『プロジェクト・ヘイルメアリー』:ゼメキスの系譜に連なるSF映画の新たな到達点
宇宙で出会った、たったひとりの相棒

監督:フィル・ロード、クリストファー・ミラー 出演:ライアン・ゴズリング、ザンドラ・ヒュラー、ジェームズ・オルティス 2026年 アメリカ 156分
孤独と接触というSFの根源的なテーマ
宇宙を舞台にしたSF映画には、二つの系譜がある。宇宙の広大さの前に人間の孤独を際立たせる映画と、その孤独を埋めるための「接触」を描く映画だ。『プロジェクト・ヘイルメアリー』は明らかに後者に属する。そしてその系譜の頂点には、ロバート・ゼメキスの名前がある。
ゼメキスは1997年の『コンタクト』で、地球外知性体との交信という人類の夢を映画化した。ジョディ・フォスター演じる天文学者エリーは、亡き父の声を宇宙の彼方に求めながら、実際には本物の交信を果たす。父との別離と宇宙人との接触が重なり合うこの構造は、孤独な人間が「つながり」を求める普遍的な欲望を宇宙規模に拡大した。本作はその精神的な後継者だ。
ウィルソンとロッキー、孤独が生んだ相棒たち
ゼメキスの2000年の作品『キャスト・アウェイ』で、無人島に漂着したチャック(トム・ハンクス)は、流れ着いたバレーボールに顔を描いてウィルソンと名付け、話しかけ続ける。ウィルソンは一言も喋らない。それでも観客はウィルソンに感情移入し、彼が海に流されていく場面で涙を流す。
フィル・ロードとクリストファー・ミラーが『プロジェクト・ヘイルメアリー』に登場させたロッキーは、ウィルソンの宇宙版だ。ただし決定的な違いがある。ロッキーは喋る。40エリダニ星系から来た岩のような外見を持つ5本足の異星人は、グレイスと言語を作り上げ、互いの文明を交換し、共に問題を解決していく。ウィルソンが人間の孤独の投影だったとすれば、ロッキーは本物の他者だ。
言語の発明という奇跡
グレイス(ライアン・ゴズリング)とロッキーが交信を確立していく過程が、本作の核心だ。数学、物理法則、音楽的な音調。共通の言語を持たない二つの知性体が、宇宙の普遍的な法則を足がかりに少しずつ言葉を作っていく。
この場面に宿る感動は、『コンタクト』でエリーが初めて宇宙人の信号を受信した瞬間の興奮と本質的に同じものだ。人間が一人ではないことの発見。それがゼメキスにとっては地球外知性体との交信であり、本作では宇宙船内での孤独な科学者と異星人の間の言語の創造として描かれる。
ゴズリングという2.5枚目の宇宙飛行士
ライアン・ゴズリングは、どこかダメで情けない2.5枚目をやらせたら現在のハリウッドで最も上手い俳優だ。グレイスもその系譜にある。英雄的な宇宙飛行士像とは程遠い。記憶を失ったまま宇宙船で目覚め、困惑し、独り言を言い、失敗を重ねながら、それでも科学の力で生き延びようとする。
チャックが無人島でウィルソンに話しかけ続けたように、グレイスはロッキーとの対話の中で少しずつ自分を取り戻していく。『コンタクト』のエリーが父の声を求めながら宇宙人と交信したように、グレイスもまた地球と自分の過去を失いながらロッキーとの友情を得ていく。
ザンドラ・ヒュラーとロマンスが発展しない潔さ
地球パートを担うのがザンドラ・ヒュラー演じるエヴァ・ストラットだ。プロジェクト・ヘイルメアリーの責任者として、グレイスを半ば強制的に宇宙船に乗せる。冷徹で合理的な彼女とグレイスの間にはロマンスへの予感もある。しかし映画はその方向に進まない。
グレイスの本当の相棒はロッキーだ。人間と人間ではなく、人間と異星人の間にこそ、この映画の核心的な絆がある。それはウィルソンが人間ではないからこそチャックの孤独を救えたことと、構造的に同じだ。
ゼメキスが残した宿題への回答
ゼメキスが『コンタクト』と『キャスト・アウェイ』で提示した問いは、結局ひとつだった。宇宙の広大さの中で、人間はひとりなのか、という問いだ。『コンタクト』はその答えをNOと示し、『キャスト・アウェイ』はたとえ孤独でも人間は誰かを必要とする生き物だと示した。
フィル・ロードとクリストファー・ミラーはその問いに2026年版の答えを用意した。相手が人間である必要はない。言葉が最初から通じる必要もない。ゼロから言語を作り上げ、互いの文明を交換し、共に死地に向かう。それだけで十分だ。
ロッキーはウィルソンの進化形であり、ゼメキスが残した宿題への回答だ。
