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教育資金不足の限界を超えろ!上川町・太陽工業と共に、地域教育の現在と未来を考える|コエルワ特別鼎談

わたしたち株式会社コエルワ(以下、コエルワ)は、「どこからでもこえる社会をつくる」をミッションに掲げ、主に人口1万人以下の自治体を対象に教育事業を展開しています。

小規模な自治体で事業を行う際に、よくぶつかる壁。それは、教育資金確保が困難であるという課題です。私たちはこの壁を越える手段として、企業版ふるさと納税の活用に着目しました。自治体と寄付企業の協力のもと新スキームを作り上げ、寄付金を使って事業実施を遂行しました。

この記事では、新スキームの実施を振り返りつつ、「地域」と「教育」そして「企業」の繋がりがもたらす未来の可能性について、各組織を代表する三者が語りました。

三者のプロフィール

上川町町長 西木光英(にしき・みつひで)
上川町で生まれ育ち、1986年に上川町役場に入職。以降37年間に渡り、総務・税務・教育・財政・企画・商工観光・保健福祉の業務を経験。2019年から産業経済課長・企画総務課長を歴任し、上川町の主要施策の一翼を担う。2022年に総務課長就任、2024年4月に上川町長選挙当選。

太陽工業株式会社 執行役員 八木祥和(やぎ・よしかず)
1989年NEC入社、1996年博報堂へ転職。企業ブランディングとマーケティングに従事し、(公財)博報堂教育財団で経営改革や教育研究を推進。2020年より太陽工業で広報・マーケ統括、グループ全体のブランディングも担当。ほか、東洋大学非常勤講師、日本ビジネスモデル学会プリンシパルなど。

株式会社コエルワ 代表取締役CEO 阿曽沼陽登(あそぬま・きよと)
京都府生まれ岡山県育ち。北海道浜中町で酪農業に従事した後、宮城県で認定NPO法人カタリバの活動に参加。24歳で慶応義塾大学に入学し、在学中に小中高生向けの学び場を開設。卒業後、教育・研修事業を展開し、2018年世界経済フォーラムのU33 Global Shapersに選出された。2024年、株式会社コエルワ代表に就任。

鼎談の会場は北海道上川町の役場。進行は、コエルワ広報担当の太細が務めた。

関係性の原点は
ーー本日はよろしくお願いします。早速ですが、お二人は以前からコエルワや代表の阿曽沼と関わりがあったと伺っています。関係が生まれたきっかけを教えてください。

西木光英町長(以下、西木町長):コエルワの前身である、株式会社あしたの寺子屋時代からのお付き合いです。4年ほど前ですかね、町唯一の高校である上川高校が存続の危機を迎えており、高校魅力化プロジェクトを進めるという際にご協力いただきました。当時、僕は企画総務課長だったのですが、町全体のプロジェクトということで携わっていました。

阿曽沼陽登(以下、阿曽沼):微力ながらお手伝いさせていただき、その活動を機にご縁が深くなっていきましたね。その後も事業の実施や情報交換を継続的に行い、私自身にとっても足を運ぶ機会の多い地域の一つになっています。個人的には、ご一緒する中で、ビジョンの明確さと意思決定のスピード感に驚いたことを覚えています。

ーー八木さんはいかがでしょうか?

八木祥和執行役員(以下、八木執行役員):私と阿曽沼さんの関わりは3年前からです。太陽工業が100周年を迎えたことを機に、共通のオーナーを持つ企業を交えて「太陽グループ」としてのパーパスづくりを行うことになりました。そのプロジェクトに阿曽沼さんが参画し、約1年間ご一緒したことがきっかけです。

阿曽沼:私が個人で活動していた2019年から約5年間にわたり、太陽工業株式会社が属する太陽グループ各社の経営企画関連の取り組みに関わらせていただきました。八木さんは、前職の博報堂時代に博報堂教育財団で活動されていたご経験があり、教育分野に関する知見やネットワークをお持ちです。そうした背景もあり、経営と教育の両面からさまざまな意見交換をさせていただきました。

小規模自治体が抱える、教育予算のリアル
ーーお二人には、新スキームの実施にご協力いただいたのですが、まずは小規模自治体の教育資金の課題について触れたいと思います。コエルワは、北海道内20か所ほどの地域で事業を展開していますが、予算確保についてはどんな声が聞こえてきますか?

阿曽沼:大きく2つの意見を聞きます。一つは、人口が数千人規模の自治体では、若い世代が少なく、高齢者世代が多いという構造も相まって、教育に関する予算が他の分野の予算に比べて相対的に優先度が低くなりがちだということです。

もう一つは、国から支給される教育に関する補助金や助成金の多くが「生徒1人当たりの金額」に換算されてしまう厳しさを耳にします。地方では、対象となる生徒の人数が少ない上、例えば中心都市から外部講師を招こうとすると、移動費がかさむ。まとまった金額を確保できないことで、結果、教育施策の優先度を低くせざるを得ないという状況になっています。

西木町長:こうした問題は実際に起きています。町全体を見たときに、観光や一次産業への優先度が高くなるというケースも多いですね。国の補助金など財源を探して、少しでも予算を増やそうと動きますが、助成率の低さに悩むことも多々あります。

地方に多様な学びと人材を届けたい。しかし、その財源確保が難しい。そうした中で新たな財源確保の道を切り開くべく、コエルワは経済産業省「令和6年度学びと社会の在り方改革推進事業」の実証事業として、企業版ふるさと納税を活用した教育事業支援スキームの開発を行いました。

新スキームの仕組み

企業版ふるさと納税とは、国が認定した地方公共団体の地方創生の取り組みに対して、企業が寄付を行った場合に法人関係税から最大で約9割を税額控除する制度のことです。このスキームは、企業が自治体の教育施策に用途を指定して寄付を行うことを前提とし、企業と自治体、双方のニーズを叶えるマッチングを実施しました。

コエルワの教育事業「まなび場」がこの対象となり、北海道上川町・南幌町・比布町に太陽工業株式会社が、標津町にCiXホールディングス株式会社が寄付を行いました。

さらに、これまで課題とされていた「制度のわかりづらさ」を解消するため、手続きを簡素化するマニュアルも開発。こうした取り組みにより、企業版ふるさと納税を活用した教育支援事業の実施ハードルを大幅に下げることに成功しました。

教育事業「まなび場」の価値
ーーー上川町では、2022年から年に1回まなび場を開催していて、嬉しいことに参加者の満足度も非常に高い結果となっています。そうした中、今年度は寄付金を活用して開催させていただくことができました。西木町長はどのように受け止めていますか?

西木町長:子どもたちにとって、本当に良い経験になったと思います。小規模自治体では、日常的に大学生と出会う機会が多いとは言えず、どうしても触れられる選択肢が限られがちです。多様な大学生との対話やアドバイスは、将来に向けて色々な選択肢を芽生えさせたのではないでしょうか。改めて、この度のご寄付に感謝を申し上げます。

ーー八木さんは「まなび場」をどのように感じますか?

八木執行役員:子どもたちにとって、貴重な経験になっていると感じます。今はインターネットで多くの情報を得られる時代ですが、実際に大学生など多様な人と向き合い、自分のことを考えながら言葉にする体験には、特別な価値がありますよね。

八木執行役員:実は地方出身の私自身、進路にまつわる経験があります。当時、地域の中でも勉強は比較的得意なほうで、高校受験前、塾の講師から「県内トップクラスの進学校に挑戦しては」と声をかけていただきました。期待を胸に担任に相談しましたが、「この地域から挑戦するのは難しいだろう」と言われ、その言葉を受け止めて別の学校を選びました。今振り返ると、「無理かどうかは、やってみないと分からなかった」と思います。

この事業の話を聞き、自分の経験がよみがえりました。地域の子どもたちが多様な大人と出会い、自分の可能性を選び取っていく。そんな機会が生まれていることを、寄付者として心強く感じています。

阿曽沼:ありがございます。今回はこれまで以上に中学生の参加が多く、少し早い段階で自分の人生について考える時間をつくることができました。参加する大学生や地域の皆さんにも、「自分が中高生の頃にこんな場があればよかった」と感じてもらえるような機会を引き続き提供していきたいと思います。

寄付の先にある、パーパスへの思い
阿曽沼:今回のスキーム活用にあたり、企業版ふるさと納税について企業の方々と対話を重ねる中で、「寄付の意義やメリットが見えづらい」という声を耳にすることもありました。八木さんは、企業が地方自治体に寄付を行うことの意義をどのようにお考えでしょうか。

八木執行役員:企業はそれぞれの事業を通じて、未来の社会をより良くしたいという思いを持っていると思います。寄付は、その思いを形にする手段の一つだと捉えています。

弊社グループでは数年前、「世界を、やわらかく。未来を、あたたかく。」というパーパスを掲げました。弊社が手掛ける「膜材」を活用した建築空間は、やわらかな光を取り込み、人々の気持ちをふっと解きほぐし、場の空気をやさしくあたためます。そこから自然に会話が生まれ、交流が深まり、共創が動き出す。私たちはこの体験を、社会へも広げていきたいと考えています。

一人ひとりの個性や力がのびやかに発揮され、それらが出会い、交わり、共に育ち合うことで新しい価値が生まれていく——そんな、やわらかくて、あたたかい未来をつくるために、このパーパスを掲げています。

ただ、自社の事業だけでパーパスを実現できるわけではありません。近い理念を持つ自治体や団体と協業・支援を行うことも、その実践の一つです。寄付もまた、パーパスを社会の中で具体化していく選択肢だと考えています。特に企業版ふるさと納税は、協業の入口にもなり、企業側の実質負担も抑えられるため、取り組みやすい制度だと感じています。

阿曽沼:寄付をお願いするにあたって、単にメリットを伝えるのではなく、企業がどのような未来社会を描いているのか、そして私たちの事業がそこにどう寄与できるのかを丁寧に考えることが大切だと改めて感じました。

ーーこうした動きは、多くの企業に通ずるものだと捉えますか?

八木執行役員:最近、多くの企業がパーパスを掲げていますよね。それは単なる流行ではなく、企業が社会の中でどのような存在であり続けるのかを問い直す動きだと感じています。弊社に限らず、パーパスを具体的な行動に落とし込む一つの方法として、寄付を選ぶ企業は今後も増えていくのではないでしょうか。

「思いを重ねた先にある」企業との架け橋づくり

ーー制度の普及が進む一方、行政側の体制やノウハウに課題を感じる自治体も多いと聞きます。そうした中で、企業版ふるさと納税に取り組む自治体にとって、本質的に大切な視点はどのようなものだとお考えでしょうか。


西木町長:制度を先に考えるのではなく、関係性を育てることが出発点だと思います。町の関係人口を増やしていき、まちづくりに新たな風を吹かせることは大切なのではないでしょうか。私たちは、上川町と関わることによって感動する人=「感動人口」を増やすことをミッションとし、まずは東京に職員を送り出しました。

そこでつながった方々が実際に町を訪れ、地域の人との交流が生まれ、協業が始まる。さらに、町職員の熱意に共感した企業の方が、別の企業を紹介してくださる。そうした連鎖が少しずつ広がっていきました。人と人がつながり、感情が動き、「一緒に何かをやろう」と思いが重なった先に、企業版ふるさと納税という選択肢が自然と浮かび上がってくるのではないかと感じています。

阿曽沼:私も共感します。とりわけ寄付は、明確なリターンが約束されるものではありません。だからこそ最終的には「誰と取り組むのか」という信頼や熱意に紐づく側面が大きいと感じています。今回、太陽工業様に上川町をはじめとする自治体をご紹介する際も、現場で本気で動いている方々の姿が思い浮かびました。制度や数字以上に、「この人たちとなら」と思える関係性が土台にあるのだと思います。

八木執行役員:企業としても、自分たちの事業だけでは実現できないパーパスを達成したいと思うからこそ、それが人と重なり、きちんと実現できるかという要素は大切になりますね。

ーー関係性が土台にあるというお話でしたが、その上で、企業側がより意思決定しやすくなるために自治体が意識できることはありますか。

八木執行役員:寄付によって、町や人にどのような変化が生まれるのかは、やはり気になります。規模の大小にかかわらず、具体的な成果やエピソードが可視化されていると、社内での説明や合意形成が進めやすくなります。思いに加えて、その先にある変化まで共有してもらえると、より前向きな議論につながると感じます。

地域は、企業にとっても学びの舞台に
ーー寄付という形に限らず、上川町は、企業と連携しながら多様なプロジェクトを生み出してきました。協業を進める上で、大切にしていることは何でしょうか。

西木町長:近年、東京一極集中からの転換が進み、地方への関心が高まっていると感じます。その中で私たちは、「上川町ならではの価値は何か」を問い続けてきました。幸いにも、本町には雄大な自然がもたらす豊かな資源があります。水や空気、森林といった環境資源はもちろん、それらを土台にした産業や暮らしそのものが私たちの強みです。

経済産業だけでなく、福祉や子育てといった分野も含めて、「この町だから実現できること」を丁寧に伝えてきたことが、現在の企業連携につながっているのではないかと思います。

八木執行役員:よくわかります。企業にとっても、地域との交流は大きな学びの機会になると思っています。例えば、人との関わりの中で生まれる「熱量」を社員が育む機会に繋がるなどですね。私たちのBtoBビジネスは、どうしても意思決定がロジカルになりがちです。しかし、先の話題にも上がったように最終的に人を動かすのは、情熱や「一緒にやりたい」という思いですよね。地域での体験や対話は、社員の感性を刺激し、そうした“熱”を育む場になると感じています。

阿曽沼:そうした取り組みは、企業の成長にも繋がるのでしょうか?

八木執行役員:はい。例えば、企業にとって重要なテーマの一つである新規事業開発にもつながる可能性があります。普段とは異なる立場や価値観を持つ人と関わることが、新しい発想の種になります。

自治体や学校は、企業にとっては日常業務とは距離のある存在です。だからこそ、利益だけにとらわれない対話が生まれ、そこから新たなアイデアや視点が育まれる。社員の発想力や視野が広がることは、結果として企業の中長期的な価値向上にもつながるのではないかと思います。

支援を“続くもの”にするためには
ーー今回のスキームを含め、教育支援の輪を広げていくために、それぞれのお立場でできることはどんなことでしょうか?

西木町長:町の課題は、行政の力だけでは解決しきれないものが多くあります。だからこそ寄付や協業という形で力をお借りするのですが、大切なのは「一緒に課題に向き合う姿勢」を示すことだと思っています。

私たちはこれまで、町の自然や環境を生かした具体的な事業を提案しながら、企業との信頼関係を築いてきました。自治体が受け身になるのではなく、主体的に提案し、ともに動くこと。それが結果として、支援の輪を広げる鍵になると考えています。

八木執行役員:私は、取り組みを継続・横展開するための「仕組み化」が極めて重要だと考えます。企業でも自治体でも、数年経てば人事異動で担当者が変わります。個人の熱意だけに依存すると、取り組みは途切れてしまいます。だからこそ、誰が担当しても続けられる型やプロセスを整えておくことが不可欠だと感じます。

ーー最後に、教育事業者として取り組むべきことについて教えてください。

阿曽沼:まず、財源を見据えた事業設計を行うことが何より大切だと思います。教育市場が大きくないのであれば、助成金や補助金に目を向け、企業にも力を借りる。このように熱意と意識を持って向き合うことが必要です。
さらに重要なのは、教育業界の言葉だけで語らないことでしょうか。企業にも伝わる言語で、事業との接点や合理性を丁寧に言語化することが欠かせません。寄付や協業が、企業にとってどんな意味を持つのかを明確に示すことが大切です。

そのうえで、まちへの誇りや高校の存続、地域の活気といった「合理性を超える価値」も同時に生み出していく。その両立こそが、教育支援を持続可能にする鍵だと考えています。

ーーありがとうございました。

コエルワは、企業版ふるさと納税を活用した新スキームについて、寄付先選定から入金までの効率的なコミュニケーション・業務プロセスの設計 ・マニュアル化を行い、マニュアルを活用した企業版ふるさと納税の実行支援を行っています。ご相談やご依頼は、弊社までお問い合わせください。

【取材場所】北海道上川町役場
【作成チーム】太細真弥|福井 由峰|南小春 
【写真】大類日和

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