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素浪人わたり放浪奇(一) 白鷺森のフォロー外し妖怪|リライト版

 昨年、創作大賞エンタメ原作部門に応募した作品をリライトしてお届けします。
 別アカウントにありましたが、整理するためにこちらに引っ越しすることにしました。ちゃんと小説を書いたのは初めてなのに、1000文字が1ヶ月半で7万字の妖怪ファンタジーに膨れ上がりました。お見苦しい点もあるかと思いますが、読んでいただければ幸いです。

※名称の一部を変更しました。

あらすじ

 物書きをしながら放浪の旅を続けている素浪人の若者わたり。梟森の旅に始まり、印ノ森、鴉森などを旅してきた。旅の途中で物書きの師匠に出会い、刀を筆に持ち換えることになる。長い旅の末に、白鷺森に辿り着いた。白鷺森で腰を据えて書いたフォロー外し妖怪の記事が評判となり、これまで出会ってきた妖怪の記事を書き始める。
 わたりは常に口に手拭い巻いていて、これには何やら秘密があるようだ。
 ある日、神社で参拝していると、わたりの前に雨葉村で出会った化け猫が現れ、妖怪と悲喜交々の闘いを繰り広げた大長編を書くことになる。エレキテルで動く細工箱の寺子屋と芝居小屋の美しいお千代を巡る顛末はいかに。そして、この白鷺森で新しい物語が始まろうとしていた。

世界観

江戸時代末期とSNSの世界を模して融合した世界に、妖怪が現れる妖怪奇譚活劇。


 俺は素浪人のわたり。これまで、いろいろな森を旅してきた。この白鷺しらさぎ森でも、あの妖怪に出会すとは、本当に繁殖力の強い奴らだ。

 ふくろう森から始まって、印ノ森いんのもり、はたまたからす森と、この流浪の旅も十年あまり、矢福やふく森なんてのもあったな。いろんな奴らがいた。新しい森に着くたびに何人かが付人になりたいと申し出てきた。付人が二百人ほどの大所帯になったときもあった。

 一ヶ月ほど前に白鷺森に辿りついた。持ち物は、繕いだらけの一張羅と半纏、背負い籠の中身は文箱と懐中筆だけだ。腰には手拭いと、師匠の形見の螺鈿細工のキセル入れがある。物書きの師匠が俺にくれたものだ。刀はとうの昔に筆に持ち替えた。まあ、キセルをくわえていることのほうが多いがな。

 白鷺森での長い滞在は初めてだった。ここは今までの宿と違って居心地がいい。最近出来た宿らしく、部屋の畳はい草のいい香りがする。装飾は簡素だか、要のものは全て揃っている。むしろ雑音が少なく過ごしやすい。物売りもしょっちゅうは訪ねてこない。部屋の戸口に覗き窓がなく、訪問客の確認には大枚を払わねばならぬ。不便はそれぐらいだ。

 ある朝、俺は日頃の感謝を込めてスキという菓子を渡そうと、宿の前に付人を集めた。戸口を開けて外に出ようとすると、手拭いを巻いていないことに気がついた。
「やべぇ、うっかり付人を震えあがらせるとこだったぜ」
俺は腰に付けた手拭いをしっかり口に巻いて、通りに出た。付人は老若男女、子供もいて、通りはすでに賑わっていた。
「もうツツジだって咲いてるのに肌寒いわ。早くしてちょうだい」
若い娘が体を縮こませた。
「あぁ、すまねぇ」
横を向いて手拭いを直すと、その娘にスキを放った。
 スキを渡しながら、付人の人数を数えてみると順調に増えていったはずの付人が減っている。しかも、誰が減ったのかよくわからねぇ。
(白鷺森にもいたのか!?フォロー外しの術を使う妖怪座敷わらしが...)
 座敷わらしとは、家につく子供の容姿をした妖怪だ。座敷わらしの出る家は商売繁盛、子宝に恵まれ、子孫繁栄すると言われている。その反面、座敷わらしがいなくなると、家は没落するとも言われている。座敷わらしは子供たちのなかに混ざって遊ぶのだが、誰が座敷わらしだかまったくわからなくなるのだ。

 俺は部屋に戻って勢いよく手拭いを外し、背負いカゴの中から文箱とキセル入れを出した。手が滑って、キセル入れが縁側の板の間に転がり落ちた。「あぶねえ、師匠のキセル入れを粗末にするとこだったぜ」慌ててキセル入れを拾った。
 火鉢の火をとって、キセルに火をつける。ふわりとキセルの煙が上がると、欄間の辺りまで届いて漂った。
 キセルをくわえたまま、付人がついたときに預かった文の数を数え始める。ひ、ふ、み…….預かった文の数は二十六。今、付人は二十二しかいない。四人が消えたということか。いや、二人は申し出があったが、俺が文を返さなかったのだ。だから、消えたのは二人だ。
 この文は、付人の申し出があったときに受け取る約束手形だ。「お主を見守っている(お前をフォローする)」という一文と屋号とが一緒に書いてある。俺は手形を受け取ったら、同じ界隈であれば相手にも約束手形を送る。俺も誰かの付人で、他の誰かを見守る約束をしているのだ。
 俺は宿から俺の付人の台帳を借りてきた。台帳を開き、文と屋号を丹念に照らし合わせた。
「あいつらか……」
屋号を見れば、あいつらが今何をしてるかは一目瞭然だ。
 どうせ俺が見守りをやめて、縁を切ったつもりでいても、また座敷わらしは忘れた頃にやってくる。
「ーーそのままにしておくか」
文束を整えると、端の欠けた文箱の中にしまった。
 キセルの灰をトントンと軽く叩いて火鉢に落とす。詫びるようにキセルを手拭いで丁寧に拭くと、螺鈿細工のキセル入れにしまった。
(師匠はいったいどこにいっちまったんだ......)
箱枕を引き寄せて横になった。い草の清々しい匂いがした。
 目が覚めたら、新しい座敷わらしが文を持って付人に申し出てくるかもしれない。
 どんな座敷わらしがくるのか、楽しみにしておこう。
 俺はすでに結構満ち足りている。身なりは粗末だが、雨風も凌げるし、物書きで食えなきゃ日雇いの仕事で飯は食える。
 残った付人の中に俺を好いてくれている座敷わらしもいるのだろう。
「悪くない」
細く笑みながら呟いて、腰にかかった半纏を肩まで引き寄せ、眠りについた。


白鷺森のフォロー外し妖怪【一話完結】
鴉森のくれくれ妖怪【上の巻】につづく


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