わたしのキノコと『幻獣辞典』(エッセイ)
時々思い出す。
あのとき、キノコが私のために焼いてくれたケーキは、どんなケーキだったんだろう?
*****
私の知っている「きのこ」という名前の人は、ハイパーハイスペックな人ばかりだ。
きのこ……担子菌類か子嚢菌類か・・・じゃなくて。
「キノコ」という名前の学生時代の友人のことを思い出していた(ニックネームです)。
とてもキノコに詳しいので、「キノコ」というあだ名になった。
背の低い小柄な可愛い女の子。
ベレー帽がよく似合っていた。
彼女はスキーがうまかった。(たしか、スキー検定の上級の資格を持っていたと思う)
なぜ上手なのか?
父親にリフトもない雪山に登らされ、雪が積もる原生林の中、ここから下まで滑れと猛特訓を受けたと言う。
そんな話をきゃっきゃっ言いながら話す。
私はキノコがすぐ好きになった。
『幻獣辞典』を大学生協で一緒に購入して、キノコが「これはすごくいい」と言って、キラキラした瞳で読んでいたのを覚えている。
(あの頃、身の回りに4人は『幻獣辞典』を持ってる人がいた。たぶん、もっといたと思う)
キノコの話では、ドラゴンクエストの話も忘れられない。
やっと買ってもらえたファミコンだったが、キノコはドラゴンクエストのソフトの1しか買ってもらえなかったらしい。
当時のドラゴンクエストは、セーブする時に20文字の呪文を書き留めておき、それをまた入力することで、ゲームが再開できた(ふっかつのじゅもん)。
ドラゴンクエストの1しか買ってもらえなかったキノコは、その呪文を解読し、思い通りのステージからゲームが再開できるようになってしまったという(ノートを見せてもらった)。
彼女はアナログで呪文を解読してしまったのだ。
そんなキノコはゲームセンターにあるゲームも解析してしまい、80パーセント以上の確率で勝利していた。
それから、キノコは大学院に進む。
彼女はNMRという分析装置の解析で忙しかった。
「遊んでる子が羨ましい。こんな実験ばかりしてないで、遊びたい」
と呟くと、
「本当にそう思ってるの?」
インドからの留学生に笑われたという。
この後よく覚えてないけど、キノコは遊ぶことなく実験に没頭した。
最後にキノコに会ったのは、いつだったかな?
大学を卒業して数年後、仲間数人とキノコに会う機会があった。
社会人になったキノコは、
「私、早く帰らなきゃ行けないのよ。職場にアンコウを捌ける人がいなくて、行かなきゃいけないの」
電車の中で、アンコウを吊るして捌く様子を身振り手振りで説明する。
(漁業関係の仕事ではないです)
彼女は、一足早く帰ってしまった。
ーーやっぱり、キノコだな。
キノコとの思い出で、ひとつだけ悔やまれることがある。
それは、私の誕生日。
キノコから電話がかかってきた。
私のためにケーキを焼いたので、うちに来ないかと。
すごく嬉しかった。
でも、私はまだテスト期間中で、キノコの家に行くことができなかったのだ。
キノコの家は大学を越えて向こう側にあり、かなり遠かった。
今だったら、LINEでこんなの焼いたよと写真を送ってくれたかもしれない。
noteで「きのこ」という名前を見るたび、私の知ってる大好きなキノコを思い出す。
私は、キノコが焼いてくれた、優しい透明なケーキを今も胸に携えている。
ーー今、あの『幻獣辞典』が読みたい。

