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「伝える科学技術コミュニケーション」の制作過程

「CoSTEPの修了生だからこそ作れる宣言をつくろう」──そんな思いから、科学技術コミュニケーションのマニフェスト「CoSTEP宣言」を作成することになりました。
まず、「伝える科学技術コミュニケーション」分科会のモデレーターで話し合ったのは、「どんな形で議論を進めるか」ということです。短い時間でまとめるなら、担当者がたたき台の文章を用意し、それをもとに意見を出し合う方が効率的かもしれません。でも、今回は少し違う道を選びました。
「必要な知恵はすでに参加者の中にある」と信じて、一人ひとりの経験を出発点に語り合うスタイルです。つまり、ストーリーテリングを入り口にすることにしました。
宣言を形にすることはゴールのひとつですが、それ以上に大切にしたのは、多様な年齢や立場、現場で活動する科学技術コミュニケーター同士の対話です。ここに集まった科学技術コミュニケーターたちが、普段の葛藤やもやもやを出し合いながら、新たな気づきや勇気を得て、自分なりに歩みを進められる場づくりを大切にしました。
このプロセスを通じて、正解が一つではない「伝える科学技術コミュニケーション」を共有し、それぞれが自分自身の実践を改めて見直すきっかけになる──そんな場を目指しました。

【ゲストモデレーター】出村沙代  【モデレーター】大内田美沙紀


当日の策定プロセス  

CoSTEP修了生が集まり、「CoSTEP宣言」を作るためのワークショップを行いました。ここでは、当日のプロセスを紹介します。

当日のウェルカムボード(制作:出村沙代)

1. オリエンテーション/チェックイン

はじめに場づくりとして、事前に聞いていた「自分を動物に例えると?」を小グループ内で紹介しながら、安心して話せる雰囲気を整えました。

2. ストーリーテリング・トリオ

3人1組になり、それぞれの経験を語り合いました。準備された原稿ではなく、その場で自分の内面と対話しながら語るスタイル。知識や成功体験だけでなく、失敗や迷いも含めて共有されました。そこには、まだ言葉になっていない大切な学びや知恵が息づいていました。

ストーリーテリングの様子

3. 「伝える科学技術コミュニケーション」に必要な要素を抽出

聞き手はストーリーの中から「伝える」にとって欠かせない要素を拾い出し、書き留めます。主観的ではあっても、等身大の実践知が次々と言葉の結晶として抽出されていきました。

4. 小グループでの議論 → 全体での対話

抽出された要素をもとにまずは小グループで議論。その後は全体発表ではなく、全員参加の対話形式に移りました。大きな方向性を描きつつも、小さな声を取りこぼさない工夫として、最初の3人組に戻って対話を重ね、模造紙に思いつきを書き込んでいきました。

5. 未来に向けた深掘り

「残したいこと」「置いていきたいこと」をテーマに、自分の中の“これからの伝える”を見つめ直しました。参加者それぞれが、自分にとって大切なものを再確認する時間となりました。

6. 文言の作成

最後に、ここまでの対話をまとめ上げ、宣言文の言葉を紡いでいきました。多様な声が重なり合い、CoSTEP修了生ならではの「伝える科学技術コミュニケーション」への思いが形になっていきました。

グラフィックファシリテーションをヒントに、文言を作成していく様子
全体対話で共有された話し合いの内容と、参加者が書き込んだ言葉

浮かび上がった5つの宣言

宣言1【価値観を認め合う対話】
伝える前に自分の立場を認識し、相手の立場や価値観を尊重し、互いに対話し歩みよります。
【背景】伝える活動が一方通行的にならないように、双方向の観点から伝える活動をとらえていくという思いが込められています。

宣言1該当箇所

宣言2【「伝える」から「共感・共有」へ】
経験や技術の蓄積をもとに、覚悟と信念と勇気をもって、知識の一方的な伝達を超えて、共感し、分かち合う関係を探り続けます。
【背景】伝える責任を「覚悟と信念と勇気」という言葉に込め、伝えることによる広がりを「共感し分かち合う関係」という部分に込めました。また伝える活動が伝えることだけで終わらないことを「探り続ける」という文末で伝えています。

宣言2該当箇所

宣言3【科学と社会をなめらかにつなぐ】
みんなが笑顔になれる社会に向けて、科学の正確さとわかりやすさのバランスをはかり、「伝わる」と「伝える」の間にあるギャップを意識しながら、探究し続けます。
【背景】伝えるの目的を一人一人の納得感、幸福感につなげるという意味で、「みんなが笑顔になれる」という表現にまとめました。また伝える際の正確だがわかりやすくという理念を「正確さとわかりやすさのバランス」と据え、「『伝わる』と『伝える』の間にあるギャップ」という部分で、伝える活動と伝わることの違いに対する自覚が記されています。

宣言4【納得をともにつくる】
答えが一つではない多様な社会において、立場の違いを前提としながら、科学技術の選択や判断において、だれもが納得できる道を探ります。
【背景】この社会の多様性を「答えが一つではない」としたうえで、伝える活動の活動は「立場の違いを前提」とすること、そして最終的に科学技術に関する判断において「納得できる道」に導く活動であることをまとめています。

宣言4該当箇所

宣言5【人間だからできる信頼と共感】
情報だけでなく、大義や雰囲気、場をともに育み、まつりのように人々を巻き込みながら、共感の輪を広げていきます。
【背景】伝えることが情報だけに限らないこと、そして伝えることによってコミュニケーションの輪が広がることを「まつりのように」と表現しました。

振り返って

ぎりぎりまで発散と小さな収束を繰り返しながら、私たちが本当に大切にしたいことは何か、足元を丁寧に確認しました。そして、次の「伝える科学技術コミュニケーション」として宣言していきたいことを深めたうえで、最後に言葉の結晶を文章としてまとめました。
その過程では、こんな本音の声や問いかけも交わされました。

  • 「言葉が上から目線や偉そうになっていないか。おこがましくないか。」

  • 「仕事として継続するなら、きれいごとだけではできない。」

  • 「真面目すぎて、逆に気持ち悪くないか。心身ともに疲れる役割ではないか。」

科学と技術を正確に、中立的に、そして包括的に伝えることが求められる中で、人としてどうあるべきか。現代の科学技術コミュニケーターが直面する問いや葛藤、ありのままの姿が浮かび上がる瞬間でもありました。

修了生による手書きの宣言文(編集前)

プロセスそのものが、宣言文と同じくらい価値のある時間でした。多様な経験が交わり、正解のない「伝える科学技術コミュニケーション」をそれぞれが捉え直す──その積み重ねが、宣言を生み出す土台になったのだと感じます。そして、この対話の先に生まれたのが「CoSTEP宣言『伝える』」です。
科学技術コミュニケーションが誰に対しても開かれ、科学だけでは乗り越えられない課題を、ともに乗り越える寄り添い手であること──その姿勢を広く、そして簡潔に伝える宣言にしたいと考えています。限られた時間の中でまとめた文言ではありますが、ぜひこの記事を読んでくださっているあなた自身の経験と照らし合わせ、より良いものにするためのご意見をいただければ幸いです。

ミニセッション終了後の集合写真

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