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揺れる構図と流れる色彩。映画「4Kレストア版 恋する惑星」を見る(※ネタバレなし)。

もくじ

0.はじめに
1.ストーリー
2.感想
3.フェイ・ウォン
4.表現の未来

0.はじめに

日本初公開が1994年。その後2022年に4Kレストア版が公開される。2026年6月にNetflixで配信開始。やはりひとつの時代を画した映画だろう。長らく未見だった。

1.ストーリー

刑事223号は、別れた恋人が好きだったパイナップルの缶詰を買い続けていた。だが、彼女を忘れるため、バーの片隅で出会った金髪の女性に声をかけて一夜を過ごすことになる。その頃、刑事223号もよく立ち寄る小食店に新しい店員が入ってくる。新入りのフェイは、夜食を買いに来た警官663号に恋心を抱き、偶然手に入れた彼の家の鍵で部屋に忍び込み……。

(「WKW4K ウォン・カーウァイ4K 5作品」公式サイトより)

2.感想

異物感があって受け入れられなかったものも、時のフィルターが掛かると、素直に受け入れられることができる。

この映画がそうだ。初見でこの邦題だとちょっときつい。躊躇してしまう。
今でこそ評価の高い映画と知っているけれども。
 
原題が「重慶森林」。舞台となった香港のビル「重慶大厦」を意味している。
英題が“Chungking Express” 。これは登場するファーストフード店。
 
消極的にせよ拒んでいたものを受容するに至るプロセスにおいて、重要な役割を果たすものは何か。
 
社会か、映画そのものか、それとも自分か。最初熱狂的な少数者により受け入れられる作品が、時を経て社会に広く受容されて、一般的な人気を獲得する流れはよくある。量は質に転化する。
 
公式ホームページは、ストーリーをまとめている。だがそれは重要ではない。
揺れる構図、流れる色彩。
実際、映画が描くのは、凝った映像と気取ったセリフだったりする。
 
筋を追うよりも、場面場面が重要であって、そのときそのときの映像、音、そして躍動感を楽しむようにできている。
 
ふたつのエピソードがあり、オムニバス形式を採っている。
 
だが実質後半のエピソードが映画全体を貫き、その後半は、フェイ・ウォンが支えている。つまりこの映画全体は、フェイ・ウォンひとりの存在によって成り立っている。世界が亀によって支えられているように。

言わずもがなのことですが、私個人の感想です。

 3.フェイ・ウォン

というわけで、これはフェイ・ウォンの映画だ。もともとシンガーだった。ウォン・カーウァイは彼女の背中をそっと押した。すると彼女は、この時代を代表する世界的なアイコンになった。
 
ショートカットで、ボーイッシュで、長身で。作中で何度もリピートされる「夢のカリフォルニア」の音楽に合わせ、踊るというより、香港の九龍の、熟れた空気のなかをふらふらと漂っている。踊りにキレがないことがなにより魅力だ。
 
クルクルと変わる表情が瑞々しく、目が離せない。丸縁のサングラスから上目越しに覗き見る姿。虫眼鏡を手に髪の毛を調べる姿などなど。
なんともいえない。
 
どこをどう切り取っても絵になる。
演技なのか、素なのか。上手いのか、拙いのか。そこのところもよく判らない。
しかし、中毒性がある。公開時、夢中になるファンが続出したであろう。

誰かが言っていた。この映像を見た後ではもはや彼女の姿を想起せずに「夢のカリフォルニア」を聞くことはできない。
それまでの記憶を塗り替え、アップデートする破壊的な力を映画は有している。
 
 
4.表現の未来
やはりウォン・カーウァイの登場は、映画にとってエポックメーキングな事件のひとつだったのだろう。そう思う。
 
さて、あらたな表現が出尽くして、観客を驚かせるような作品は今後登場するか。
 
いやいや大丈夫。
新しいものは次々と既存のものになる。そして規範は破られるためにある。
 
我々観客のドキモを抜くような表現が現れる。
いやそれは既に、綿々と続いている。
 
それこそが映画を見る楽しみではないだろうか。

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