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激変するインフルエンサービジネスの正体

ヒカキンがプロデュースしたカップ麺「みそきん」の販売数、累計2,000万食。平均単価300円で計算すると、売上規模は約60億円。セブン-イレブン限定販売という強力な流通網を背景に、発売初日から多くの店舗で即日完売。SNSでは「買えない」という報告があふれ、転売が横行した。

HIKAKIN、2000万食売れたカップ麺「みそきん」のリアル店舗を東京駅に開店|KAI-YOU

「インフルエンサービジネス」と聞いて、どんなイメージを抱くだろうか。

YouTubeでの広告収入? 企業案件? オンラインサロン? それとも、グッズ販売? たしかに、それらは「定番」だった。すでに過去形である。

なぜなら、インフルエンサービジネスは今、想像を超える速度で進化しているからだ。もはや単なる「影響力の活用」という枠組みを超え、巨大な産業へと変貌を遂げている。

ヒカキンの「みそきん」:物語の商品化

ヒカキンの「みそきん」は、単なる物販ではない。日清食品との共同開発という形で、製造・流通リスクを分散させながら、インフルエンサー自身がマーケティングの役割を担うP2C(Person to Consumer)モデルの成功例だ。

一般的なカップ麺ブランドの商標権ロイヤルティ率は、食品の平均で1.5%前後と言われる。しかしインフルエンサー自らが宣伝するP2Cビジネスでは、その価値を考慮して上乗せがあるだろう。ロイヤルティに加え、マーケティング報酬分を合わせると、推定で約4%前後。卸価格にこれを掛けると、ヒカキンの取り分は億円規模になる計算だ。

さらに驚くべきは、2025年8月にオープンした期間限定の実店舗。東京駅一番街の「東京ラーメンストリート」で完全予約制、1杯1,200円。店舗自体の収支はトントンでも構わない。なぜなら、その「ストーリー」がYouTube動画になり、ファンの熱量を高め、ブランド価値を押し上げるからだ。

これはビジネスモデルというより、もはや「物語の商品化」である。

世界一のYouTuberが生む巨大マネー

上には上がいる。世界一のチャンネル登録者数4億6000万人を誇るミスタービースト。彼が手がけるお菓子ブランド「Feastables(フィースタブルズ)」は、2024年に売上2億5,000万ドル(約370億円)を記録した。2025年の売上予想は5億ドル超、日本円で800億円近くになる見込みだという。

チョコレートで稼ぐミスタービースト、ユーチューバーが事業多角化|Bloomberg

創業わずか4年目。この急成長の背景にあるのは、発売初日から世界一の小売店「ウォルマート」に並ぶという破格の流通力。ヒカキンがセブン-イレブンと組むのと同じ構造だが、規模が桁違いだ。

しかも、ミスタービーストは「個人の銀行口座にはほとんどお金が残っていない」「実質的にはマイナスで、借金もしている」とインタビューで語っている。

本業のYouTubeはずっと赤字。数千万円、数億円規模の賞金をかけた動画、映画並みのセット、数百人規模のスタッフ。彼の動画は、もはや娯楽産業そのものである。

関わる事業会社全体の評価額は約50億ドル、7500億円規模。まさにアメリカンドリームの体現者だ。

インフルエンサービジネスの進化:1.0から3.0へ

インフルエンサービジネスを3つの世代に分けて考えてみよう。

1.0世代:サロン・物販・展示会

オンラインサロンは2010年代に登場し、月額課金のサブスクモデルとして定着した。たとえば、中田敦彦の「プログレス」は月額980円で約5,000人の会員を抱え、年商6,000万円規模。物販では、料理研究家リュウジの「良朝丸(よいちょまる)」のような、リピート購入を前提とした商品設計が特徴的だ。展示会ビジネスも、ラーメンYouTuber「SUSURU TV.」が主催する「SUSURUラーメンフェス」のように、毎年開催可能な形へと進化している。

2.0世代:コングロマリット化と仮想共同体

ここから様相が変わる。YouTuberヒカルは、アパレルブランド「ReZARD(リザード)」で1年目に年商25億円を達成。さらに食品、サプリメント、不動産と事業を拡大し、関連事業全体で年商150億円規模に達しているという。これはもはや「セレブリティ投資」の領域だ。

さらに興味深いのが、両学長の「リベシティ」。チャンネル登録者数635万人を背景に、互助会的なコミュニティを形成。2025年8月に開催された「リベ大お金の勉強フェス2025」には3日間でのべ44,000人が来場。税理士法人、司法書士法人、クリニック、不動産、引越、鍵修理、葬祭──リベシティが求人募集をかけている職種を見ると、もはや自治体レベルの規模を目指していることがわかる。仮想共同体の誕生である。

前澤友作の「カブ&ピース」も、独自のスキームを持つ。電気・ガス・通信などのサービスを利用すると未公開株がもらえる。株式付与は「非資金費用」なのでキャッシュアウトを伴わず、パートナー企業が提供するサービスを使うため設備投資も不要。アセットライトな構造だ。株主は82万人超。上場を目指すという。

3.0世代:フランチャイズビジネス

そして、現在進行形で起きているのが、フランチャイズビジネスへの移行だ。筋トレ系YouTuber山澤礼明が展開する24時間ジム「FIT PLACE 24」は、わずか3年で全国約120店舗。会員数20万人、グループ売上100億円を突破した。月額2,980円という低価格帯とハイスペックマシンを謳い、急拡大している。フランチャイズ加盟は法人限定、初期費用8,000万円。

ホリエモンこと堀江貴文がプロデュースするパン屋「小麦の奴隷」は、2020年創業で一時124店舗まで拡大したが、現在は56店舗と半分以下になったという。セントラルキッチン方式でパン生地を工場で製造し、店舗では解凍・発酵・焼成のみ。未経験者でもマニュアルでパンを作れる仕組みだ。フランチャイズ加盟の初期費用は推定で1,000万円から1,500万円。個人でも加盟可能。

影響力の進化、ビジネスモデルの変容

1.0世代は「個人のファンダム」をマネタイズする段階だった。サロン、物販、展示会──いずれも、熱心なファンとの直接的な関係性が前提となる。規模は数千万円から数億円。個人が管理できる範囲内である。

2.0世代は「影響力の資産化」へと進んだ。コングロマリット化、仮想共同体、金融スキーム。ここでは、インフルエンサー個人を超えた「組織」が形成される。パートナー企業との提携、自前の事業会社、互助会的なコミュニティ。規模は数十億円から百億円超。もはや一人では管理できない。

3.0世代は「フランチャイズ」という形態。ここで起きているのは、「影響力の複製」である。ブランドとノウハウをパッケージ化し、全国に展開する。初期投資とリスクを加盟店側が負担し、本部は継続的な収益を得られる。設備投資も、人材採用も、日々の運営リスクも、すべてオーナーが背負う。一方、本部はロイヤルティと原材料販売で、アセットライトに拡大できる。

つまり、影響力は「資本」になった。

そしてすべての資本には、リスクとリターンが存在する。問題は、誰がリスクを負い、誰がリターンを得るのか、という配分をめぐる争いである。

これは善悪の問題ではない。ビジネスモデルの進化なのだ。


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