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なぜ研修の効果は続かないのか?「組織で支援を定着させる」仕組み。実装の科学と実践

最終更新:2026年1月 

 「理論は大事だけど、文字だけだと難しそう……」そんな声にお応えして、今回の記事は大幅にリニューアルしました!海外の知見(Active Implementation Frameworks)をベースに、現場ですぐに活かせるポイントを「図解・イラスト」付きで徹底解説。さらに、前回よりも内容をボリュームアップし、より具体的で実践的な「現場の悩み」に寄り添った内容に生まれ変わりました。「システムで支える」とはどういうことか? 目で見て直感的に理解できる構成になっていますので、ぜひ最後まで楽しんでご覧ください。

 皆様、日々の支援、本当にお疲れ様です。Collaborate LABとして、自閉症支援にエビデンスのある手法をどう普及させるか、日々悩みながら発信を続けています。前回は「自閉症支援の現場で人材育成・マネジメントを考える」という記事を書きました。

 その中で出てきたキーワードがいくつかあったと思いますが実装を進めて行くための要素をまた色々と考えてみたいと思います。「研修で良い方法を学んできた! さあやるぞ!」と意気込んで現場に持ち帰っても、1ヶ月もすれば元のやり方に戻っている……。あるいは、熱心な職員だけが頑張って、温度差が生まれてしまう……。

 「なぜ、伝わらないんだろう?」
 「やっぱり、現場が忙しすぎるから無理なのかな?」

 私自身、現場でリーダーをする中で、そんな壁に何度もぶつかってきました。「個人のやる気」や「センス」の問題にして片付けてしまいそうになることもありました。でも、本当にそうなのでしょうか?その答えを探すために、私は今、海外の論文や「実装科学(Implementation Science)」という分野の知見を読み漁っています。
 そこで分かってきたのは、うまくいかないのは「人のせい」ではなく、「組織の仕組み(ドライバー)のボタンを押し忘れているだけ」かもしれない、ということでした。今回の記事は、前回書いた「自閉症支援の現場で人材育成・マネジメントを考える」の続編であり、さらに深掘りした内容になります。海外の文献(Active Implementation Frameworksなど)を参考にしつつ、「じゃあ、日本の福祉現場(人手不足・多忙・文化の違い)ではどうすればいいの?」という視点で、私なりの解釈と、現場での試行錯誤をたっぷりと詰め込みました。この記事で一緒に考えたいこと単なる翻訳ではなく、私が現場で汗をかきながら「こうじゃないか、ああじゃないか」と考えた実践ノートのような内容です。具体的には、以下のような悩みを持つ方にとって、何かしらのヒントになるように構成しました。

・個人のスキルアップだけでなくチーム全体の底上げをしたい方
・「リーダーシップ」と言われても具体的にどう動けばいいか迷っている
・研修制度やコーチングを導入したいが現場の抵抗感が怖い

 大変恐縮ではございますが、このnoteは「未完成」とも言えます。皆さんからの「うちの現場ではこうだったよ」「ここは難しいね」といったコメントやご助言をいただくことで、より洗練された知見に育てていきたいと思っています。ぜひ、読みながら感じたことをコメントや質問、シェアで教えていただけると嬉しいです。皆様からのリアクションが、次の学びへの一番の励みになります。それでは、組織で支援を「促進(Drive)」するための旅へ、一緒に出かけましょう。実装された多くのプログラムや実践に存在する共通の特徴を模索しながら私の考えも交えながら記事にしたのでどうぞお付き合いください。今回は12315文字でした。

※本記事は、筆者が個人的に以下の内容を参考にし、自身のために支援現場での経験と照らし合わせて解釈・考察した「レポート」です。内容の正確性には努めていますが、公式な翻訳や学会の公式見解ではありません。講演者の意図を正確に把握したい場合は、必ず以下にリンクした一次情報の動画・資料をご確認ください。また、本記事における意見や解釈は筆者に帰属します。

https://implementation.fpg.unc.edu/wp-content/uploads/Active-Implementation-Overview-M1.pdf


1.「個人の頑張り」を超えて、「現場で支援を促進する」を考える

 今回は、現場で支援を促進することについて、少し視点を広げて考えてみたいと思います。これまで私は、「良い支援」を届けるためには、私自身やスタッフ一人ひとりがスキルアップし、専門性を高めることが全てだと思っていました。皆さんも、そう感じて必死に研修を受けたり、本を読んだりしているのではないでしょうか?
 でも、ある時ふと気づくのです。「個人のスキルは上がっているはずなのに、なぜか組織全体としては支援が定着しない」「新しいやり方を導入しても、いつの間にか元のやり方に戻っている」と。今回、海外の論文や文献を読み込み、学びを深める中で、ある重要な視点に出会いました。それは、支援の促進は「個人の根性」ではなく、「組織の構造」で支える必要があるということです。

なぜ、私たちの現場は「息切れ」してしまうのか?
 
現場でのサポートは、特定のチームや事業所、法人レベル全体で取り組んでいく必要があります。どんなに素晴らしいEBP(根拠のある実践)やプログラムであっても、それを現場に落とし込むためには、力強くもあり寄り添える親切なリーダーシップと、それを支える組織構造がなければ、持続・維持していくことはできません。ここで言う「組織構造」とは、ただの組織図の話ではありません。
 例えば、適切な賃金体系や、明確な役割整理などが含まれます。正直なところ、日本の福祉現場において「賃金を上げる」「人を増やす」というのは、制度上の限界もあり、すぐに解決できる課題ではないかもしれません。私自身、現場で働きながら「理想と現実」の狭間で悩むことがよくあります。しかし、もし熟練した支援者を育て、長く活躍してもらうための「役割の整理」ができていなければ、現場は疲弊し、せっかく導入したEBPも行き詰まってしまいます。

全てはつながっている(相互作用)
 
こうやって考えると、現場の様々な要素がとても相互に関わり合っていて、関連していることが分かります。これを学んだ時、私は「あぁ、全てを一人の責任で背負わなくていいんだ」と少し肩の荷が下りる感覚がありました。なぜなら、全てのある1つの要素(例えばマンパワー)が不足していても、別の要素(例えば業務の整理やツールの活用)を使用することで補うことができると考えられるからです。
 例えば、人材の確保や育成が今の時点では難しかったとしても、業務の整理や役割分担を明確にすることで、現場の負担を減らし、効果的な支援の維持や継続を補えるかもしれません。「人がいないから無理」と諦める前に、組織としてパズルを組み替えることで、できることはまだあるはずです。
 様々な状況の判断は、現場の個人の中でできることには限りがあります。だからこそ、組織全体での判断が必要なことも多いと思うのです。

「個人のスキル」と「組織のアプローチ」を使い分ける
 
こういったたくさんの要素がある中で実践しながら、評価し、改善していくと成果に結びついていくサイクルは、どんな要素のプロセスと方法であっても変わらないと考えます。つまり、全てが関連づいている中でも、要素に向けた成果を一つ一つ細分化して、改善をすることになります。私が今回の学びを通じて整理できたのは、以下の2つのアプローチの違いです。

・個人の技術的アプローチ:実際のEBPを実施したり、プログラムを実行したりすること。
組織的なアプローチ: 現場の支援員が新しいプログラムやEBPに適応できるようにサポートし、障壁となることを取り除いていくこと。

 とても当たり前のようではありますが、私も含めて周囲の方々とお話をしていると、こういった内容が「なんとなく」の大枠で捉えられてしまっていることが多いように感じます。その結果、優先順位を適切に選択できなかったり、効果が見えないまま焦って取り組んでしまったり、職員の役割が定まらない状態になってしまったり……。そうして、組織としてうまくいかない状況から抜け出せないサイクル(悪循環)に陥っているのではないか?と感じることが多くありました。では、具体的にどうすれば「組織的なアプローチ」を現場に実装できるのでしょうか?ここからは、私が学んだ具体的なフレームワークを基に、日本の現場でも活用できそうなポイントを、私の考察も交えて深掘りしていきたいと思います。

2.支援を促進するための「司令塔」とは?

 現場で支援を促進させていく作業全般の基礎となるのは、やはりリーダーシップです。ただ、「リーダーシップ」や「司令塔」という言葉を聞くと、皆さんはどんな人をイメージしますか? 先頭に立って旗を振り、強いカリスマ性でみんなを引っ張っていく……そんな姿を思い浮かべるかもしれません。正直に言うと、私自身もかつては「自分が強くならなきゃ」「全部正解を出さなきゃ」と思っていました。でも、今回の学びを通じて、そのイメージが良い意味で崩れました。
  ここで言う司令塔(リーダーシップ)とは、「特定のカリスマ」のことではなく、「チームが動き続けるための機能」のことです。司令塔は変更を管理して取り組んでいる内容やプロセスを的確に促進させるだけでなく、チーム全体や支援者個人をサポートし、実装の障壁を取り除くためにシステムのどの段階でも必要になります。つまり、「オレについてこい!」と言う人よりも、「みんなが走りやすいように道路の石をどける人」こそが、実装科学におけるリーダーシップなのかもしれません。

現場に求められる「親切な」リーダーシップ
 
効果的なリーダーシップについては世の中に数多くの書籍が書かれていて、熱量の高いリーダーシップの重要性についてはよく知られていると思います。では、これを私たちの現場レベル(自閉症支援や福祉の現場)に落とし込むと、具体的にどんな動きになるのでしょうか? 私なりに整理してみました。

  1. モデル化(やってみせる):
    口だけで指示するのではなく、新しい支援ツールや関わり方を、まずリーダー自身が楽しそうに使ってみせること。「あ、これなら自分にもできそう」と周囲に思ってもらう能力です。

  2. 状況把握と素早い対応:
    チームの状況や実践状況を把握し、評価・分析を行い、効果的な方向へ促進させるために継続的に改善していくこと。私としては特に「素早い対応」が重要だと感じています。現場の「困った」を放置すると、それはすぐに「不満」や「諦め」に変わってしまうからです。

  3. 関係者との調整(信頼構築):
    利用者さん、ご家族はもちろん、同僚や他職種との「通訳」になることです。積極的な関与を行い、様々な違いに対処、調整して信頼を構築します。日本の現場で言うところの「根回し」や「心理的安全性づくり」も、立派なリーダーシップスキルと言えるでしょう。

 組織的な観点から見ると、リーダーの権限や役割も重要になってくると考えました。組織の役割を整理することでリーダーシップを発揮し、現場の職員への行動により良い成果を出すための影響を与えていきます。具体的には、チームがデータを取得し、そのデータを基に実装に向けた意思決定や判断をスムーズに行えるよう仕組みを構築していくことです。「なんとなく」で決めるのではなく、「データ(事実)がこうだから、次はこうしよう」と言えるチームを作る。これもリーダーの大事な仕事です。

「技術」で解くか、「適応」で解くか
 また、学びを進める中で非常に面白かった(そして耳が痛かった)のが、リーダーには2つのアプローチが必要だという点です。司令塔の役割は、実装が進むにつれて変化する必要があります。

① 技術的なリーダーシップ:
 マニュアルを整備したり、シフトを調整したり、手順を明確にしたりするアプローチです。これは、長期にわたって効果的なプログラムを実現するための管理に役立ちます。

② 適応的なリーダーシップ:
 状況や環境に対して適応する能力が高いスタイルです。例えば、新しい支援を入れることに対する「職員の不安」や「変化への抵抗感」に寄り添い、組織の文化そのものを少しずつ変えていくようなアプローチです。社会的、経済的な変化の中で重要な役割を持ちます。

 私はよく、この2つをごっちゃにして失敗していました。本当はスタッフが「不安(適応的課題)」を感じているのに、ひたすら「マニュアル(技術的解決)」を渡してしまったり……。これでは現場は動きませんよね。個人のスキルに焦点を当てたものと、組織の文化や感情に焦点を当てたもの。それぞれの種類のリーダーシップを使い分けるイメージでしょうか。
 もちろん、これらをたった一人で完璧にこなすのは不可能です(そんなスーパーマンはいません!)。同じ人が両方の種類のリーダーシップを提供することもありますが、組織内でリーダーシップの責任をより広く分散させている場合もあるかもしれません。「ここはあの人が得意だから任せよう」と役割分担することもまた、優れたリーダーシップの一つなのだと学びました。

 さぁここまで、現場を変えるための「マインドセット」と、私たちリーダーが果たすべき「司令塔としての役割」についてお話ししてきました。「技術的な課題」と「適応的な課題」を使い分けること。これだけでも、現場の見え方が少し変わってくるのではないでしょうか。
 しかし、ここからが本番です。どれだけリーダーが良いマインドを持っていても、実際に利用者に支援を届けるのは「現場のスタッフ」たちです。そして、そのスタッフが動ける「環境」がなければ、絵に描いた餅で終わってしまいます。続きの有料エリアでは、いよいよ「じゃあ、具体的にどう動くのか?」という実践編に入ります。海外の理論をそのままなぞるのではなく、「人手不足で、忙しくて、変化が苦手な日本の現場」で、私がどうやってこの理論を使おうとしているのか。泥臭い失敗談や工夫を交えて、以下の内容を深掘りしていきます。

【この先の有料エリアで書いていること】

・人が選べない時代の「採用と配置」の工夫
(応募が来ない中で、どうやって「Selection」のドライバーを機能させるか?)
「茶番」にならないロールプレイの導入法
(スタッフが恥ずかしがらずに練習できる空気の作り方)
監視にならない「コーチング」の技術
(私がスタッフを萎縮させてしまった失敗と、そこからの改善策)
「感覚」ではなく「事実」で話すためのデータ活用
(高価なソフトを使わず、紙とペンで始めるシステム作り)
スタッフの「めんどくさい」を取り除く環境調整

 「理論は分かったけど、明日から何を使用か?」と迷っている方にとって、具体的なヒントとなる「現場のノート」をシェアします。研修に参加するつもりで、ぜひご購入して頂き、一緒に「現場の実装」を深めていただければ嬉しいです。

3.支援員のスキルアップとその維持:現場に適応させるために

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