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【ホームズ捕物帳】第四十話:異人の首の奇談〜 The Curious Case of the Foreigner's Head 〜

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ホームズ捕物帳 ~ロンドンの名探偵、江戸に転生して岡っ引きになる

著:コナン・綺堂異流(Conan Kidoyle)


第四十話:異人の首の奇談

〜 The Curious Case of the Foreigner's Head 〜


【冒頭:ロンドン時代】

一八九五年、三月の初旬のことである。

ベイカー街の居間は、あの日めずらしく活気に溢れていた。ホームズが変装の実験に熱中していたからである。

卓上には蝋燭が数本立ち、その傍らには奇妙な道具が並んでいた——造型用の蝋、色のついた膠(にかわ)、毛髪の束、そして小さな彫刻刀。ホームズはそれらを用いて、何やら人間の顔らしきものを形作っていた。

「ホームズ、それは一体——」と私は声をかけた。

「蝋人形だよ、ワトソン」ホームズはちらりと振り向いた。「マダム・タッソーの仕事を研究しているのだ。人間の顔というものが、どれほど精巧に再現できるかを確かめている」

「何の役に立つのだ」

「知識というものは、それ自体が武器だ」ホームズは彫刻刀を置き、できかけの蝋の顔を光にかざした。「たとえば——もしも誰かが偽の証拠を作ろうとしたとき、それが本物かどうかを見抜けるかどうかが、探偵の命運を分ける」

私はその蝋の顔を覗き込んだ。まだ未完成だったが、どこか見知らぬ外国人の顔のような輪郭をしていた。目鼻が整い、皮膚の質感まで再現しようとした痕跡がある。

「妙にリアルだな」

「蝋は人肌に近い質感を持つ。色を塗り、毛髪を差し込めば——」ホームズは不意に立ち上がり、蝋の顔に白い布をかぶせた。「ワトソン、人は見たいものを見る。それが詐欺師の武器だ」

そのとき、ホームズが立ち上がりざまに肘で蝋燭の台を倒した。炎がカーテンの端をかすめ、私は咄嗟に消そうとして、ホームズとぶつかった。二人もつれるように窓のそばへよろけ、古いサッシが勢い余って外れ、私たちはそのまま三階の窓から——。

テムズ河が、思いのほか遠くに光って見えた。

そして——。


【本編:江戸での事件】

——和登三太の語り——

今度目が覚めたとき、私は石畳ではなく、土の上にいた。

ロンドンの石畳でも、江戸の長屋の路地でもない——砂利まじりの、広い道の脇である。遠くに波の音がする。磯の匂いが鼻をつく。

「横浜だ」

捕霧七が傍らに立ち、煙管を構えながら、落ち着き払った顔で遠方を眺めていた。

「横浜——とは?」

「江戸から南西へ、東海道を十里(やく四十キロメートル)ほど行ったところにある港町だ。嘉永六年(一八五三年)にアメリカの軍艦が来航して——ロンドンで言えばペリーという提督の黒船だ——それ以来、この港は外国人との交易の場として急速に発展した。今われわれがいるのは、その横浜の、神奈川の宿場近くらしい」

私は周囲を改めて見渡した。

なるほど、ここはこれまでの江戸とは雰囲気がまるで異なった。相模湾の開けた海が目の前に広がり、沖には大きな外国船が数隻、帆を畳んで停泊している。道を行く人々の中には、着物姿の日本人に混じって、洋服を着た外国人の姿もちらほら見える。西洋人——私が言うのもおかしな話だが——の髪の色や目の色が、江戸の群衆の中では否応なく目を引く。

日本語では外国人のことを「異人(いじん)」と呼ぶ、と捕霧七が教えてくれた。文字通り「異なる人」という意味で、ロンドンで言えば「foreigner」に当たるが、ニュアンスはより率直——というよりも、より素朴な驚きを含んでいる。江戸時代の日本人にとって、外国人はいまだに珍しく、時には恐ろしく、時には興味深い存在だった。

「しかし」と私は言った。「なぜ横浜なのだ」

「事件がそこにある」と捕霧七は答えた。「行けばわかる」


この話の舞台は、文久二年(一八六二年)の春のことである。

横浜の港には、この頃すでに数十軒の外国商館が軒を連ねていた。イギリス、アメリカ、オランダ、フランス——それぞれの国の商人たちが、この小さな港町に事務所を構え、生糸や茶を買い付けて本国へ送り出した。ロンドンの東インド埠頭を小さくしたような活気が、この神奈川の浜辺にはあった。

私と捕霧七が、江戸に転生してまず行ったことは、いつものように同心(どうしん)——奉行所の捜査役人——との連携を取ることだった。

今回の担当同心は、川上という細身の四十がらみの男だった。彼は開口一番、こう言った。

「面倒な事件でしてね、捕霧七さん。相手が異人がらみとなると、奉行所だけでは動きにくいんですよ。外国人に関わる事件は、外国奉行(がいこくぶぎょう)——異国との外交を担当する幕府の役所——を通さないといけないもんで。その間にも、被害者はどんどん増えている」

「被害の内容は」と捕霧七は鋭く尋ねた。

「覆面をした二人組の浪人者が、神田や深川の商家に押し込んで、金を要求する。脅しの道具が——」川上は声を潜めた。「異人の生首(なまくび)、なんですよ」

私は思わず「なんと」と声を上げた。

「それを油紙の上に据えて、攘夷(じょうい)の証拠として持ち込んでくるんです。『われわれは外夷(がいい)を討ち払う志士の一党である。軍用金を出せ。出さねば次はお前の首だ』と。商人たちは震え上がって、三百両、二百両と出してしまう」

攘夷——「外夷を攘(はら)う」、すなわち外国人を追い払えという思想は、この時代の江戸において強烈な政治的力を持っていた。ロンドンで言えば、急進的な排外主義運動に相当するが、江戸の場合はより暴力的な色彩を帯びていた。刀を持った浪人——仕える主家を失った武士——たちが、「攘夷」の名の下に外国人を実際に襲撃する事件が各地で起きていた。

「その生首は、本物なのか」と捕霧七は静かに聞いた。

「それが——」川上は首をひねった。「商人たちは皆、本物だと言う。恐ろしくて近寄れなかったとも言う。しかし被害が二十軒を超えているのに、横浜で異人が一人も行方不明になっていない。外国商館からの届け出もない」

捕霧七の目が、微かに輝いた。

私はすぐわかった。この男が目を輝かせるとき、すでに頭の中で何かが動き始めているのだ。


捕霧七の最初の一手は、横浜の外国人居留地——異人館(いじんかん)が集まる区域——を訪ねることだった。

横浜の居留地は、幕府と外国列強の条約によって設けられた特別区域で、日本の法律が原則として及ばない「治外法権(ちがいほうけん)」の空間だった。ロンドンの大使館区域に近いが、もっと広く、もっと独自の文化が花開いていた——英語の看板、石造りの建物、馬車の音。

私は正直言って、その区域に足を踏み入れたとき、ほっとした。

懐かしい匂いがした。ロンドンの匂いに近い何かが——西洋の食事の気配、馬糞と煤の混じったあの独特の空気が——ある。着物を着たまま歩いているが、視界に入る景色だけは、どこかロンドンに似ていた。

捕霧七は、イギリスの商館「トムソン商館」を訪ねた。

商館の主、トムソンは赤ら顔の五十がらみのイギリス人だった。捕霧七が同心の紹介状を持っていたこともあり、応接してくれた。

「先月、奉行所に内々で申し上げた件がありまして」とトムソンは言った——私が通詞(つうじ)、すなわち通訳として傍らで日本語に直した。「うちの番頭のロイドという者のことです。若い男でしてね、仕事はできるんですが、このところ港崎町(みなとざきちょう)の廓(くるわ)に通い詰めて、ひどく金を使っている。私が渡す給金だけでは到底足りる額ではない。どこかで余分な稼ぎをしているに違いない」

「そのロイドに、勝蔵という日本人の知人はいるか」と捕霧七は聞いた。

トムソンは驚いた顔をした。「なぜそれを——」

「いるのか、いないのか」

「……おりました。二月の末に放逐しましたが、勝蔵という日本人が商館のボーイとして働いていた。ロイドの遊び仲間で、品行が芳しくなかったので追い出したのです」

捕霧七はうなずいて、それ以上は聞かなかった。


「どういうことだ」と私は、商館を出てから尋ねた。

「整理しよう、三太」捕霧七は煙管を一服つけながら、港の方を眺めた。「まず——異人の生首が出ているのに、横浜で行方不明の外国人がいない。これはどういう意味か」

「首は……本物ではない」

「そう。次に——その詐欺は横浜で始まり、江戸に出てきた。なぜか」

私は考えた。「横浜では同じ手が通じなくなったから……奉行所に嗅ぎつけられた」

「その通り」捕霧七は煙管を置いた。「勝蔵はトムソン商館を追われた。しかし江戸へ向かう前に、商館から何かを持ち出した。それが——」

「首の正体だ」と私は言った。

捕霧七は満足げにうなずいた。

「トムソン商館には、見本品として蝋人形(ろうにんぎょう)があったはずだ。英国では蝋人形館——マダム・タッソーをはじめとする——が流行しており、商人が珍品として持ち込んでいることがある。勝蔵はそれを盗んで逃げた。外国人の顔を精巧に模した蝋人形の首を、攘夷に燃える商人や志士に見せれば——暗い部屋に油紙の上に据えれば——本物の首と見間違える」

「しかし蝋人形を見分けるのはそれほど難しくはないのでは」

「攘夷の熱に浮かされた者は、見たいものを見る」捕霧七は低く言った。「恐怖は人の判断力を奪う。薄暗い中で突然突きつけられた生首——誰も冷静に触れて確かめようとはしないだろう。そしてその後は恥ずかしくて人に言えない。実際、被害者たちは奉行所に届けることすら躊躇っていた」

これはロンドンで言えば、心理的なトリックだ——証拠の偽造ではなく、人間の恐怖と先入観を利用した詐欺。ホームズならば「心の弱点を突く最も洗練された犯罪のひとつ」と言うだろう。

今の彼、捕霧七も、まったく同じ目をしていた。


その後、捕霧七は二日をかけて、江戸と横浜の間を往復した。

調べによって明らかになったのは以下のことだった。

勝蔵という男は、もともと江戸の生まれだが食い詰めて横浜に流れ込み、トムソン商館のボーイとなった。そこでロイドという若いイギリス人番頭と親しくなり、港崎町(みなとざきちょう)の廓——横浜の外国人向けに設けられた遊廓(ゆうかく)で、岩亀楼(がんきろう)という名の店が有名だった——に通うようになった。

遊廓というのは、ロンドンで言えば公認の歓楽街に相当するが、江戸の制度はより複雑だった。吉原(よしわら)に代表される公認の遊廓は、幕府の管理下に置かれ、遊女たちは「年季奉公(ねんきほうこう)」という契約で働いていた。横浜の港崎町は吉原とは別系統だが、外国人の需要に対応した独特の場所で、ここでの遊びは莫大な金がかかった。

勝蔵はロイドを遊び仲間に引き込み、勘定はすべてロイドに払わせていた。しかしそれだけでは飽き足らなくなった勝蔵は、寅吉という深川の仲間を引き込んで、蝋人形の首を使った脅迫詐欺を考案した。最初は横浜の商家で試み、二十余軒から千五百両以上を巻き上げた。その金をロイドと三人で山分けしていた——ロイドは自分の商館の客情報を提供し、どの商人が攘夷思想を持っているかを教える役だった。

攘夷思想の強い商人ほど、「異人の生首」に弱い。そこを突いたのが、この詐欺の巧みさだった。

「見事なものだ」と捕霧七は言った。「被害者の心理を完全に読み切っている。攘夷家は外国人が斬られることを喜ぶ。だから証拠を疑わず、かつ事件を外には言えない——攘夷の軍用金として出した金だと知られれば、自分たちが幕府に目をつけられるからだ」

「完全犯罪に近い」と私は言った。

「そう。しかし——」捕霧七は煙管を静かに置いた。「完全犯罪は存在しない。なぜなら、人間は欲に負けるからだ」


勝蔵と寅吉の失敗は、まさにそこにあった。

横浜で詐欺が発覚しかけたとき、二人は江戸へ逃げた。江戸ではまだこの手が知られていないと踏んで、神田と深川でも軍用金を徴収し、一晩で二百五十両を稼いだ。その後、吉原(よしわら)で豪遊したものの、やっぱり横浜の廓の方がいいと言い出し——欲と習慣の力というものは、恐ろしい——二人は再び横浜の岩亀楼に舞い戻ったのである。

そこで、ロイドと再会した。

捕霧七は奉行所の川上同心と協力して、張り込みを仕掛けた。

田舎道で、ロイドと勝蔵、寅吉の三人が合流した場面を押さえた。私は捕霧七の隣で、その場面を見届けた。捕霧七が子分たちに声をかけると、二人の日本人はすぐに取り押さえられた。ロイドは驚いて逃げ去ったが、彼は外国人であるため、外国奉行を通じた別の手続きが必要だった。

「異人は放っておいてくれ」と捕霧七は子分たちに言った——原作の半七の言葉の響きで、江戸の岡っ引きらしい割り切り方だと、私はどこか感心した。

現場で押さえた蝋人形の首は、なるほど見事な出来栄えだった。私が手に取って確かめると、それは確かに蝋製で——血管のような細い線まで描き込まれ、毛髪が一本一本植え込まれていた。暗い部屋で突然目の前に置かれれば、誰でも本物と思い込んだだろう。

「マダム・タッソーの技術が、まさかこんな使われ方をするとは」と私は思わず英語でつぶやいた。

捕霧七はそれを聞いて、珍しく笑った。

「ロンドンで蝋人形と言えば、貴族や英雄の肖像だ。江戸では、詐欺の道具になる。文化の違いというものは、やはり面白い」


事件の後、私たちは横浜の港のそばに座って、沖を眺めた。

初夏の相模湾は、晴れ渡った空の下で輝いていた。外国船が数隻、帆を広げて水平線の向こうへ消えていくところだった。あの船はどこへ行くのだろう、と私は思った。ロンドンへ帰る船もあるかもしれない。

「捕霧七さん」と私は言った。「あなたは今、あの船が見えているか」

「見えている」

「ロンドンのことを、思い出さないか」

捕霧七はしばらく煙管を持ったまま、黙っていた。それからゆっくりと口を開いた。

「思い出す。テムズ河から霧が上がる朝のことを。ビッグ・ベンの音を。それから——ワトソン、君がバイオリンの音に眉をひそめる顔を」

「私はホームズのバイオリンが嫌いだったわけではない。ただ夜中の二時に弾かれると——」

「そうだな」捕霧七は微かに笑った。「こちらでは尺八(しゃくはち)を習おうとしたが、なかなか音が出ない」

私も笑った。

その笑いが消えたとき、捕霧七は静かに言った。

「三太、今回の事件で一番怖かったものが何か、わかるか」

「蝋の首ではないのか」

「違う。人間が、見たいものを見るという事実だ。攘夷家は外国人の首を見たかった。だから本物だと信じた。詐欺師はその欲望を利用した——欲望の形は変わっても、この仕組みはロンドンでも江戸でも同じだ」

沖の船が、水平線の向こうに消えた。

波の音だけが残った。


【結末:ロンドン時代】

目が覚めると、私は居間の床に倒れていた。

ホームズが窓を大きく開けていて、五月の夜風が薄い煙を外へ押し出していた。暖炉の火はすでに小さく、時計は深夜の二時を指していた。

「ワトソン」ホームズが私に手を差し伸べた。「カーテンの火は消えた。たいしたことはなかった」

「助かった」と私は言いながら立ち上がった。「しかしまた——」

「また、江戸の夢を見た」ホームズは静かに言った。「横浜だ。蝋人形を使った詐欺だった」

「私も同じ夢を見た」

二人は向かい合った。

ホームズは卓上の蝋の顔——実験途中のそれ——を手に取り、灯りにかざして見た。

「ワトソン、この蝋の顔が教えてくれたことがある」

「何だ」

「人は、証拠の質ではなく、証拠の文脈を信じる。外国人の首を見た攘夷家は、それが本物だと信じた。なぜなら——信じたかったからだ。真実を見るためには、自分が見たいものを一度脇に置かなければならない。それが——」

「探偵の仕事だ」と私は続けた。

「そうだ」ホームズは蝋の顔を静かに卓上に戻した。「自分の先入観を、誰よりも疑う仕事だ」

暖炉の火が、小さく揺れた。

ホームズはそれ以上何も言わず、バイオリンを手に取った。今夜は静かな曲だった——嵐の後の凪のように、穏やかで、どこか遠い場所を思わせる旋律だった。

私は肘掛け椅子に深く沈んで、目を閉じた。

横浜の波の音が、まだ耳の奥に残っていた。


本作は、アーサー・コナン・ドイル著『シャーロック・ホームズの冒険』および
岡本綺堂著『半七捕物帳』への敬意と感謝を込めて執筆しています。


著:コナン・綺堂異流(Conan Kidoyle)

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