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【ショート&MV】 もう少しだけ—Fireworks over the Water—|あの日の選択Ver.

※本作は以前公開した作品の再投稿です。


―― short story ――

『あ』

肩がぶつかる。人混みの中でよろけると腕を掴まれた。

「……すみません」

大きな手に腕を引かれると、
転びそうになったのを支えてくれたのだと分かる。

「……こちらこそ、余所見してしまって」

手が離れると、頭を下げる。
すると、上から声が落ちる。

「佳奈ちゃん?」

懐かしい低い声。
顔をばっと上げて、相手の顔をまじまじと見る。

「先生」

高校の時の、家庭教師だった人だ。
少し目を見張ったまま、ゆっくりと近づいてくる。

「久しぶりだね……大人っぽくて分からなかった。」

口元に笑みが浮かぶ。
花火が上がって顔がよく見えると、思わず唇を噛んで、俯く。
体の中から規則的な音が強くなると熱が顔に集まって、浴衣の裾を握る。

「……ひとりなわけ、ないよね?」

言われて、急に周囲の喧騒が耳に入る。
肩の力が抜けると、ようやく頭が回ってきた。

「連れと、離れてしまって……」

「そうだよね。俺もなんだ。……連絡取れてる?」

浴衣に揃えた小さな巾着の中のスマホを握る。

「……はい。会場の入り口に集合って」

人混みがすごくて、入り口の看板が見えなかった。
でも、方角は何となく分かる。さっき、一緒に通ったから。

「そうなんだね。危ないから、一緒に行こう」

手を差し出されると、息がしづらくなる。

「……先生は、待ち合わせしてないんですか?」

「あぁ、友達と来たから、みんなで楽しんでるでしょ。あとで、合流するから平気だよ」

気楽そうに言うと、私に手が伸びる。

『――引っ越しするんだ。ごめんね。今日で最後になる。』

なぜか、最後に会った日のことを思い出す。

「……佳奈!」

胸が跳ねる。
肩を引かれると、熱い手とフライドポテトの匂い。
……匂いだけじゃなく、目の前にフライドポテトがあった。

「だから、手を繋げって言っただろ!」

仰ぎ見ると私の連れが眉を吊り上げている。
呼吸が、楽になる。

「……佳奈ちゃんの彼氏さん?」

はっとして、振り向くと先生の手は頭を掻いていた。

「……だれ?」

頭の上から、いつもの声がする。

「高校の時の家庭教師の先生。転びそうなところを助けてくれたの」

すらすらと言葉が出る。
突然、フライドポテトを私に押し付けると、礼儀正しく腰を曲げる。

「佳奈がお世話になりました。」

目が点になる。
……悪いものでも食べた?

「……こちらこそ」

先生は驚いた顔をしていたけど、すぐに笑った。

「じゃあ」

征斗は踵を返して数歩歩いてから、また戻ってきて私に手を差し出す。
私は先に先生に頭を下げると、笑ったまま手を振ってくれた。
見つめていると、腕を引かれる。

「あ……」

「またね」

——先生は嘘をつく時の顔をしていた。


「ほれ」

また、手を差し出される。人混みがすごかった。
私の小指を征斗の小指に絡める。

「……おい」

「だって……」

……手汗がばれちゃう。
じめじめとした空気が憎い。
俯くと、ため息が聞こえて小指に力が入る。

横に並ぶと、私の持っているフライドポテトを一本取って口に入れた。

「うま」

「ずるい」

小指が離れない。引っ張る。離れない。

「口開けろ」

「やだ」

面白がっている征斗を睨む。
指が離れると、ポテトを口に入れる。塩味が広がると元気が出てくる。

「おいしい」

もう冷たかったけど。

屋台がずらっと並ぶ場所に来ると、喧騒が大きくなる。

「レモネード飲みたいんだろ」

「うん」

人にぶつかりそうになると、征斗が私の肩を抱き寄せて助けてくれる。
売っている屋台を見つけて並んでいると、まだ、夏でもないのにじんわりと汗が浮かぶ。見上げると、花火が次々に上がっていた。
レモネードを受け取ると、少し遠いけど人気のない土手に行って座る。
ストローに口をつけると、甘酸っぱい味が塩味を消してくれる。

「もう少ししたら、車が混む前に帰ろうぜ」

「うん。そうだね」

征斗を見る。
花火を眺めている姿を見ていると、
さっきの『お世話になりました』しか思い出せない。

思わず口元が弛む。

……ちゃんと、うれしい。

そのことが、花火よりも素敵だった。

助手席に乗ると、途端に足の裏が痛くなる。慣れない下駄は辛い。
シートベルトをつけて、征斗がナビをセットする。花火はまだ上がっていて、窓越しに外を見つめた。

「これ、飲んでいい?」

氷が溶けて、薄まった飲みかけのレモネード。

「うん」

口に運ぶ。
ふと目を上げる。
空に大輪の花が咲く。

——この時間がずっと終わらなければいいのに。

「……もっと、一緒にいたいな」

不愉快な効果音がすると、レモネードが車のハンドルに散らばる。

「……きったな。」

「……」

ハンカチを取り出しながら、

笑った。









こちらの企画に参加しています🌿

登場人物たち、それぞれの選択をお楽しみいただけましたら幸いです。


VOIDさんの記事に触発されて物語ですが、再投稿したいと思いました☺️
皆さんも記事をご覧になって、祭りの夜に見た『忘れられない景色』を伝えてくださいね✨

それでは、また、どこかの物語で🌿

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