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自閉症と「老い」について、英国の最新研究から私たちが学べること

最終更新:2025年12月 
 皆様、お疲れ様です。自閉症支援オンライン戦略研究室「Collaborate Lab」です。日々の支援の中で、ふと立ち止まって考え込んでしまうことはありませんか?「今は若い利用者さんたちも、いずれ年齢を重ねていく。その時、私たちはどんな支援ができるのだろう?」「最近、ベテランの利用者さんの様子が少し変わってきた気がするけれど、これは加齢のせい? それとも特性の変化?」
  私自身、現場で支援を続ける中で、こうした「自閉症と老化(エイジング)」というテーマは、避けて通れない大きな課題だと感じています。しかし、日本語で得られる情報はまだまだ少なく、手探りの状態が続いているのが現状ではないでしょうか。
 そこで今回は、私自身の学びを深めるため、そして同じ悩みを持つ皆様と情報をシェアするために、The INSAR Institute webinars 2024(国際自閉症研究学会)のウェビナーを拝聴しました。今回のテーマは、ズバリ「自閉症における老化」。英国キングス・カレッジ・ロンドンのフランチェスカ・ハッペ教授とギャビン・スチュワート博士による、非常に興味深いセッションでした。以下に動画や資料も公開されていますのでよかったらアクセスしてください。

https://www.autism-insar.org/page/Institute2024Session2

 正直なところ、英語のウェビナーにかじりつくのは骨が折れましたが(笑)、頑張って翻訳しながら確認しました。そこで語られた内容は、私たちの現場の「当たり前」を揺さぶるような刺激的なものでした。今日は、私がこの講義を受けて何を感じ、現場にどう落とし込んでいけばいいと考えたのか。私の個人的な「気づき」を中心とした受講レポートとして、皆様にシェアさせていただきたいと思います。あくまで私個人の解釈や感想が含まれますので、一緒に勉強会をしているような気持ちで読んでいただければ幸いです。今回は6065文字でした。


1.なぜ今、「高齢期の自閉症」なのか?

 講義の冒頭、ハッペ教授が提示されたデータを見て、私は改めて背筋が伸びる思いがしました。欧米諸国では急速に高齢化が進んでおり、人口の約40%が50歳以上だそうです。そして、自閉症の有病率を約1%と仮定すると、当然ながら高齢者人口の中にも相当数の自閉症の方がいらっしゃることになります。
 しかし、ここで衝撃的な事実が突きつけられます。「50歳以上の自閉症成人の約90%が、診断されていないか、誤診されている可能性がある」(※O’Nions氏らの論文に基づく推計として紹介されていました)

 90%です。この数字を聞いた時、皆さんはどう感じましたか?私は、自分の周りの環境を思い浮かべずにはいられませんでした。高齢者施設にいらっしゃる「ちょっとこだわりの強いおじいちゃん」や、「集団行動が極端に苦手なおばあちゃん」。もしかすると彼らも、ずっと生きづらさを抱えながら、適切な理解を得られずに年齢を重ねてこられたのかもしれません。
 なぜここまで研究や支援が遅れているのか。講義では、自閉症という概念自体が比較的新しいこと(1940年代〜)、そして長らく「子どもの障害」として小児科領域で扱われてきた歴史的背景が語られました。「大人の精神科医が自閉症を診ることに慣れていない」という指摘には、思わず頷いてしまいました。日本でも、成人の発達障害を診られる医療機関を探すのが大変な現状がありますよね。
 「子どもの支援には未来があるが、高齢者の支援には資金が集まりにくい」という現実的な課題についても触れられていましたが、ここでハッペ教授が力強く仰っていた言葉が印象的でした。「私たちは、60歳、70歳の自閉症の方のQOL(生活の質)も、子どもたちと同じように改善できると確信している」
 この言葉は、私たち支援者へのエールのように響きました。年齢に関係なく、適切な理解と支援があれば、人はもっと幸せになれる。その可能性を信じて研究を進める姿勢に、深く感銘を受けました。

2.年齢とともに「特性」はどう変わる?

 ここからは、具体的に紹介された研究データを見ながら、私が現場視点で考えたことを綴っていきます。まず一つ目の研究は、成人向けの診断クリニックを訪れた人々を対象にしたものです。ここで非常に興味深いデータが示されました。「年齢が上がるほど、自閉症の特性(AQ:自閉症スペクトラム指数)やこだわり(SQ:システム化指数)のスコアが高くなる傾向が見られた」というのです。

 ※「Autism Spectrum Quotient:AQ(自閉症スペクトラム指数)とは、成人および16歳までの若者の自閉症特性を評価する50項目の自己報告尺度です (Baron-Cohen 他、2001)。AQには5つのサブスケールがあり、それぞれが自閉症者の識別に関連する特定の特性を表しています。」

※「Systemizing Quotient:SQ(システム化指数)とはシステム化形式にあなたがどの程度興味を持っているかを評価するスコアを示します。システム化とは、システムを分析および調査し、システムの動作を制御する基本ルールを抽出するための意欲、およびシステムを構築する意欲です。」

 これはどういうことでしょうか?「年をとると自閉症の特性が強まるの?」と、少し不安に思う方もいるかもしれません。しかし、私はこの結果をもう少し多角的に捉えてみたいと思いました。講義の中でもいくつかの仮説が挙げられていました。
 一つは、純粋に加齢に伴って特性が顕著になる可能性。もう一つは、「自己認識(インサイト)の変化」です。長い人生の中で、自分自身の特性と向き合い、「自分はこういう人間だ」という理解が深まった結果、質問紙に対して正直に、より明確に回答できるようになったのかもしれません。
 また、現場の感覚として私が考えたのは、「環境の変化による適応力の低下」です。若い頃は体力や気力でカバーできていたこと、あるいは仕事という枠組みの中で構造化されていた生活が、定年退職や配偶者との死別などによって崩れた時。今まで隠れていた特性が、適応障害やうつといった二次障害を伴って表面化してくるケースです。記事を読んでいる支援者の皆様も、生活環境が変わった途端にガクッと調子を崩される利用者さんを見た経験があるのではないでしょうか。
 さらに、イギリスの医療事情として「高齢者が自閉症診断にたどり着くハードルが高い」という点も指摘されていました。つまり、よほど特性が顕著で困りごとが大きくないと、高齢になってから専門医に紹介されないというバイアスがあるのかもしれません。
 いずれにせよ、この研究から私が学んだのは「高齢期には特有の丁寧なアセスメントが必要だ」ということです。「年だから頑固になった」で片付けるのではなく、その背景に自閉症特性による困難さが隠れていないか。環境の変化が彼らの負担になっていないか。私たち支援者が持つ「メガネ」の解像度を、もっと上げていく必要性を痛感しました。

3.高齢期の幸福 ― その不思議なしくみ

 次に紹介された研究は、私にとってさらに驚きのあるものでした。
自閉症の「若年層(19-48歳)」と「高齢層(50-70歳以上)」を比較し、さらに定型発達者とも比較した調査です。
 一般的に、メンタルヘルスの問題(うつや不安など)は、自閉症者の方が定型発達者よりも高い傾向にあります。これは多くの研究で示されている悲しい現実で、今回の研究でも同様の結果が出ていました。しかし、「社会的QOL(友人関係やその満足度)」の項目に注目した時、予想外の結果が出たのです。定型発達者のグループでは、年齢が上がると社会的QOLの満足度が下がる傾向がありました。ところが、自閉症のグループでは逆だったのです。「高齢の自閉症者は、若い自閉症者よりも、社会的QOLに満足している」という結果が出たのです。
 これ、すごく面白くないですか?一見すると不思議に思えますが、講義の中での解釈を聞いて、私は「なるほど!」と膝を打ちました。若い頃は、「もっと友達を作らなきゃ」「集団に入らなきゃ」「普通に振る舞わなきゃ」という社会的なプレッシャー(ピア・プレッシャー)にさらされがちです。特に思春期から青年期にかけては、周囲との違いに悩み、無理をして適応しようとして疲れ果ててしまう当事者の方をたくさん見てきました。これがいわゆる「カモフラージュ」や「マスキング」による疲弊です。以下、私が書いたカモフラージュについての記事です。

 しかし、年齢を重ねるにつれて、そうしたプレッシャーから良い意味で解放されていくのかもしれません。「友達はたくさんいなくても、心許せる人が一人いればいい」「無理して飲み会に行かなくても、自分の好きな趣味に没頭する時間が幸せだ」このように、「自分らしくいる力」が強まり、自分にとって心地よい生き方を選べるようになる。それが、高齢期の社会的満足度の高さにつながっているのではないか。ハッペ教授たちはそう示唆していました。
 この話を聞いて、私はある高齢の利用者さんを思い出しました。その方は、若い頃は会社勤めで大変な苦労をされたそうですが、現在はグループホームで、大好きな鉄道模型に囲まれて暮らしています。口数は少ないですが、模型を磨いている時の表情は本当に穏やかです。私たちが「社会参加させなきゃ」「もっと行事に参加してもらわなきゃ」と焦ることは、もしかしたら彼らにとって余計なお世話で、彼らは彼らなりの「幸せの形」をすでに手に入れているのかもしれません。

 「支援のゴールは、定型発達と同じような生活をさせることではなく、その人がその人らしく心穏やかに過ごせること」そんな支援の基本原則を、この研究結果は改めて教えてくれた気がします。

4.この学びを、明日の現場にどう落とし込むか

 今回のINSARのウェビナーを通して、私は「自閉症の高齢化」というテーマに対し、不安だけでなく希望も感じることができました。では、明日からの現場で、私たちは具体的に何ができるでしょうか。私なりに考えたアクションプランを3つ挙げてみます。

① 「ライフヒストリー」を尊重する視点を持つ
 
高齢の利用者さん、特に診断がつかずにこれまで生きてこられた方々は、私たちが想像する以上に過酷な「適応への努力」を重ねてこられたはずです。もし今、頑固に見えたり、強いこだわりを見せていたりしても、それは彼らが混乱する世界の中で自分を守るために作り上げた「鎧」かもしれません。「困った行動」として対処するのではなく、「ここまで頑張って生きてこられた証」として敬意を払い、その鎧を無理に剥がさず、安心して緩められるような環境調整を心がけたいと思います。

② 「社会的成功」の物差しを捨て、「その人の満足」を探す
 
Study 2の結果が教えてくれたように、友達の数や活動の多さが幸福とは限りません。「もっと外に出ましょう」と励ますことが、時にはプレッシャーになることもあります。本人が何に安らぎを感じ、誰とのどんな距離感を心地よいと感じているのか。一人ひとりの「幸福の定義」を丁寧にアセスメントし、それを守る支援者でありたいです。

③ 変化に気づく「定点観測」を続ける
 
Study 1で触れられたように、加齢に伴う変化や環境変化は、特性の見え方に影響を与えます。認知症の初期症状なのか、自閉症特性の先鋭化なのか、あるいはうつ状態なのか。これを見極めるのは専門医でも難しいことです。だからこそ、普段接している私たち支援者が、「以前と比べてどう変わったか」という些細な変化を記録し続けることが、適切な医療や支援につなげるための命綱になります。日々の記録、やはり大切ですね。

5.おわりに:学び続けることの意義

 前回はTEACCH Autism Program🄬が研究してきたものになりますが、今回はイギリスでの研究になります。まだ最初の訳してまとめただけですが、とても興味深いデータや研究が出ています。どちらの研究からもわかることがあります。それは私たちの社会は急速に高齢化しており、自閉症者もその例外ではありません。しかし、高齢期における自閉症の実態は、まだ十分に理解されていないのが現状です。「高齢期の自閉症支援」は、世界的に見てもまだ始まったばかりの研究分野です。つまり、正解はまだどこにもありません。だからこそ、こうして最新の情報にアンテナを張りつつ、目の前の利用者さんから教わったことを積み重ねていく姿勢が大切なんだと思います。
 自閉症は子どもの障害ではなく、生涯にわたる特性です。高齢期の自閉症研究は始まったばかりですが、実装科学の体系的アプローチを通じて、エビデンスに基づいた支援を社会に定着させることができます。一人ひとりの特性と強みを尊重し、すべての年齢層の自閉症者が安心して暮らせる社会の実現に向けて、研究と実践の両面からの取り組みが必要です。

6.まだまだ続きます。

 私も同じ一人の支援者として、悩み、学び、試行錯誤の毎日です。でも、こうして学びをシェアすることで、皆さんの現場で「あ、これってそういうことだったのかも」という気づきのきっかけになれば、これほど嬉しいことはありません。
 今後もこうした海外の知見や最新トピックを、現場目線で噛み砕いて発信していきます。「一人で悩まなくていい」「学ぶことで視界が開ける」
そんな場所を皆さんと一緒に作っていけたらと思っています。次回も引き続き、INSARのウェビナーから高齢期に関するトピックをお届けする予定です。
 今回の記事を読んで、「自分の現場ではこんなことがあったよ」「高齢の方の支援でここが難しいんだよね」といった感想やご意見があれば、ぜひコメント欄で教えてください。皆さんのリアクションが、次の記事を書く原動力になります!
 最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。今回の記事が少しでも役に立ったと思ったら、スキやシェアをしていただけると大変励みになります!よろしければ、関係者の方にもご紹介いただければ嬉しいです。よろしくお願いいたします。

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