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高次脳機能障害の認知機能訓練におけるVR活用の再定義とエビデンスと身体的負荷の創意工夫による調和模索



冒頭 本稿が導き出す3つの結論

① 脳卒中治療ガイドライン2025年改訂版が示すVR活用の高い根拠(エビデンス)を尊重しつつも、数値化できない「個人因子」や「環境因子」を優先して一人ひとりの生活文脈を阻害しない支援を構築する必要があるはずだ。
 
② 私達は11年前からバーチャルリアリティと高次脳機能障害のアプローチ検証をして浮き彫りとなった「眼精疲労」や「脳疲労」のリスクを直視し、2026年最新VR機器であっても身体的負荷を無視した安易な没入には懸念点がある。
 
③ メタ社の12兆円に及ぶ投資失敗とAIへのシフトから管理主義的な仮想空間の限界を学び、今後はAIによる個別最適化と現実を補完する「空間コンピューティング」を慎重に融合させる。
 

第1章:2025年最新ガイドラインと認知機能訓練の立脚点

脳卒中治療ガイドライン2025年改訂版において高次脳機能障害を含む全般的な認知機能障害に対する認知機能訓練は、大きな転換点を迎えている。
 
同ガイドラインでは全般的な認知機能障害に対して有酸素運動などの運動療法やコンピュータを用いた認知リハビリテーション訓練と並び、バーチャルリアリティを用いた訓練を行うことは妥当であると明記されている。

以前は、「注意障害に対して、コンピュータを用いた訓練、attention process training(APT)、代償法の指導、身体活動や余暇活動を行うことは妥当」という内容しかなかった。

Attention Process Training(APT)は、脳損傷や高次脳機能障害による注意障害(集中できない、切り替えられないなど)の改善を目的とした認知リハビリテーションプログラムである。

Sohlberg氏らによって開発され、「持続、選択、分配、転換」という注意の各機能を机上課題や聴覚課題を用いて段階的に訓練する手法である。

全般的な認知機能障害に対してという記載によって、コンピュータ脳を活用した認知機能訓練の根拠拡張が定義されたように感じた。
 
推奨エビデンスレベル高という評価は、臨床現場におけるバーチャルリアリティ活用の有効性が科学的な手続きによって裏付けられたことを意味している。

しかし、VR活用をした認知機能訓練や認知リハビリテーションを行っている医療機関はまだ多くはない印象がある。

2026年現在で、日本全国のVR活用認知機能訓練や認知リハビリテーションを実施する医療機関等の数は、数十〜百数十施設程度と推定されている。

つまり、バーチャルリアリティを活用した認知機能訓練や認知リハビリテーションは、普及途上段階にあると言える。

主力機器としては大阪大学発ベンチャーの株式会社mediVRが開発した医療機器「mediVRカグラ」(体性認知協調療法:SCCT)が国内で最も普及しているようだ。

仮想空間上で手を伸ばす(リーチング)動作を繰り返し、「姿勢バランス、二重課題型認知処理、運動機能」を同時に鍛えるものである。

「脳卒中後遺症、高次脳機能障害、パーキンソン病、その他の廃用症候群を起こしやすい疾患」などに、バーチャルリアリティは活用されるケースが多い印象だ。

2025〜2026年時点では「全国160以上」の病院や施設に拡大したとの情報あり、日本でも少しずつ増加傾向ではあるようだ。

内訳例(過去データ参考)としては、「リハビリ病院約49%、大学病院12%、デイサービス20%」となっている。

mediVR公式施設一覧では北海道から沖縄まで複数の「リハビリテーション病院、大学病院、介護老人保健施設、デイサービス」などが活用しており、数十施設規模を超えているようだ。

しかし、日本全体の「回復期リハビリ病院、デイケア」の施設数は数百〜千を超えるため、VR専用の認知リハビリ導入率はまだ10%未満程度と低く「まだ多くはない」というのが2026年の現状のようだ。
 
私達は11年前の2015年春からVRと高次脳機能障害の活用について模索を続けてきたが、当時の未成熟な技術環境においても仮想空間が持つ「安全な失敗の場」としての可能性を強く感じていた。
 
当時はまだヘッドマウントディスプレイの解像度も低くトラッキングの精度も不十分であったが、それでも仮想空間内では現実場面に似せたりできた。

しかし、2015年辺りはVRコンピュータゲームが多かった印象である。
 
2026年前現在では認知機能障害を持つ当事者が横断歩道の渡り方を反復して練習したり、スーパーマーケットでの買い物の手順をシミュレーションしたりするものが増えている印象はある。

ゲーム主体から日常生活場面のバーチャルリアリティが増えたことは、机上の紙ペン検査では得られない実在感をもたらす。
 
このようなシミュレーション環境の提供は日常生活動作(ADL)の再建や社会参加において、極めて有力な選択肢となり得る可能性を示唆している。
 
しかし、ガイドラインに記載された「妥当性」という言葉を鵜呑みにするのではなく、その背景にある膨大な論文がどのような条件下で成果を上げたのかを精査する必要がある。
 
最新の根拠知見や最新VR機器取り入れることは重要であるが、それが目の前の当事者にとっての正解であるかどうかを判断する責任は常に私達支援者の側に委ねられている。
 

第2章:エビデンス至上主義が覆い隠す個人因子の欠落

日本のガイドラインが示す高いエビデンスレベルは、多くの研究論文の積み重ねによって構築されたものである。

しかし、その論文の積み重ねと実際に治療を受けた高次脳機能障害患者や家族の「数値化された改善率」が個人の幸福と直結するとは限らない。
 
認知機能訓練の本来の目的はICF(国際生活機能分類)が定義するように、心身機能の回復だけでなく、「活動と参加やそれを取り巻く背景因子の最適化」にある。
 
私達が11年の歳月をかけて確信したのは根拠にこだわりすぎるあまり、利用者一人ひとりが持つ「個人因子、環境因子」を阻害してはならないという教訓である。

脳卒中治療ガイドラインにも、実際の臨床では患者の臨床像は不均一であることが強調されている。

すべての診療行為に十分なエビデンスがあるわけではなく、エピデンスのレベルが低くとも推奨すべき診療行為は少なくないことも強調されている。

つまりエビデンスは土台知見として知っておくが、不均衡な「個人因子、環境因子」を阻害してまで優先すると本末転倒になってしまう。

VR機器が眼精疲労や脳疲労を抑えるアップデートをしたもしても、あくまで根拠知見として「個人因子や環境因子」を踏まえて認知機能訓練に取り入れなければ逆効果になりかねない。
 
例えば、VRを用いた訓練によって注意力が10パーセント向上したというデータが得られたとしても、VR訓練プロセスが苦痛であれば意味がない。
 
そのVR訓練自体が当事者の趣味嗜好や人生観から乖離して過度な精神的ストレスを強いるものであれば、それは持続可能な支援とは呼び難い。
 
エビデンスはあくまで集団としての平均的な傾向を示す指標であり、目の前にいる高次脳機能障害当事者である患者や家族の豊かな人生経験や固有の価値観を上書きするものであってはならない。
 
更に特定の認知機能だけを切り出して訓練を行う「機能訓練」の側面が強調されすぎると、その人の全体像が見えなくなる危険性がある。
 
科学的な妥当性を追求する姿勢とその人の「生」の文脈を尊重する姿勢を、どのように高い次元で両立させるかが2026年以降の重要な課題となる。
 
私達は数値上のデータ(エビデンス)を、目の前の人間を理解するための「補助線」として使いこなす知恵を持たなければならない。
 

第3章:環境因子とメタバースの失敗から学ぶ空間の本質

メタ社が12兆円という驚異的な巨額資金を投じながら独自メタバース構想で苦戦を強いられた事実は、認知機能訓練における空間設計にも重要な示唆を与えている。
 
メタ社は自らがルールを支配するプラットフォームの構築を目指すあまりユーザーの自由な文化形成を制限し、管理主義的なクリーンすぎる空間を押し付けた。
 
結果としてクリエイターの離反を招いた広大な仮想空間には人影がなく、作成されたワールドの9割に誰一人訪問者がいないという深刻な過疎化を引き起こした。

根拠やルールに偏り過ぎる結果として、個人因子や環境因子が置き去りになって失敗する事例としても教訓となるケースだ。
 
認知機能訓練の現場においても専門職側が用意した「正解」や「ノルマ」のある仮想空間に当事者を当てはめるだけでは、真の社会復帰への橋渡しは困難になる。
 
私達が認知機能訓練の効果を決定づけるのは訓練室内の出来事以上に個人因子を土台とした上で、家庭や地域社会といった「環境因子」であると考えている。
 
VR空間という現実から切り離された隔離世界での成功体験が現実の騒々しく不規則な環境因子の中で通用するかどうかは、常に慎重に評価される必要がある。
 
ユーザーが望んでいない場所に企業が看板を立てても響かないのと同様に、当事者の生活実態に基づかない訓練メニューを仮想空間に並べても意味はない。
 
テクノロジーが提供する空間はあくまで現実世界での活動を豊かにするための「補完的な道具」であるべきであり、空間そのものが目的化してはならない。
 

第4章:11年変わらぬ懸念事項としての眼精疲労問題

私達が2015年から一貫して抱き続けている最大の懸念点はVR機器の装着がもたらす眼や脳などの身体的負荷、特に深刻な眼精疲労の問題である。
 
高次脳機能障害を抱える当事者の多くは視覚や聴覚からの情報の取捨選択が困難な状態にあり、不自然な視覚刺激の過多は健常者以上に脳の疲弊を招きやすい。
 
近年のVRハードウェアは解像度の向上やリフレッシュレートの改善により、いわゆる「VR酔い」を軽減させる驚覚的な進化を遂げている。
 
しかし、どれほど解像度が上がったとしても眼球から数センチメートルの距離にディスプレイを固定し、不自然な焦点調節を強いる光学的な構造に変わりはない。
 
私達は11年で進化した最新のVR機器を用いたとしても眼精疲労に起因する集中力の低下や、それによる認知機能訓練の効率の悪化というリスクを無視できないと判断している。
 
さらにヘッドセットの重量による首や肩への負担や装着時の閉塞感などは、リハビリテーションの継続意欲を削ぐ大きな要因となり得る。

2010年頃に発売された3Dテレビや任天堂3DSという携帯ゲームを購入しても、3D機能はあまり使われなかったケースに似ている。
 
認知機能訓練の効果を最大化しようと焦るあまり身体的な安全性を疎かにした3D機能やメタバース機能を活用することは、支援の本質に反する行為となりかねない。
 
どれほど優れたプログラムであってもそれが「身体を壊してまで行うもの」になってしまえば、その時点で治療としての価値を失う。
 
私達は技術の進歩を歓迎しつつ人体というアナログな存在が持つ「適応の限界」を常に意識し、運用のルールを厳格に定めなければならない。
 

第5章:脳疲労とブレインフォグへの悪影響を再考する

高次脳機能障害の支援において最も配慮すべき症状の一つに、疲れやすさ(易疲労性)や、思考に霧がかかったようになる「ブレインフォグ」の状態がある。
 
VR空間への没入は脳に対して極めて高い計算負荷を強いることになり、認知機能訓練のつもりが逆に症状を悪化させる引き金になる可能性を否定できない。
 
私達は長時間のVR利用が脳内の情報処理資源を急激に枯渇させ、訓練後の日常生活動作に支障をきたす事例を懸念して注視してきた。
 
特定の風景を投影して集中力を高める「視覚のヘッドホン」的な手法は健常な脳には有効かもしれないが、損傷した脳にとっては逆効果になることもある。
 
日常生活にあるノイズをカットするためのエネルギーさえも奪う過酷な環境になり得るからこそ、VR訓練の導入には細心の注意が必要である。
 
認知機能治療としてのVR活用を検討する際には実施時間や休憩の頻度を厳格に管理するだけでなく、高次脳機能障害患者の状態を客観的に観察する視点が不可欠である。
 
脳卒中を発症していない人でも長時間のVR活用は認知機能が霧に包まれるような状態を引き起こしてしまい、脳への過負荷がもたらすリスクは深刻になってしまう可能性もある。
 
根拠があるからといって一律に導入するのではなく、その日の体調や回復のステージに合わせた「引き算の認知機能訓練」を忘れてはならない。
 
脳が発する「疲れ」という微細な信号をAIコンピュータ脳やデジタルデバイスよりも先に、私達人間脳が察知することこそが支援の要となる。
 

第6章:2026年現在のAIシフトと個別最適化の融合

メタ社がメタバースから生成AIへと戦略の舵を大きく切り、2023年を「効率化の年」と宣言した流れは、支援の現場にも新たな技術的潮流をもたらしている。

マーク・ザッカーバーグが2023年を「year of efficiency(効率化の年)」と位置づけたのは、2023年2月1日の2022年第4四半期決算説明の場である。

この発言の前提としてMetaは2022年に大幅な株価下落と人員削減を経験し、2022年末の段階ですでに組織のスリム化を始めていた。
 
メタ社に限らず私達な現在は広大な仮想空間を構築することよりも、「ChatGPT、Claude、Gemini」などの急速にアップデートされている大規模言語モデル(LLM)を用いて、個別の特性に合わせた支援を生成することが日常生活に浸透してきた。

日本人なAI後進国と呼ばれているが、週ベースで考えると生成AIを活用している日本人は増えている。

公的統計では総務省の「令和7年版情報通信白書」で日本の個人の生成AI利用経験率は2024年度で26.7%と示されており 、民間調査でも2026年2月時点の15〜69歳の利用率は51%まで上がっている。

日常的に「毎日使う」に絞ると日本全体ではまだ2割前後、調査によってはそれ以下と見るのが自然である。

直近のドコモ系調査では生成AI利用者全体は2026年2月に51%でしたが、プライベートでの「対話・相談」を「ほぼ毎日」または「週1回以上」使う人の合計は22%という結果であった。

日本人はまだAIに人間脳を日常的に憑依させて、日常生活や社会参加の仕事や学業をしているとは言えない。

若者に限ると、毎日利用の比率はかなり上がっている。

たとえば20歳前後の調査では、「生成AIの使用頻度でほぼ毎日が25.6%、週に数日も30%あり、週1日以上の利用者は約70%」に達している統計データもあった。

高校生やZ世代(1997〜2012年頃までに生まれた人々)ではChatGPTが受験勉強や相談用途に深く入り込んでおり、利用率83.1%や84.7%といった高い数字も出ている。
 
私達はVRという「器」の中に日本人に浸透してきたAIによる動的な個別最適化(パーソナライズ)を組み込むことで、これまでの画一的なプログラムの限界を突破できる可能性を検討している。
 
例えば、注意障害の特性に合わせてAIがリアルタイムで情報の密度やノイズの量を調整し、当事者が達成感を得られる適切な負荷を維持するような仕組みなども面白いアイデアかもしれない。
 
これは単なる過去の論文データの適用ではなくAIという柔軟な知性を用いて、個人因子と環境因子の隙間を埋める動的な試みと言える。
 
2026年の最新トレンドにおいて自律型AIがブームとなっているが、AIコンピュータ脳は単なる自動化ツールではなく人間脳の認知を補完し拡張するパートナーとしての位置づけを強めている。
 
ただし、AIが導き出す「最短ルート」や「最適解」が必ずしも人間としての納得感や生活の質(QOL)と一致するとは限らない。
 
AIの出力を鵜呑みにせずそれをどう解釈し、どう現場に落とし込むかという人間脳による「最後の審判や編集力」がこれまで以上に重要になる。
 

第7章:空間コンピューティングと現実への還流

AppleのVision Proなどの登場により没入(VR)から現実融合(AR/MR)へと空間コンピューティングの概念がシフトしたことは、認知機能訓練にとって追い風となるかもしれない。
 
視界を完全に遮断して別世界へ連れて行くのではなく現実の風景の上にデジタル情報を重ね合わせる形式であれば、身体的な違和感をある程度軽減できる。
 
私達が重視しているのは仮想空間での認知機能訓練の結果がいかにして現実への「般化(応用)」を果たすかという、現実への還流プロセスである。
 
例えば、自宅のキッチンを透過機能で映しながらAIが調理の手順や火の消し忘れを視覚的にガイドする支援は、生活に直結した認知機能訓練として極めて実用的である。
 
12兆円という巨額の代償を払ってメタ社が学んだのは文化は金で買うことも強制することもできず、人々はルールの多い不便な仮想世界での会議を望まないという現実であった。
 
認知におけるテクノロジー活用も当事者を現実から引き離すのではなく、現実の荒波を乗り越えるための「拡張機能」として定義し直すべきである。
 
デジタルとアナログの境界線が溶け合う中でいかにして「現実感」を失わずに認知機能をサポートしていくか、そのバランス感覚が問われている。
 
道具としてのVRやAIを使い倒しつつも、最後にはそれらがなくても生きていける「人間の自律性」を育むことが私達人間脳の目指すべきゴールなのかもしれない。

「ClaudeCode、Codex、Cursor」などで、必死に自律型AIを個人が開発している2026年において、「人間の自律性」を育むことも考えていく必要があるはずだ。
 

第8章:多角的な分析と臨床的洞察の統合

複雑な課題を構造化してExcelでのデータ管理やPowerPointでの論理的な説明によって解決を導くアプローチは、高次脳機能障害の分析においても大きな力となる。
 
データによる定量的な評価は認知機能訓練の進捗を可視化し、当事者や家族に客観的なフィードバックを与える上で極めて重要である。
 
しかし、どれほど優れたデータ分析であっても、現場の臨床的な視点がなければ、それは血の通わない数字の羅列に過ぎない。
 
「数字に表れない当事者の表情の変化、リハビリ後に見せるわずかな疲弊のサイン、言葉にできない心理的な抵抗感」などを敏感に察知することに、私達人間脳の編集力としての価値がある。
 
私達はこの客観的なデータ分析(デジタル)と、主観的な臨床的洞察(アナログ)の高度な統合こそが、次世代の認知支援の核になると信じている。
 
ガイドラインが推奨するVR活用という手法を個別の人生という壮大な目的に合わせてカスタマイズするためには、高い情報活用能力と深い人間理解の両輪が必要である。
 
様々なVR活用やAI活用経験の中で培ってきた「何が本質で、何がノイズか」を見極める眼力を、最新テクノロジーのフィルターとして機能させなければならない。
 
最新の研究論文が示す「成功、根拠」という言葉だけに惑わされず、自分の手と目で確認した「事実」を積み上げることが不確実な未来における最善の戦略となる。
 

第9章:身体性の調律とオートファジーの教訓

長時間の空腹状態を維持することで細胞を浄化する「オートファジー」の考え方や内臓を温めて代謝を整えるといった身体管理の哲学は、認知機能訓練においても不可欠な土台である。
 
どれほど高度なVRプログラムや最新のAI支援を導入したとしても、受け手である当事者の身体コンディションが整っていなければその効果は期待できない。
 
私達は認知機能の改善を試みる前に、まずは「睡眠、栄養、疲労の管理」といった身体性の調律を最優先すべきであると考えている。
 
脳の可塑性を引き出して新しいネットワークを再構築するためには細胞レベルでの修復機能が健全に働いている必要があり、過度なデジタル刺激は時としてその修復を妨げる可能性もある。
 
認知機能訓練とは単に失われた「機能」を強化することではなく、今あるリソースを最大化するための「生命環境の整備」に他ならない。
 
VR活用の時間は一日の活動全体のバランスの中で慎重に配置され、身体的な回復時間を侵食しない範囲に留められるべきである。
 
メタバース研究者やAI研究者が説くように道具としてVRやAIを使い倒す一方で、身体としての自分を厳格に管理するという両輪が揃って初めてデジタル時代の波を乗りこなすことができる。
 
私達はデジタルテクノロジーという「知性の杖」を借りながらも魔法の杖では無いことを肝に銘じて、それを支える「身体機能、精神機能、認知機能、個人因子、環境因子」という土台を磨き続けることを忘れてはならない。
 

第10章:今後の展望:技術を手段に戻すための処方箋

高次脳機能障害の支援はこれからもVRやAIといった最新技術の恩恵を受けながら、さらなる進化を遂げていくことが予想される。
 
しかし、どのような時代になっても変わらない本質は、デジタル技術やコンピュータ機器やAI脳はあくまで「手段」であり主役は常に「人間脳」であるという点である。
 
私達は2025年改訂版ガイドラインの根拠知見を受け止めつつも、VR機器活用に対して11年前から抱き続けている「眼精疲労」や「脳疲労」への警鐘を決して緩めることはない。
 
エビデンスという光が強くなればなるほどその影に隠れがちな個人因子や環境因子、そして身体的リスクという「影」に光を当てる役割が求められている。
 
メタ社の12兆円の失敗は中途半端なデジタル技術や厳しいルールが人間の生活感覚や経済的な合理性から乖離したときに起こる悲劇を教えてくれたが、それは認知支援の現場でも起こりうることである。
 
私達は最新のAIトレンドを柔軟に取り入れながらも、当事者の微細な疲れや望みに寄り添う泥臭いまでの「個別性、環境調整」を追求し続けるべきだと考えている。
 
AIが文章を生成してVRが世界を再現する時代だからこそ、私達人間にしかできない「共感、価値判断」の重要性が一層増していく。
 
デジタルとアナログが溶け合う未来においてデジタル技術を真に人間脳へ血肉化として、誰もが自分らしい生活を取り戻せる支援の形を模索し続ける創意工夫が必要な時代である。
 
日々アップデートされるデジタル機器やAIアップデート変化を楽しみながらも決して変えてはならない「人間中心」の信念を貫き、新しい認知機能訓練の地平を切り拓いていく工夫が私達人間脳の可能性を拡大していくのではないかと考えている。

まずは今のあなたに残っている活用できる「GoodPoint」を、AIスピーカーにでも雑に話しかけることから始めることも認知機能を変える認知行動療法になるかもしれない。

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