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「何もできなかった日」を「好きなことができた日」に。読書の効能📖

 カーテンを全部閉めて、天井の照明も消して、残るは天窓から差し込む明かりのみ。
外はあいにくの曇天、しかも夕方ということも相まって、真っ暗とはいかないまでも部屋の中は結構暗くなります。

そしてデスクライトを点けると、そこだけが暗闇に浮かび上がるように明るく照らされました。
ローテーブルの前に座って、本を開けば準備完了です。

いざ、物語の世界へ──


   ***


ときどき気が向いたときに、鉄道写真を撮っています。
最近のとある日曜日、なんとなく思い立って撮影に行くことにしました。

カメラやら何やら用意をして、さあ出発というところで、おや? 急に足が重くなったのです。
少し外に出ただけでそれ以上進めなくて、一度家の中へ戻ってしまいました。

曇り空だけど雨は降ってないし、せっかく用意もしたし、他に行きたいところもないはずでした。
なのに、

なんだか行きたくない気がする……。

しかし、そんな心の声は聞かなかったことにして、再び外に出てなんとか出発です。
撮影地へ向けて車を走らせている間は、特にうきうきわくわくするようなこともなく、なんだか義務感から動いているかのような味気なさ。

到着して列車を待っている間も、いつもならば写真の構図やカメラの設定をあれこれ考えたりして楽しく忙しいのに、それもありませんでした。
果たしてこんな調子で趣味と言って良いのかという。

極めつけは、時間になってもお目当ての列車が来なかったことです。
狙っていたのは土日しか走らないちょっと特別な列車なのですが、どうやら運休になった様子。

そこまで遠くないとはいえわざわざ来たというのに、これでは何がしたかったのか分かりません。
今日も走っているものだと信じて疑わず、事前に調べることすらしなかったのが悔やまれます。

おまけに弱い雨まで降ってくる有様で、どこにも行き場のない憤りや虚しさは、少しだけ残っていた気力を奪うのには十分過ぎるほど。
案の定、その後は何をしても楽しくないといいますか、一旦感情が上向きになってもすぐ虚しさに襲われてしまい、久しぶりに落ち込んだ気分が続きました。

──今日は何もしていない。無駄な一日を過ごしてしまった。

実際のところ、何もしていないことはないのです。
キッチンの排水溝を洗い、タオルケットを洗濯し、道の駅にも行きました。

でも、そんなことは何の慰めにもなりません。
そんな日もある、と言い聞かせてみても、気分転換に散歩してもだめ。
糸がぷつん、と切れたみたいにただひたすらに無気力で無感動で。

なるほど、ここまで落ち込むと生半可なことでは立ち直れないし何も受け入れる気にならないのだなと、どこか他人事のように考えている自分さえいました。
まるで真っ暗な洞窟に迷い込み、それにもかかわらず出口を探すことを諦めたみたいです。


なんのはなしですか。


ええと、そう、ここまでが前置きです。
これから本題に入ります。

そんなこんなで夕方になりました。
もう動きたくない、できれば何もしたくない、でも暇なのです。

あと一時間ほど、どうやって過ごそうかというところで。
そういえば、図書館で借りた読みかけの本がありました。早く読み終えないといけません。

そしてもうすぐ暗くなると思い、戸締まりをしたら冒頭のようになりました。
図らずもいい感じの空間が出来上がったので、少し前向きになって読書でも。

最初のうちは文を一つ一つ意識して、理解するつもりで読んでいきます。
少ししてから、なんとなく時計に目をやるとまだ数分しか経っていなくて、活字を読んでいる感といいますか読まされている感がまだ強めな感じでした。

それを意識の外に追いやりながら、再び読み進めていきます。
すると今度はどうでしょう、文を一つ読む度に、ページを一枚めくる度に段々と引き込まれていくのです。

この文章の意味はどうとか、物語は今どんな状況で、などと考えるまでもなく頭の中に自然と情景が浮かんで、ひたすら夢中で読んでいました。
さながら僕自身が物語に入り込み、傍観者になったかのような不思議な感覚です。

ページをめくる手は止まらず、きりの良いところまで一気に読んで本を閉じ、時計を見ますと18時前。
あっという間に小一時間が経過していました。

そのときの素直な感想は「面白かった」です。
本の内容はもちろんのこと、読んでいた時間そのものも。

時間や何かに追われることもなく、こんなにじっくり本を読んだのなんていつぶりだろう、と思うくらい満ち足りていました。
こうなると詳しい感想がどうこうというよりかは、もうただただ良かったとしか言いようがありません。

先程までの落ち込み気分はなりを潜めて、ちゃんと本を読めたこと、そして面白かったと感じられたことが何より嬉しく、心が晴れやかになっていく気がしました。
どうやら僕は、本をじっくりゆっくりと読みたかったらしいです。

義務感に襲われてやるべきことをこなしたり、趣味のはずのことで楽しいふりをしてみたりするのではなく。
心ゆくまま、物語の世界に浸るだけ。

ただそれだけで、「何もできなかった日」だったのが「好きなことができた日」になりました。
ほんの一時間足らずで、あれほど陰鬱とした気分から救いあげてくれるなんて、本はやっぱりすごいです。

これだから読書はやめられません。
図書館と本屋さんに足繁く通って、積読本をどんどん増やしてしまいそうです。

なんのはなしですか。




ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
みなさまの読書時間が楽しいものでありますように📚





↓読んだのはこれの単行本の方です。




見出し画像に、ひいろさんのイラストを使わせていただきました🌃
ありがとうございます。