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#72「つけめん 大盛り」【博打打ちアマジの朝食】

 ……朝食は「朝、人を良くする」と書く。
 花見の人が往来し、普段は地元の人しかいない近所の通りも人が溢れかえっている。この時期特有である。桜並木がすごいので、こんなところまで人がやってきては、赤信号の横断歩道で立ち止まって写真を撮って、クラクションを鳴らされている。
 気温も高く暑いなと思って、食べる場所を探して彷徨ったが、肉の日だからか、お肉関係はほぼ行列だ。そんな中、並ばずに済みそうなタイミングで青葉が目に入り飛び込んだ。

青葉 つけめん 大盛り ¥1070-

 つけめんの大盛りだな。すんなり決まったのは暑いおかげだ。あっさりさっぱりスルッと食べたい。運良く座れたから、到着するのも早かった。ゆず唐辛子もお願いした。
 最初はつけ汁をあまり冷やさないようにと、そばを食べるように少しだけつけて一気にすする。細い麺というのもいい。小麦香るような麺の香りの後に、遠慮がちな酸っぱいしょっぱい味と、旨味をグッと握り込んだような塊が鼻腔を通過する。少し油を纏ってまろやかな感じがいい。浮いた花びらのような一味だろうか、時折刺激をくれて、箸がすぐ次の麺を持ち上げて、今度はとっぷり中に漬け込んだ。
 どんどんすすっては汁につけて、すすっては汁につけていく。止まらないのか、止められないのか判断はつかない。小麦の香りが本当にいい。つけ麺は割と太い麺が多いだろうが、こういう細いつけ麺も私はとても好きだ。少しだけのチャーシューもいい。メンマも頼りなさそうで必要な存在だ。
 半分くらいか、麺が無くなったところで、ゆず唐辛子を箸で摘む。麺に載せて、最初の時のように、少しだけつけてすする。
 柑橘感と刺激が小麦を制圧し、一気に突風を感じる。この瞬間がたまらない。冷えて味が強くなった汁もいい。この温かいところから冷たいところに行く過程、その冷たくなった先でのリカバリーまでが、青葉のつけめんの一連のストーリーだ。
 若いうちは熱量も多く、血気盛んな人間も、時間や経験へて、少しずつ味の強い深い人間になっていく。遡及できない時間の流れと変化に対して、一つアクセントになる刺激で、まるで戻ったかのような、いや戻る事はありえない、また新しい形に到達するのだ。
 ……朝食は「朝、人を良くする」と書く。
 あっという間に麺が終わって、私はつけ汁を割らずに飲み始める。冷えたつけ汁は味の輪郭がはっきりする。たまにお冷で口を直しながら、これまでどうやってきたのか小説でもなんでもいい、そういった類でその人の人生を感じるように、味わいながら飲み干した。

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