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【洋楽解説×平和学 No.011】What's Going On 〜 Marvin Gayeの問いかけ、Cyndi Lauperの叫び

🎸楽曲紹介

Title: What's Going On
Artist: Marvin Gaye(1971年)/Cyndi Lauper(1986年・1994年)
Original: 1971年1月(シングル)、1971年5月(アルバム収録)
Album: What's Going On(Marvin Gaye, 1971年)/True Colors(Cyndi Lauper, 1986年)
Chart: R&Bチャート5週連続1位、Hot 100 2位(マービン・ゲイ版)


 高校生の頃、私は本当にどうしようもないことで教師たちに抑圧されていました。髪を切れ、ズボンが太い、ボタンダウンのシャツは着るな、開襟もダメ、冬は防寒着もなし(ちなみに女子はクソダサい学校指定のコートあり)…。うんざりです。
 それに対しては、正しいと思うことを言葉で主張し、行動で跳ね除けました。といっても、もちろんグレて非行に走って暴力的に反抗していたわけではなく(笑)、普通に太いズボンを履いて(標準学生服は細すぎて膝を曲げにくい!)、夏は開襟シャツを着て(涼しいから開襟の方がいいに決まってる!)、冬は男子学生の中で私ひとりだけコートを着て登校していました(寒いに決まってるだろう!風邪をひけというのか?そもそも自分たちは防寒着来てるじゃないか!俺らがダメならお前らも脱げよ!笑)。
 自分に自信を持って行動していたためか、私の言説に反論できなくなったためか(おそらく両方)、ある時から教師たちの方が私を避けるようになりました。生徒の自由を尊重してくれていた数少ない教師のひとりが、「君は校長のブラックリストのトップに名前を連ねているみたいだよ」と教えてくれましたが、私にとってそれは勲章以外のなにものでもありません。
 それでも、私への抑圧をやめず、むしろ強めてくる教師もいました。「宿題の提出内容がおかしい」などという理由で職員室に呼び出され、他の教職員がいる前で何時間も叱責されたこともありました。
 でも、「Father, we don't need to escalate(父よ、これ以上エスカレートさせる必要はない)」——マービン・ゲイは叫ばなかった。静かに、しかし確固として問いかけた。その静かな確信が、高校生の私の背骨を支えてくれました。

 あれから何十年も経って、今もこの問いは続いています。


1. Background:Motownに「ノー」と言った男

 マービン・ゲイがこの曲を書くきっかけは、弟フランキーからのベトナム戦争の手紙でした。3年間の従軍を終えて帰国した弟の変わり果てた姿。そして1965年のワッツ暴動——「世界中で爆発が起きているのに、どうして恋愛ソングを歌い続けられるんだ?」とゲイは問い、プロテストアルバムを作ることを決意します。

 しかしMotownのボス、ベリー・ゴーディは猛反対しました。「今まで聴いた中で最悪のものだ」と言い、リリースを拒否。ゲイはこれに対して「この曲をリリースしないなら、二度と録音しない」と宣言——ストライキに入ります。ゴーディがついに折れてシングルをリリースすると、爆発的なヒットになった。その成功はMotownに衝撃を与え、スティービー・ワンダーをはじめ他のアーティストにも芸術的な自由をもたらすことになりました。

 ひとりでレーベルに抗い、自分が正しいと信じて動かなかった——マービン・ゲイ自身が「What's Going On」の体現者でした。

アルバムの構造: アルバム「What's Going On」はソウル史上初のコンセプト・アルバムと言われ、ベトナムから帰還した兵士の視点から、故国で目撃する憎しみ・苦しみ・不正義を描いた「歌のサイクル」として構成されています。

黒人兵士の問題: 「兄弟よ、死んでいく人が多すぎる」という歌詞には、アメリカ人口の10%でありながらベトナム戦争の戦死者の3分の1を占めた黒人兵士への、特別な叫びが込められています。

シンディ・ローパーのカバー: 1986年にシンセポップ版を、1994年にはパブリック・エネミーのチャック・Dをフィーチャリングした版をリリース。ロドニー・キング事件(1991年)とLA暴動(1992年)の後——ゲイが問い続けた「黒人への暴力」は、形を変えて続いていました。実を言うと、私が最初に聴いたのはシンディ・ローパー版でした。


2. Lyrics:「戦争は答えではない、愛だけが憎しみに勝てる」

 この曲の歌詞は叫ばない。問いかける。

「Mother, mother, there's too many of you crying(母よ、母よ、泣いている人が多すぎる)」
「Brother, brother, brother, there's far too many of you dying(兄弟よ、死んでいく人が多すぎる)」

 「母」「兄弟」——家族への呼びかけとして始まる。戦争、貧困、暴力をひとごとにしない、「家族の問題」として語る視点。

「You know we've got to find a way / To bring some lovin' here today(私たちは道を見つけなければならない、今日ここに愛をもたらすために)」

 問いかけだけで終わらない。「愛をもたらす」という行動への呼びかけ。

「War is not the answer, for only love can conquer hate(戦争は答えではない、愛だけが憎しみを克服できる)」

 この一節はベトナム戦争への批判として書かれましたが、50年後の今も同じ重さで届きます。That's the Way of the World(Earth, Wind and Fire、後日配信)の「愛による抵抗」、Under Pressure(Queen + David Bowie、後日配信)の「Give love」——時代を通じて幾度も繰り返される問いが、ここに凝縮されています。

「Father, we don't need to escalate(父よ、これ以上エスカレートさせる必要はない)」

 権威(父)に向かって静かに「ノー」と言う。叫ばず、暴力を使わず、しかし確固として。

「What's going on?」——答えを示さず、問い続けることで、聴く者自身が考えさせられる。


3. Music:Motownが変わった日、そして引き継がれる問い

革新的な録音: ゲイは自らプロデュースし(Motownでは異例)、マルチトラッキングで複数のリードボーカルを重ね合わせました。偶然生まれた「二重リード」の感触をゲイが気に入り、そのまま採用したエピソードは有名です。ストリングスとジャズ的なコード進行の融合は従来のMotownサウンドを刷新し、2020年のローリング・ストーン誌「500 Greatest Albums of All Time」で歴代1位に選ばれました。

シンディ・ローパーが変えたもの: 1986年のシンセポップ版はアルバムバージョンで銃声から始まり、ベトナム戦争を想起させます。しかしそれ以上に重要なのは、女性が「What's Going On?」と問いかけること自体の意味の変化です。「Girls Just Want to Have Fun」を女性目線に書き換えてフェミニスト・アンセムを生んだローパーが、今度は「問いかける主体を変える」ことでこの曲に新しい命を吹き込みました。「誰が問いかけるか」が、問いの意味を変えるのです。

チャック・Dとの1994年版: 1971年のソウルが1994年にヒップホップと融合して再び問いかける——23年後もまだ答えが出ていない問いの「継承」です。チャック・Dの声が加わることで、この問いは黒人男性→白人女性→ヒップホップへと、時代と主体を越えて受け継がれました。


4. Lessons:ひとりでも「正しいことを信じる」という平和学

1. マービン・ゲイの「ひとりのストライキ」

 ゲイはMotownのボスに「最悪」と言われ、それでも「リリースしないなら二度と録音しない」と言い切りました。ひとりでレーベルに抗い、自分が正しいと信じて動かなかった——その結果、この曲はMotownの歴史を変えました。

 高校生の頃、教師たちに抑圧されながらひとりで争っていた——その感覚と、マービン・ゲイがMotownに抗った構造は同じです。権威が「それは間違いだ」と言っても、自分の正しさを信じて動じないこと。それは暴力でも逃走でもない——平和学が「非暴力的抵抗」と呼ぶものの、最も日常的な形です。

2. 「War is not the answer」——しかし問いはまだ終わっていない

 この曲は1971年に書かれ、2021年のジョージ・フロイド事件の後も同じ重さで鳴り響いた。50年経っても問いは変わっていない。2026年の今、ウクライナ、ガザ、イラン、米国、そして世界各地で「What's going on?」はまだ問われ続けています。ゲイが弟の手紙から感じた「これは何なんだ」という問いは、世代を超えて繰り返される人類の根本的な叫びです。

3. 「誰が問いかけるか」が問いの射程を広げる

 黒人男性が1971年のアメリカで問いかけた問いを、白人女性が1986年に、ヒップホップが1994年に問いかけた。問いかける主体が変わることで、問いはより多くの人に届く——これは平和学的に非常に重要な視点です。シンディ・ローパーとチャック・Dによるカバーは、単なるリスペクトではなく「この問いはまだ終わっていない」という宣言でした。


5. In sum:「What's going on?」と問い続けることが、平和学者の重要な仕事

高校生の私を支えた問い

 教師たちに抑圧されてひとりで争っていた時、私の背骨を支えてくれたもののひとつが、シンディ・ローパーバージョンのこの曲でした。「Who are they to judge us / just because our hair is long」——ロック小僧の私は、長髪とまではいかないけれども、やや長めの髪型をしていた時期もありました。だからこそ、この部分は私を直接的にバックアップするものでした。今考えれば、当時の出来事が、私が平和学を志すようになった要因のひとつだったのかもしれません。

ひとりで正しいことを信じることの連鎖

 マービン・ゲイはMotownにひとりで抗った。高校生の私は教師たちにひとりで抗った。そしてこの曲はチャック・Dに引き継がれ、また別の誰かに引き継がれていく。「ひとりで正しいことを信じる」という行為が連鎖することで、世界は少しずつ変わる——それがこの曲が半世紀以上問い続けていることです。

問いを持ち続けることが答え

 「What's going on?」——この問いに、まだ完全な答えは出ていません。そして答えが出ない限り、この曲は歌われ続けるでしょう。平和学者として問い続けることと、マービン・ゲイが歌い続けたことは、同じことだと思っています。


 最後に、2019年につくられたオフィシャルビデオの映像を。今世紀版にアップデートされた様子をご覧いただきながら、今回はここでお別れです。


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