育む科学技術コミュニケーション
育む科学技術コミュニケーションには、科学技術との距離を近づけ、科学技術への関心を育て、未来の科学技術とそれを育む土壌を耕すための活動が含まれます。そのための心得を5つにまとめました。(2025年8月31日時点の心得です。)
人材を育む
仲間とのつながりを広げ、科学技術があたり前の世の中を創り、科学技術コミュニケーターや市民科学者を育成します。
【背景】
「育む」には愛と双方向性が含まれており、一方的な「人材育成」ではなく、仲間として関わる参加型の関与を想定しています。科学技術を社会に根付かせるための長期的な視点が込められています。
策定過程(育むグループ内)での提案内容
子どもが生まれたら行政が図鑑を配布する
自治体に「サイエンスコミュニケーション課」を設置する
コンビニのように身近にサイエンスカフェが存在する社会を目指す
策定会議中に出た意見(フロアディスカッション)
「科学技術が当たり前の世の中を創る」という表現は上から目線に響くのではないか
「市民科学者」という言葉には強い違和感がある。過去に嫌な経験をした参加者もおり、なぜこの言葉を使うのか疑問が出た
サイエンスコミュニケーションの担い手を育むのか、一般市民を対象とするのかが不明確。「目的が変わってきていないか」との指摘もあった
能力を育む
私たち(科学技術コミュニケーター)は、自身、そして社会の論理的思考力、科学リテラシーを育みます。全ての人が科学を楽しむ感情を大切にし、一人一人が生き抜く力を養います。
【背景】
目標は知識習得ではなく、科学が人生を支える「生き抜く力」として活かされること。科学を楽しむ感情(わくわく)と論理的思考力を結びつけることが重視されました。
策定過程(育むグループ内)での提案内容
ボードゲームやカードゲームを用いた学びの場づくり
「科学の甲子園」などで生徒・参加者の声を直接聞く機会
日常生活に溶け込んだ科学イベントを継続的に実施する
策定会議中に出た意見(フロアディスカッション)
主語を「私たち(科学技術コミュニケーター)」と明確にした点を評価
論理的思考力・科学リテラシーを育むという方向性に賛同の声
強い反対や修正提案はなく、全体的に前向きに受け止められた
場を育む
私たちは、科学と共に在ることに気づき、安心してコミュニケーションがとれる場を育みます。
【背景】
「育む」の対象は人だけでなく、関係性や空間にも広がります。意図的に作る場ではなく、「気づいたら場になっていた」という自然なコミュニケーションを重視しています。
策定過程(育むグループ内)での提案内容
当初は「科学は切っても切り離せない関係にある」という表現だった
グループでの意見を受け、「科学と共に在ることに気づき」に変更した
策定会議中に出た意見(フロアディスカッション)
「場はある種の後付けではないのか」という哲学的な問いかけ
「場は動的に生成されるもの」という理解が共有され、固定的な「場の設置」とは異なる姿勢が強調された
明確な反対はなかったが、場の性質そのものを考え直すきっかけとなった
文化を育む
私たちは、誰でも科学技術を楽しみ、感性(わくわく)を伸ばし協創する文化を育みます。
【背景】
「センス・オブ・ワンダー」を直接使うか議論されたが、親しみやすさを優先して「わくわく」を採用しました。「感性と書いてわくわくと読む」という工夫で、専門性と一般性の橋渡しを図りました。
策定過程(育むグループ内)での提案内容
野球談義のように気軽に科学を語れる日常
サイエンスコミュニケーターは「少し詳しい通訳者」
失敗しても次につながる、寛容な文化
策定会議中に出た意見(フロアディスカッション)
「わくわく」というキーワードは好意的に受け止められた
心を動かす方向性への賛同が多く、肯定的な雰囲気が共有された
未来を育む
私たちは、2045年、その先の未来に向けて、世代を超えた学びの連鎖が続いていく社会の実現に向けて行動します。
【背景】
CoSTEP20周年から次の20年を見据え、「2045年」という時点を区切りとして設定しました。今ある人々だけでなく、次世代へメッセージをつなぐことを意図しています。
策定過程(育むグループ内)での提案内容
学びを常に全世代に開くことを目指す
修了生が全国各地で出張授業を行う
科学を楽しむ連鎖を広げ、次世代に継承していく
策定会議中に出た意見(フロアディスカッション)
「文化」「未来」は特に抽象度が高く、文章化に苦戦したと担当者自身が認めていた
理想だけでなく、具体的な行動や評価方法を示す必要性があるとの指摘があった
全体を通じた策定会議中での意見
表現の強さ
「〜します」で断定的に終えるのは強すぎる。
「〜しましょう」の方が柔らかく、双方向性や共感を感じさせる。
「愛」の概念の統一
「人材」「能力」では『育成します』『養います』とされ、愛のニュアンスが抜け落ちている。
「愛を加えましょう」という具体的な修正提案が出され、最終的に「育みます」へ統一。
科学技術コミュニケーションの姿勢
「みんな科学的に考えるべき」と押し付けるのではなく、
「科学的なツールもありますよ、使ってみませんか?」と選択肢を開く姿勢を明確にすべき。「包摂」という言葉にも「どちらかが優位に立つ」ニュアンスがあると懸念が出された。
ご意見フォームから見えたこと
8月31日の宣言策定後に実施した「ご意見フォーム」には、参加者23名から多くのご意見をいただきました。それぞれの心得に対して、多様な立場からの視点や改善提案が寄せられています。
主な意見の概要
人材を育む:「仲間」とは誰かを明確にすべき/「科学技術が当たり前」という表現は強すぎる
能力を育む:「科学を楽しむ」だけでなく、考え・語り・行動する力を含めたい
場を育む:「気づき」や「共にある」という言葉の意図をもう少し説明してほしい
文化を育む:「わくわく」だけでなく、疑いや問いも大切にしてほしい
未来を育む:理想だけでなく、具体的な行動や評価方法が必要
さらに、全体を通じて次のような提案もありました。
断定的な「〜します」より「〜しましょう」が共感を呼ぶ
「愛」を込めた表現を統一し、「育みます」にまとめる
「科学的に考えるべき」と押しつけるのではなく、「使ってみませんか?」と開く姿勢を
ご意見を踏まえた改訂版
みなさんからの声を受けて、表現を柔らかくし、包摂性と多様性を意識した新版をまとめました。
人材を育む
私たちは、科学技術コミュニケーターや市民科学者、次世代の研究者をともに育てます。仲間とのつながりを広げ、多様な立場の人が科学技術に関わり、その価値を共有できる社会をめざします。
能力を育む
私たちは、自身と社会の科学的思考力・批判的判断力・創造力を育みます。
科学を楽しむ感情を尊重し、多様な人が自分の言葉で科学を語り、行動できる力を伸ばします。
場を育む
私たちは、科学と社会が出会い、安心して意見を交わし、共に考えられる場を育みます。その場が、気づきと理解、そして信頼を生み出す循環のはじまりとなるよう努めます。
文化を育む
私たちは、科学技術を楽しみ、驚き、疑い、問い続ける多様な感性を尊重します。共に学び、共に創る文化を育み、科学をめぐる対話を社会に根づかせます。
未来を育む
私たちは、世代や地域を超えてつながり、持続可能で公正な未来をともに育みます。過去から学び、今を見つめ、2045年とその先の社会を共に描き、行動します。
メッセージ
「育む」という言葉には、ゆっくり、じっくり、共に成長するという願いが込められています。CoSTEP宣言は、20年の実践と対話から生まれた“これからの約束”です。ここからまた、新しい「育む」を始めましょう。
ご意見について
ご意見募集期間は終わりました。
