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2400年前、南イタリアの海辺の街で生まれた小さな銀貨の話


「イルカに乗る少年」で有名な街の、もうひとつの顔

古代ギリシャコインが好きな人なら、「タラス」という街の名前を聞くと、まず思い浮かべるのはイルカに乗る裸の少年の姿だと思います。
南イタリア・カラブリア地方、現在のターラント。かつてスパルタ人が海を渡って築いたこの植民都市は、地中海屈指の豊かな港湾国家として栄えました。
でも今回ご紹介したいのは、そのタラスの”もうひとつの顔”を見せてくれる一枚。
表と裏、どちらもギリシャ神話の主役級キャラクターが顔をそろえた、小さな小さな銀貨です。

表:兜をかぶった女神アテナ
コインの表側に刻まれているのは、知恵と戦の女神アテナ。
横顔でこちらを見つめる彼女は、当然のように立派な兜をかぶっています。
考えてみれば不思議です。
タラスの守護神は本来、海の神ポセイドンの息子とされる「タラス」という英雄でした。
それなのになぜアテナが表を飾るのか。
理由のひとつは、紀元前4世紀という時代背景にあります。この頃のタラスは、周辺のオスク人やルカニア人、そして台頭してきたローマとの緊張が絶えない、いわば”戦時下の都市国家”でした。
知略と武勇を兼ね備えたアテナの姿は、単なる装飾ではなく、「我々は戦う覚悟がある」という都市からのメッセージだったのかもしれません。

裏:素手でライオンを絞め殺す男
そしてこの銀貨、本当に面白いのは裏側です。
描かれているのはヘラクレスとネメアの獅子——ギリシャ神話最大のヒーローが挑んだ「12の功業」の第一関門。
矢も剣も歯が立たない魔獣を相手に、ヘラクレスは最終的に素手で首を絞め上げて仕留めたという、あの伝説の場面です。
小さな銀貨の裏面に、これほど劇的な瞬間を刻み込むセンス。
当時の彫刻師(ダイ・エングレーバー)たちの技術と物語性への情熱が伝わってきます。
わずか1グラムほどの銀の中に、神話の緊迫した一瞬が閉じ込められているわけです。


そもそも「ディオボル」って何?

このコインの額面は「ディオボル」。
これはドラクマ銀貨の3分の1にあたる、いわば当時の”小銭”にあたる単位です。
重さはたった1.05グラム。
有名なタラスのディドラクマ(イルカの少年)が大型で華やかな”顔役コイン”だとすれば、このディオボルは市場や日常の商取引で実際に手から手へと渡っていった、庶民の暮らしに根ざした一枚と言えます。
豪華な儀礼用ではなく、実用貨幣としての古代ギリシャを感じられるのが魅力です。


2300年生き延びた「使用感」

NGC Ancientsの鑑定では、打刻の状態(ストライク)と表面の状態(サーフェス)はともに5段階中5——つまり満点評価。
彫りの美しさやコインの地肌は非常に良好な状態です。
一方でグレード自体は「Ch F(チョイス・ファイン)」、つまり中程度にすり減った、流通感のある状態。これは裏を返せば、「打刻された瞬間はこんなに美しかった」ことと「その後、実際に長く人々の手の中で使われ続けた」ことの両方を物語る、なんとも味わい深い組み合わせです。

紀元前380年から280年ごろ——日本で言えばまだ弥生時代が始まる前後。
そんな途方もない時間を生き延びて、今こうして手元にある。
そう考えると、視覚的に伝わる金属の色味が少し違って感じられませんか。


古代ギリシャの神々と英雄が、掌サイズの銀の中に閉じ込められている——そんなロマンを感じていただけたら嬉しいです。


商品ページはこちら
このタラスのディオボル銀貨は、ショップにて販売中です。ご興味のある方はぜひご覧ください。

▼商品ページ
[https://antique-coin-aera.stores.jp]

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