【ショート】 呪い ――動けない春
―― short story ――
降り止まない雪の地で、王は結界を張り続けていた。
ある日、少女はこの地へやってきた。
働き口を探して。
少女はいつも静かで、必要なことしか話さなかった。
その優しさは施す形を取らない。
ただ、相手の余白を侵さないだけだった。
王は、それに心を奪われた。
剣でも結界でも埋まらなかった場所に、
彼女は触れずに座った。
ある夕方、少女が城壁の外を長く見ていた。
遠く、旅人の焚き火が揺れている。
王は、その視線の向きを見た。
「……外へ、行きたいか」
少女は首を振らなかった。
肯定もしない。
その曖昧さが、王には痛かった。
その夜、王は呪いをかけた。
——心が他へ向いた瞬間、身体は動かなくなる。
罰ではない。
——留め金だった。
翌日、少女は庭で立ち止まった。
風が吹いても袖が揺れない。
王は遠くから、それを見ていた。
「……動けません」
少女は困った顔をしなかった。
責めもしない。
ただ、空を見上げる。
「春ですね」
王は近づいた。
呪いの条件を告げることはしなかった。
告げれば、彼女は解除のために動くだろうから。
——これでいい。
王は笑った。
日がいくつか過ぎた。
少女は城の中で、同じ場所に留まり続けた。
王は彼女を世話し続けた。
そして、安堵していた。
「王様」
呼ばれて、彼は初めて気づく。
彼女の心は、誰かへ向いたのではない。
ただ、外の世界を見ただけだった。
少女は静かな目をしている。
解除の方法は——
王は躊躇した。
それは、所有になる。
彼女の静けさを、壊す行為だった。
少女は一歩も動けないまま、待っている。
王は鈍い痛みを抱えたまま、くちづけた。
短く、確かめるように。
——呪いは解けた。
少女は何事もなかったように歩き出す。
「ありがとうございました」
礼だけを残して。
その背を、王は追わなかった。
追えなかった。
呪いが解けたのは、彼女ではない。
王のほうだった。
以後、王は二度と人を縛らない。
静かな優しさに触れた者は、
縛らずとも、動けなくなることを知ってしまったから。
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