誘う妖精のことで、早く眠りにつけば妖精に出会えることを無邪気な子供に語りかける歌詞の内容でもありました。
子供に早く眠るように、優しく語りかけるフレーズ。そして時には眠れない子供を自分に置き換えて、戦争の夢や嘘つきたちの夢を見るという告白もする。眠りなさい、しかしベッドの下には獣がいる。クローゼットの中にも、君の記憶にも。光から闇へと移り変わる世界の中で、希望をただ夢の中のネバーランドに求めるという、奥深い歌詞でもあるのです。
ライブでは喜びを叫ぶ兵士の姿。そして群衆の暴発をとどめようとするソビエト軍の兵士の姿が映し出されます。このライブの数か月後、ミハエル・ゴルバチョフの決断によってソビエト連邦は崩壊し、ロシアの誕生となるのです。
しかし皮肉はその瞬間に生まれます。この世紀の無血革命の何年も前に、ソビエト連邦の内情を詳述した「ノーメン・クラツーラ」というタイトルの分厚い書籍の中で、このタイトルが示すロシア人の中の特権階級は、社会主義という共産革命の行きつく先が壊れても、社会の構造は何一つ変わることはなく、特権階級の支配によって人々は新たな社会主義国家体制の中に組み込まれていくことが述べられていたのです。この書を当時読んだ私には、今のロシアを見渡して、内容の真実を再認識している次第です。
五年と少し前に、新型コロナウイルスの蔓延が世界を閉鎖状況にする直前に、サンクト・ペテルブルグ(旧スターリングラード)のアリーナでライブ公演を行ったBABYMETALが、コサック・ダンスを取り入れた曲「Oh Majinai」を披露した際に、ロシア人観客が手を取り合ってダンスした熱狂は、自由を謳歌したいという彼らの本当の気持ちを表していたのかもしれません。
