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「特にお変わりありません」を本当に信じられますか?

 自閉症支援の現場に長年身を置いていると、周囲の方々からいただく報告の中に、ふと立ち止まって考えさせられる言葉があります。それは、日々のやり取りの中に交わされる、ごくありふれた言葉から始まることが多いです。「昨晩の〇〇さんのご様子はいかがでしたか?」それは引き継ぎを受けた際に、お声がけします。すると、多くの場合、穏やかな笑顔と共に、こんな言葉が返ってきます。


「特にありませんよ」
「いつもと変わりなく、元気に過ごしていました」
「おかげさまで、とても落ち着いています」

 この言葉を聞くたびに、私はまず、心からの安堵を覚えます。ご本人が穏やかな時間を過ごされたこと、そして何よりも、日々ご本人に寄り添い、その生活を支えてくださっているご家族や関係者の皆様の存在に、頭が下がる思いでいっぱいになります。皆様の日々の献身がなければ、私たちの支援は決して成り立ちません。
 しかし同時に、長年の経験が私の心にもう一つのささやきを投げかけます。「その『変わりない』という言葉の背景には、どんな物語が隠れているのだろう?」と。なぜなら、事業所にいらっしゃったご本人の様子は、その報告とは裏腹に、全く「変わりなく」はないケースが少なくないからです。いつもより少しだけ硬い表情、何度も同じ手順を確認する仕草、そわそわと揺れる視線、あるいは、カバンの中にそっと忍ばされた、見慣れない物品。。。それらは、言葉にならないご本人の心の声、微細な「変化」のサインです。ご家族や関係者の皆様が決して嘘をついているわけでも、ご本人のことを見ていないわけでもないことは、痛いほど分かっています。
ただこの、報告される言葉と、私たちの目の前に広がる現実との間に生じる小さなギャップ。私は、このギャップこそが、支援の質をもう一段階、深く温かいものへと引き上げるための、大切な鍵を握っているのではないかと感じているのです。
 今回は、そんな体験の記事をどのようにしたらいいかなぁと考えながら書いてみます。もちろん私に足りない部分もあるだろうし、私にも疑問を思っている方もいると思います。それを見直し、立ち止まって考える意味でも作成してみたいと思いました。まとまっていないかもしれませんが(笑)ぜひご覧ください。今回は5672文字で作成しています。

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それぞれの「大切」が紡ぐ、優しいすれ違い

 私としては、このギャップが生まれる背景に、それぞれの立場から見た「現実」と、大切にしている「視点」の違いがあるように思います。
 ご家族や、日々生活を共にするグループホームの職員の方々にとって、「変わりない」「落ち着いている」という言葉は、何よりも尊い「平穏」の証なのだと感じます。大きなパニックや、誰かを傷つけたりご自身が傷ついたりするような行動がなく、食事をとり、眠り、日常の営みが滞りなく流れていくこと。それは、一日一日を大切に積み重ねてこられた皆様にとって、心から安堵できる、かけがえのない時間のはずです。その穏やかな日常を守ることこそが、最大の願いであり、その視点から見れば、多少のそわそわやこだわりの変化は、「変わりない」日常の範囲内にある、自然な揺らぎなのかもしれません。
 一方で、私たち専門家は、どうしても少し違うレンズでご本人の姿を見てしまう癖があります。(私みたいなマニアな支援者だけかもしれませんが…(笑))現在の自閉症支援の考え方の根底には、「予防的な視点」というものがあります。目に見える行動は氷山の一角であり、その水面下にあるご本人の不安や混乱、認知の特性からくる疲れなどに、いかに早く気づき、環境を調整し、安心できる情報を届けられるか。あるいはそれらを訴えられるコミュニケーション支援。それが、ご本人が自分らしく、穏やかに過ごせる未来を守るための「砦」になると信じているからです。
 だからこそ、私たちは、焦ったような表情の裏にある「見通しの立たない不安」を想像し、増えた持ち物から「安心を求める心の動き」を読み取ろうとします。この小さな変化の芽が、やがて大きな混乱、いわゆる強度行動障害へとつながってしまう可能性を、これまでの経験から知っているからです。
 これは、どちらの視点が正しいという話では、決してありません。どちらも、ご本人を想う心から生まれた、等しく「大切」な視点です。ただ、この二つの温かい視点が、時に言葉の綾で少しだけすれ違ってしまう。そのもどかしさを、現場にいる多くの支援者が感じているのではないでしょうか。


心の奥の声を適切に聞くために

 ついつい「もっと詳しく教えてください。何か変化があったはずです」と、私たちが専門家の視点を一方的に押し付けてしまえば、どうなるでしょう。おそらく、ご家族や関係者の方々は、「私たちのやり方を信頼してくれていないのだろうか」「そんなに細かいことまで報告しなければいけないのか」と、心を閉ざしてしまうかもしれません。そうなれば、支援の輪を支える最も大切な信頼関係に、静かな亀裂が入りかねません。それは、私たちが最も避けたいことです。
 ご本人への支援と同じくらい、あるいはそれ以上に、ご家族や関係者の皆様との関係性を育むことは、繊細で、温かい配慮が求められる「対人支援」そのものです。そこで私は近年、一方的に情報を「聞き出す」のではなく、自然な会話の中で、お互いの理解が深まるようなコミュニケーションのあり方を、試行錯誤しながら模索しています。今日は、その中で感じた、いくつかのささやかな工夫についてお話しさせていただければと思います。これが唯一の正解というわけではなく、「こんな方法もあるんだな」と、何かのヒントになれば幸いです。
 以前の私は、連絡帳の連絡欄に「昨日のご様子はいかがでしたか?」と、漠然とした質問を書いていました。すると、やはり「変わりなく過ごしました」というお返事が多く返ってきます。そこで、ある時から質問の仕方を変えてみることにしたのです。

「昨日、〇〇さんが一番リラックスしているように見えたのは、どんな時でしたか?」
「いつもの日課で、ご一緒していた時間が一番多かったときはどんな時間でしたか?」

 このように、少しだけポジティブだったり、具体的な場面を想像しやすかったりする質問を投げかけてみたのです。すると、少しずつですが、返ってくる言葉の色合いが変わってきました。「お風呂上がりに、好きなアニメのDVDを見ている時は、本当にいい顔をしていましたよ」「夕食のハンバーグがよほど嬉しかったのか、何度もハンバーグと言っていました」など、エピソードが語られたり、書いて下さったりするようになってきました。もちろん忘れてはいけないのは私たちが伝える内容も同じように具体的に何があったかどんな様子だったかを同じように伝えていきます。
 このようなやり取りを通して、ご家族も改めてご本人の素敵な瞬間に目を向けるきっかけになったり、私たちもご本人の「好き」や「安心」の源泉を知ることができたりと、コミュニケーションが双方向になっていくのを感じました。
 また、言葉だけでは伝わりにくいニュアンスを補うために、写真の力を借りてみるのも、とても素敵な方法だと感じています。もちろん、プライバシーには最大限配慮した上での試みですが、ご家族とご本人の許可を得て、事業所でリラックスして課題に取り組むご本人の写真を連絡帳に貼ってお返しすると、次の日、「家では見せないような、集中した顔をしていますね!」と、会話が弾むことがあります。逆に、ご家庭で大切にされているおもちゃや、新しくできたお気に入りの場所の写真を共有していただくだけで、私たちはご本人の世界をより深く理解することができます。一枚の写真が、百の言葉以上に、私たちの心をつないでくれることもあるのです。


温かい文化の中で、支援の輪を紡いでいく

 こうした一つひとつの試みは、特別なスキルというよりも、関わる人みんなで作り上げていく「文化」に近いものなのかもしれません。一人のファインプレーに頼るのではなく、入ったばかりの新人職員さんでも、ごく自然にご家族と温かいやり取りができる。そんな場所をどうやって作っていけるだろう、と最近よく考えます。
 それは、職員同士の何気ない会話から始まるかもしれません。例えば、朝のミーティングで「昨日の支援で、何かありましたか?」と聞く代わりに、「昨日、〇〇さんがリラックスしていた場面はありましたか?」という問いかけにしてみる。それだけで、私たちは具体的に報告するポジションに目を向けることができます。そんな風にして、やりとりのスキルアップや必要な情報をもらうための方略を身に着けることが必要かもしれません。
ポジティブな情報を共有する楽しさを職員自身が知っていれば、ご家族にも自然と同じような問いかけができるようになるのではないでしょうか。
 一人のベテラン職員の勘や経験に頼るのではなく、チーム全体で、ご家族や関係者の皆様に敬意と感謝を持ち、対等なパートナーとして手を取り合っていく。その温かい関係性の中でこそ、人は安心して心を開き、言葉の裏にある本当の想いを伝えてくれるのではないでしょうか。

この物語を、明日につなげるために

 ここまで長い文章にお付き合いいただき、ありがとうございました。「特にお変わりありません」という短い言葉から始まった考察はいかがでしたでしょうか。もし、この文章を読んでくださったあなたが、明日から何か一つ、試してみようかなと思ってくださったなら、嬉しいです。
 明日、連絡帳を書く時に、いつもの質問に加えて、こんな一文を添えてみるのはどうでしょう。「今日、〇〇さんが楽しそうにされていた瞬間を、教えてください」。
 そして、ご家族や関係者の皆さんへ。もし、心の余裕がある時で構いません。事業所に何かを伝える時、困っていることや心配なことだけでなく、家やGHでの本当にささやかな「嬉しかったこと」を、ほんの一言、伝えてみていただけないでしょうか。「昨日、テレビを見て大笑いしていましたよ」「散歩の途中で、きれいな花をじっと見ていました」。その何気ない一場面が、私たち支援者にとっては、何より支援の方法を広げるの励みになると思います。

温かい対話の、その先へ

 今回ご紹介した「質問を変える」「写真を活用する」といったコミュニケーションの工夫は、ご家族や関係者の皆様との信頼の輪を紡ぎ、ご本人の穏やかな日常を知るための、本当に大切な第一歩です。

しかし、もし私たちが専門家として捉えた「微細な変化のサイン」が、より大きな混乱や強度行動障害の“前触れ”だとしたら、どうでしょうか?

 温かいコミュニケーションで関係を築いた上で、私たちは次のステップに進む必要があります。それは、そのサインの裏にあるご本人の「本当の困りごと」を科学的にアセスメントし、具体的な支援に繋げる専門的な技術です。

  • 「いつもと違う行動」の背景にある本当の理由を、どうやって科学的に分析しますか?
    → 氷山モデルやABC分析を用いた具体的なアセスメント方法を、こちらの記事で徹底解説しています。

  • チーム全体で「微細なサイン」に気づき、支援の質を安定させるには、どうすればいいですか?
    → 勘や経験だけに頼らない。「科学的コーチング」を用いて、チームの観察眼と実践力を高める具体的な方法がここにあります。

  • そもそも、なぜご本人は「変わりない」ように振る舞ってしまうのでしょうか?
    → その心の内に迫る「カモフラージュ」という概念を知ることで、あなたの支援の視点は根底から変わるかもしれません。

優しい眼差しと、科学的な視点。この両輪が揃った時、私たちの支援は本当の意味でご本人の未来を守る力になります。

最後に、この文章を書き終えてみて

 この文章を書きながら、実は私自身が、これまでの道のりを振り返り、多くのことに改めて気づかされていました。支援の仕事を始めたばかりの頃の私は、もっと肩の力が抜けていたように思います。それが学びを深め、支援を進めて行くとともに専門家として、「正しい情報」を「聞き出さなければならない」と、どこか気負っていました。「変わりありません」という言葉を聞くと、「いや、そんなはずはない。何か見落としているに違いない」と、少しだけ焦りや、もどかしさを感じていたのです。
 しかし、たくさんのご本人、そしてご家族と出会い、時を重ねる中で、色んな経験をして、「ご本人を中心に考える」ときには、そこに向かう色んな方法があることを知りました。この心境の変化こそが、この仕事を通していただいた、私にとっての何よりの宝物なのかもしれません。
 これからも、この尽きることのない問いを、皆さんと一緒に考え、学び続けていきたいと思います。この長い道のりを、共に歩んでくださるすべての仲間たちに、心からの感謝を込めて。
 皆様の「スキ」や「フォロー」、SNSでの「シェア」が励みになります。よろしければ、関係者の方にもご紹介いただければ嬉しいです。よろしくお願いいたします。

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