「バカが。優しさなんかで、命張れるか」|葬送のフリーレン
『葬送のフリーレン』における利他の描き方に
ついて、もう少し書きておきたい。
フリーレンの世界に登場する強い人間たちは皆、
「自分のため」だと言いながら
利他のために、行動することができる。
現実の社会には、「人のため」という名目で
立身や功名心といった利己のためにしか
動かない人々も、散見される。
だからこそ、フリーレンの世界の利他の描き方に、
新鮮な感動を覚えるのだ。
S1E20『必要な殺し』における一級魔法使いの試験中、
参加者のエーレは、同じパーティメンバーであるヴィアベルに
彼が魔族と戦う理由は、彼の優しさなのか、と聞いた。
そんな義理も必要もないのに
彼女を背負い、助けてくれたヴィアベルは
かつて彼女の村を、魔物から救ってくれたこともあったのだ。
しかしヴィアベルは、
彼女の問いを、一笑に付す。
バカが。優しさなんかで、命張れるか。
人間は欲望のために、戦うんだよ。
俺の場合は、下心だ。
そして彼は語り出す。
まだ4、5歳の頃、北側諸国にあるヴィアベルの故郷でも
魔族の動きが活発化していた。
それが原因で、ヴィアベルが好きだった女の子は
家族で村を出てしまった。
ヴィアベルはその時、かっこつけて、彼女に約束をしたのだ。
「クソッタレな魔族どもは、俺が全員ぶっ殺してやる」と。
だからまた、村に戻ってこい、と。
29年も、前の話だ。
ヴィアベルはその女の子の顔も名前も、
すでに覚えていない。
その約束を、彼は守り続けている。
顔も名前も覚えていない相手に、
下心が残っているはずはない。
彼が「欲望」と呼ぶもの。
それは、利他の心だ。
「バカみたいね」とエーレが言う。
「ああ、バカみたいだ」と、ヴィアベルは返す。

