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オーディオテクニカAT-OC9XML——無垢マイクロリニア針が溝から拾い上げるもの【連載:音響遍歴Vol.18】

オーディオは、始めた瞬間から”沼”になる──
Vol.17でフォノイコライザーをiFi audio ZEN Phono 3に換装してから、システムとしての骨格はほぼ整った感覚がありました。プリアンプにONKYO P-308、パワーアンプにYAMAHA PD2500、そしてスピーカーは3本並列という、いまや我が家の”祭壇”と化したラックに機材が揃ってきました。
それでも、どこか引っかかりがありました。フォノイコをステップアップしたことで音場の精度は上がった。でも、その恩恵を受け取る側——つまりカートリッジが、まだ旧世代のままだったのです。
今回、ついにMCカートリッジへ踏み出しました。選んだのは、Audio-Technica(オーディオテクニカ)の AT-OC9XML です。

※この記事はAmazonアソシエイト・プログラムを利用しています。


MMとMC、何がどう違うのか

カートリッジの話をするとき、避けては通れないのがMM型MC型の違いです。この連載を読んでいる方の中には「名前は知っているけど何が違うの?」という方もいると思うので、ここで少し整理しておきたいと思います。
どちらも「レコードの溝の振動を電気信号に変換する」という役割は同じです。違うのは、その変換の仕組みです。
**MM型(ムービングマグネット)**は、カンチレバー(振動を伝える棒)の根本に磁石が付いていて、それがコイルの近くで動くことで電気を起こします。磁石が動くので比較的出力電圧が高く、フォノイコライザーも汎用品で対応できます。針交換が自分でできるのも大きなメリットです。
**MC型(ムービングコイル)**は逆に、カンチレバーにコイルを巻いて、固定された磁石の中でコイルが動きます。コイルは非常に小さくて軽いため、レコード溝のわずかな変化にも素早く追従できます。その代わり出力電圧が低く(AT-OC9XMLは0.4mV)、対応したフォノイコライザーが必要になります。
重量の差が、応答速度の差になる。これがMM型とMC型の本質的な違いです。


AT-OC9XML——30年以上続くOC9シリーズの現行ミドルクラスモデル

ネイビーの化粧箱に金箔押しのロゴ。MADE IN JAPANの文字が、開封前からただならぬ気配を漂わせます。

AT-OC9シリーズは、オーディオテクニカが30年以上にわたって作り続けてきた看板MCカートリッジの系譜です。2019年に発売されたAT-OC9XMLは、その中でもボロンカンチレバー無垢マイクロリニア針を組み合わせたミドルクラスの位置づけです。
最大の特徴は無垢マイクロリニア針にあります。
「無垢」というのは、針先がダイヤモンドの削り出し一体成形であることを意味します。接合針(ダイヤモンドチップを別材料の軸に貼り合わせたもの)と違い、質量がさらに小さく、レコード溝への追従性が高くなります。
そして「マイクロリニア」という形状が、また面白いのです。先端を長円に研磨し(先端曲率半径2.2×0.12mil)、レコード溝に沿って縦方向に接触面積を確保しながら、横方向の幅を極限まで細くしています。これにより、通常の楕円針では読み取れなかった高周波成分——つまり録音当時の空気感や、余韻の細部まで——を引き出せるようになります。
カンチレバーにはφ0.28mmのソリッドボロンを採用しています。ボロンは非常に剛性が高く、信号をロスなくコイルへ伝えます。再生周波数は20〜47,000Hzと、可聴域を大きく超えた超高域まで対応しています。
磁気回路にはネオジウムマグネットとパーメンジュールヨークの組み合わせ。コイルにはPCOCC(単結晶状高純度無酸素銅)を採用し、純度の高い信号伝達を実現しています。


ZEN Phono 3との接続——MC-LOW・100Ωで試す

箱を開けると、黒いフォームにぴったりと収まったAT-OC9XML。この小ささで、あの音を出す

我が家のフォノイコライザーはiFi audio ZEN Phono 3です。MM/MC両対応で、ゲインやインピーダンスを細かく設定できます。
AT-OC9XMLの出力電圧は0.4mV。これはMCカートリッジの中でも標準的な数値で、高出力MC(1mV以上)ではなく、いわゆるローゲイン域の範疇に入ります。ZEN Phono 3の設定はMC-LOW・負荷抵抗100Ωで対応しました。
推奨負荷抵抗は「100Ω以上」とされており、100Ωというのはいわばミニマムの値です。この設定で音のクセをまず確認し、必要であれば上げていくという順番でいくことにしました。


実際に針を落としてみて

山本音響工芸 HS-2に装着したAT-OC9XML。ワインレッドのボディと木製シェルの組み合わせは、見た目にも美しい。黄色いレコードとの対比が、さらに映えます。

接続を終え、Pioneer PL-1200のトーンアームにカートリッジをセットし、針圧を2.0gに設定しました。最初の一枚は、このシステムで何度も聴いてきた慣れ親しんだレコードを選びました。
針が溝に落ちた瞬間から、気づきました。正確には「違和感」ではありません。今まで聴こえていなかったものが聴こえ出したという感覚です。
ボーカルのブレスが細かく聴こえます。スネアの打面が鳴り終わったあと、空気の中でじわっと消えていく余韻がそこにあります。それらは以前もそこにあったはずなのに、私の耳にまで届いていなかったのです。
MM型のNAGAOKA MP-100も決して悪いカートリッジではありませんでした。むしろ、このシステムで長らく主力を張ってきた立派な一本です。ただ、それまでのアナログ再生はデジタル音源と比べたとき「ちょっと音がいい」「ぼんやりと音場が広がった気がする」という、やや曖昧な差として体感していました。
AT-OC9XMLに換えた瞬間、その感覚が一変しました。音の空間が、ハッキリとした輪郭を持って広がるのです。「気がする」ではなく、「確かにそこにある」という確信の空間。左右の定位が像を結ぶ、という感覚がこういうことなのかと、初めて実感を持って理解できました。


MCカートリッジは、フォノイコとセットで育つ

ひとつ付け加えておきたいことがあります。AT-OC9XMLの性能を引き出せたのは、Vol.17でZEN Phono 3に換装していたからこそだ、という点です。
MC対応のフォノイコライザーなしには、このカートリッジは正しく動きません。さらに言えば、ゲイン設定やインピーダンス整合が適切でなければ、性能の半分も引き出せないでしょう。
機材はつながって初めて、本来の音を出す。
このシステムを組み始めた頃には想像もしていなかった景色が、いま確かに見えています。70年代製のターンテーブルと、進化設計のMCカートリッジが同じアームの上に乗っている。この組み合わせの奇妙さと面白さは、アナログ沼の醍醐味そのものだと思っています。


▶︎次回予告
次回は、据置DACについて書いていきたいと思います。

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