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その肩、動かす前に。

正しい位置って、どこ?

「肩のインナーマッスルを鍛えるなら、とにかく肩関節を動かせばいい」——そんな指導、見かけたことありませんか?

最近はもう一歩踏み込んで、「適当な姿勢のまま動かしても問題は解決しない。まずは体幹や肩甲骨・鎖骨のポジションを整えて、条件が揃ってからローテーターカフのエクササイズに進むべき」という考え方もよく見かけます。

たしかに、やみくもに動かすだけの指導と比べたら、ずっと丁寧なアプローチです。それでも私は、この説明をそのまま受け取ることができませんでした。

その「適切なポジション」は、どこですか?

この考え方で紹介される具体的な方法は、たとえばこんな内容です。体幹ポジションを整える。肋骨を内旋させる。肩甲骨を下制する。前鋸筋を活性化する。胸椎を起こす。鎖骨の位置を調整する。そしてローテーターカフを鍛える。

並べてみると分かるのですが、これらはすべて「筋肉や部位への介入」です。筋肉や部分的な要素を操作することで、肩関節の位置を改善しようとしている。

問題は、そもそも「正しい肩甲骨や肩関節の位置」が何なのかという基準が、最後まで示されていないことです。「適切なポジションにあってこそ」と言うなら、その適切な位置とはどこのことなのか。姿勢を扱うなら一番大事なはずのこの基準が抜けたまま話が進んでいくところは、正直、私からすると見え方が粗いなと感じます。

それに、肩甲骨の下制についても私は捉え方が逆だと考えています。肩甲骨が下制した位置に収まるのは、正しい位置に入った「結果」であって、下制させるから正しい位置に来るわけではありません。

筋肉で作った位置は、正しい位置なのか

結論から言うと、「筋肉を使った結果、位置が変わったこと」と「機能的に正しい位置になったこと」は別問題です。

肩甲骨を下制することも、内転することも、鎖骨を動かすことも可能です。肩甲骨を動かせば、鎖骨も連動して動きます。でも、そうやって移動した先の位置が、肩関節にとって本当に適切な位置だとは限りません。鎖骨が動いたからといって、その位置が正しいという保証はどこにもないんです。

大事なのは、肩甲骨がどこにあるべきか。上腕骨がどこに収まるべきか。そして重力下でどの位置が安定するのか。この基準を持たずに操作だけを積み重ねると、「形を変えただけ」で終わってしまいます。

私が最初にやること

私が学んでいる身体観では、肩関節の改善で最初に行うのは、筋肉を使って位置を作ることではありません。正しい肩関節の位置を、身体に認識させることです。

基準になるのは、水平と重力。具体的には、肩関節をゼロポジションへ導き、腕を体側へ戻したときに肘の内側が正面を向く。腕を振ったときには肘の外側が後方から見えて、腕振りが身体の後方で行われる。そのときの肩甲骨の位置を理解してもらう——という状態を最初に作ります。

そして、その正しい位置を作った状態で、繰り返し動作を行います。すると、腱、関節受容器、神経系、固有感覚が、その位置と動きを学習していきます。「筋肉を使って正しい形を作る」のではなく、「正しい形を認識し、その状態で使うことで身体が適応する」。順番はここからしか始まりません。

ここは前提が違うと、リスクも変わってくると思っています。位置の基準がないまま肋骨や肩甲骨の操作を積み重ねると、正しくない位置のまま身体に使い方を覚え込ませてしまう可能性があります。エクササイズを頑張れば頑張るほど、ズレた位置での動きが上手になっていく——そうなると、改善のスピードどころか、方向そのものが変わってしまいます。

同じ「肩関節のポジションを整える」という言葉でも、筋肉や呼吸を操作して身体を誘導するのと、水平・重力を基準に正しい位置を決めて反復で身体に覚えさせるのとでは、まったく別の話になります。

そして、水平は好みで選ぶ基準ではありません。身体や筋肉を基準にすると、体勢や条件が変わるたびに基準そのものが動いてしまいます。でも水平と重力は、誰の身体でも、どんな条件でも変わらない。運動動作における、唯一の絶対的な基準です。

だから私は、ここから身体を見ています。

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