「心の柔軟性」を持つと、幸福度が高まり、パートナーとの関係もよくなる
こんにちは、紀藤です。本日は「心理的柔軟性」というキーワードについての論文をご紹介します。
心理的柔軟性とは、”状況に応じて、思考や行動を柔軟に適応させる能力”のことです 。この能力が高ければ、状況の要求を認識して適応したり、社会的・個人的な機能に適応するために考え方や行動を転換したり、人生の要求のバランスを保ったり、自分の深い信念と調和した行動を実行したり と、あらゆる面で優れた能力を発揮することが知られています。
さて、今回の研究では、「心理的柔軟性が高いことでパートナーとの関係の質が高まる」こともわかったという内容の論文です。シンプルなようですが、親密な関係における「心の柔軟さ」の重要さを考えさせられる、大切な論文だなと思いました。
ということで、早速内容を見てみましょう!
今回の論文
タイトル: Exploring the links between psychological flexibility, individual well‐being, and relationship quality (心理的柔軟性、個人の幸福感、および関係性の質との関連性の探求 )
著者: カレン・ツイセルトン(Karen Twiselton) / ユーアン・ボトムリー(Ewan Bottomley)
ジャーナル: Personal Relationships 、2020年
所属: 英国エディンバラ大学心理学学部 (School of Philosophy, Psychology and Language Sciences, University of Edinburgh )
30秒でわかる論文のポイント
心理的柔軟性が、ポジティブ感情(PA)やネガティブ感情(NA)を介して、恋愛関係の質にどのように影響するかを検証しました 。
心理的柔軟性が高い人ほど、より高いポジティブ感情とより低いネガティブ感情を報告し、それがさらなる高い関係性の質に関連していることが明らかになりました 。
カップルを対象とした分析(研究2)では、自分の柔軟性が自分の感情だけでなく、パートナーの関係満足度にも影響を与える「パートナー効果」が確認されました 。
この関連性は、年齢や関係期間、さらにはパートナーの反応性などの要因を考慮しても頑健でした。
「心理的柔軟性」とは
まず、「心理的柔軟性」という言葉について、もう少し詳しく見てみたいと思います。学術的には、以下の要素で特徴づけられる反応様式とされます。
<心理的柔軟性とは>
・マインドフルネスと受容: その瞬間の思考や感情に対する非防御的な気づき。
・価値ある行動: 状況に応じて、自分のコアバリューや目標の追求を強化する持続性や行動の変化 。
そして、本研究で用いられた心理的柔軟性測定尺度「CompACT」の具体的な項目をいくつかご紹介します。
<心理的柔軟性(CompACT)の測定項目例>
●経験への開放性(マインドフル受容)
・思考や感情が湧き上がってきたら、それを制御したり避けたりしようとせず、そのまま受け入れることができる。
・特定の考えを持つべきではないと自分に言い聞かせる。(※逆得点項目)
・考えや感情が湧き上がらないように、忙しくしている。(※逆得点項目)
●行動への気づき
・自分が何をしているかほとんど意識せずに「自動操縦状態」で動いているようだ。(※逆得点項目)
・自分にとって大切なことをしている時でさえ、注意を払わずにやっていることに気づく。(※逆得点項目)
●重視する行動(価値に基づく行動)
・たとえストレスを感じても、自分にとって重要なことを基準に選択する。
・私は自分の価値観に沿って行動する。 など
研究の背景と目的
職場のパフォーマンスや個人のメンタルヘルスにおける心理的柔軟性の重要性は多く語られてきました。しかし、親密な「二者関係」においてどのような役割を果たすかは、これまで体系的に調査されてきませんでした。
本研究は、心理的柔軟性が個人の幸福感(感情)を通じて、いかに関係の質を形作るのかというメカニズムを解明することを目的としています。
研究の方法
本論文では2つの横断研究が実施されました 。
研究1(個人対象):
デザイン: 探索的・相関調査 。
参加者: MTurkを通じて募集された、恋愛関係にある1,176名の個人
測定: 心理的柔軟性(CompACT)、ポジティブ・ネガティブ感情(PANAS)、生活満足度(SWL)、ユーダイモニック幸福感(EW)、関係性の質(PRQC) 。
分析: 探索的因子分析(EFA)および構造方程式モデリング(SEM)
研究2(カップル対象):
デザイン: 二項媒介分析 。
参加者: アメリカ人カップル212組 。
分析: アクター・パートナー相互依存モデルに基づき、Mplusを用いた媒介分析 。
主な結果(わかったこと)
わかったこと1:心理的柔軟性は「感情」を通じて関係を良好にする
研究1において、心理的柔軟性と関係性の質との間には中程度から強い相関が示されました 。SEM分析の結果、心理的柔軟性が高いほどポジティブ感情(PA)が向上し、ネガティブ感情(NA)が低下することを通じて、関係性の質が向上するという媒介モデルがデータを良好に説明しました。
わかったこと2:自分の柔軟性がパートナーの幸せにも寄与する
研究2のカップル分析では、重要な「パートナー効果」が確認されました。
PA(積極性)モデル: 自分の心理的柔軟性が高いと、自分のPAレベルが高まり、それが自分とパートナー双方の関係品質の高さを予測しました。
NA(否定的感情)モデル: 自分の心理的柔軟性が高いと、自分とパートナー双方のNAレベルが低下し、それが自分の関係品質向上を予測しました。
わかったこと3:年齢やパートナーの反応性を超えた効果がある
パートナーが自分を理解してくれていると感じる「パートナーの反応性」や年齢、関係の長さ、同居形態などを共変量として制御しても、心理的柔軟性と感情を介した媒介効果は消失せず、頑健な関連性であることが示されました。
応用可能性(実践に活かすヒント)
個人のセルフケアとしてのACT: 心理的柔軟性は可塑的な概念であり、向上させることが可能です 。感情を無理にコントロールしようとせず、マインドフルに受け入れ、価値観に沿った行動をとる練習をすること(ACT:アクセプタンス&コミットメント・セラピー)で、自分自身のウェルビーイングを高められます。
パートナーシップを支える介入: 健全な関係を支援する介入を設計する際、心理的柔軟性に焦点を当てることが有益です。これはパートナーがマインドフルで受容的になる能力を促進し、同時にポジティブな感情を増やすことで、結果的に関係品質を二重に高めることにつながります。
「柔軟な器」としての存在: 自分の心理的柔軟性を高めることは、自分の幸福だけでなく、パートナーのネガティブな感情を和らげ、二人の関係の質を底上げする効果があります。
まとめと感想
我が身を振り返って見て思うのが、たしかに子育てとか、ちょっとしたトラブル、予想外のことなど、一緒に過ごしていると起こりうるもの。その中で、「状況に応じてうまくやる」柔軟さがあると、大変な状況でも、淀まずに、明るく過ごせる気がします。
一方が感情に飲み込まれず「柔軟な柳のように存在する」ことが、関係全体の安全弁になるのだなと思いますし、心理的柔軟性を磨くことは、パートナーシップにおける重要な投資かもしれない、そんなことを思った次第です。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
